自分史
-
下町の子ども時代
戦争が終わったばかりの下町で育った。紙芝居と貸本屋が、最初の物語の入口だった。
-
空手に出会ったころ
十代で空手を始めた。礼に始まり礼に終わる稽古と、強い者ほど手を出さないという教えに、いまも従っている。
-
スクリーンに恋したころ
『ローマの休日』
十代で観て、初めて恋をした。相手はスクリーンの中の人。同じころ石原裕次郎の映画に夢中になり、肩で風を切る歩き方をまねた。
-
宇宙に飛び出したころ
『レンズマン』
本屋で見かけた翻訳のSFを手に取った。銀河をまたぐ善と悪の戦いに、道場で教わる勧善懲悪が重なった。古典好きの意外な一面は、ここから始まった。
-
道場を開いたころ
『男はつらいよ』
下町に小さな道場を開いた。稽古のあと弟子と映画館へ行き、寅さんの旅に笑って泣いた。自分もいつか、ふらりと旅に出る人になろうと決めた。
-
日曜の夜に正座したころ
『独眼竜政宗』
四十代の終わり、毎週日曜の夜はテレビの前で正座した。勝つための策と、守るべき筋。その両方を持つ大将に、道場の運び方を学んだ。
-
いま
『昭和元禄落語心中』
八十を過ぎても毎朝道場に立つ。エマには型を、若い弟子たちには礼を教え、空いた日はふらりと旅に出る。弟子に勧められた昭和元禄落語心中で泣いたことは、内緒にしている。



