日常

放課後と水泳部とロボットのアニメ

ネタバレの範囲 ネタバレなし アニメ『ゼーガペイン』の始まりの設定(舞浜の高校生キョウが廃部しかけの水泳部を立て直そうとするなか、シズノという少女に誘われて人型ロボットに乗り、敵と戦う。戦いの世界をゲームの中の世界だと思っている)と、制作・放送、のちの劇場版まで。世界の秘密と物語の行方には触れません

シリーズ『わたしだけの推し』。深夜のゲームのマッチング待ちのあいだ、クロがめずらしく自分からアニメの話を始めた。主人公は、廃部しかけの水泳部を立て直したい高校生。顔も声も知らないミコだけに打った、クロのひそかな一本です。

こんな人に
ロボットの見分けはつかないけれど、放課後のプールの空気が好きな人へ。夜中にゲームの待ち時間がある人にも。
話している人
クロ × ミコ
チャット 二人だけのチャット(同じゲームのロビーで待機中) 十月の土曜、深夜

いつもの深夜のゲームは、マッチングがなかなか決まらなかった。ロビーの待機画面のまま、ミコとクロのチャットだけが動きはじめる。二人は一度も会ったことがない。顔も声も知らないまま、何時間も同じ画面を見ている。

ミコ

待ち、長い

……ん

既読
クロ

待ってるあいだに、一本、話していい? アニメ

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クロ
ミコ

珍しい。クロからアニメの話振ってくるの

『ゼーガペイン』

既読
クロ
ミコ

知らない。ロボット?

ロボット。サンライズのテレビアニメ。俺の周りで観てるやつ、ミコ含めてゼロ

既読

2006年4月6日からテレビ東京系で放送

クロ
ミコ

いや、私を周りに入れないで。まだ観てない

草

既読
クロ

主人公はキョウって高校生。舞浜っていう町に住んでて、廃部しかけてる水泳部を、なんとか立て直そうとしてる

既読
クロ
ミコ

ロボットの話なのに、水泳部

そう。主人公は、部員を集めたくて必死なんです

既読
クロ

で、そこにシズノって女の子が出てくる。キョウは彼女に誘われて、ゼーガペインっていう人型のロボットに乗って、ガルズオルムっていう敵と戦うことになる

既読
クロ
ミコ

急にロボット

急にロボット。で、ここが俺の好きなところなんですが

既読
クロ

キョウは、その戦ってる世界を、ゲームみたいな世界だと思ってる

既読
クロ
ミコ

……それ、クロじゃん

自覚ある

既読
クロ

ゲームでいうと、ロビーで待ってる間に、もう一つ別のゲームが始まるやつ

既読
クロ
ミコ

いまの私たちじゃん

了解。そういうこと

既読
クロ
ミコ

で、どこが好きなの。ロボットのかっこよさ?

ロボットもいい。でもいちばんは、放課後の時間の描き方です。水泳部とか、プールとか。なんでもない日が、なんでもないまま、ちゃんと描いてある。観終わったあと、自分のなんでもない日を、少し丁寧に覚えておきたくなった

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クロ
ミコ

クロが『丁寧に』って打つの、初めて見た

……ん

既読
クロ
ミコ

私に放課後の話を勧めるの、わざと? 私の好きなアニメ、部屋から出ない人の話ばっかりなんだけど

わざとじゃない。……いや、ちょっとわざと。ミコは、部屋から出ない話の中の、窓の外の描き方をいつも見てるから。このアニメは、その窓の外が全部描いてある

既読
クロ
ミコ

……そういうとこ見てるの、やめて

了解。やめない

既読
クロ

観たのは、一日二話ずつ。一気に観るつもりだったけど、プールの場面で止めた。水の音が、ヘッドホンの中でずっと鳴ってて、続けて観るのがもったいなくなった。ゲームのセーブポイントみたいに、一日の終わりをそこに置いてた

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クロ
ミコ

クロが一気見しないの、珍しい

それな。自分でもびっくりした

既読
クロ
ミコ

一日二話って、どうやって止めるの。私、止まれない人

止める回を先に決める。決めたら、そこで猫のおやつを出す。出したら、もう再生しない

既読
クロ
ミコ

それ、ルールが猫ありきじゃん

猫は関係ない。……うちの近所の話

既読
クロ
ミコ

重い話? 私、重いのは平気だけど、重いふりのは苦手

重いところはある。でも、ふりじゃない。これ以上は言えない。中身に触ると、入口が死ぬ

既読
クロ
ミコ

そこなんだよ。中身を言わずに、言える範囲でどこまで面白そうにできるか

いま、それをやってる。採点して

既読
クロ
ミコ

六十点。水泳部のとこで、ちょっと上がった

低い

既読
クロ

残りの四十点は、観たあとにミコがつけて。俺の説明の点じゃなくて、作品の点

既読
クロ
ミコ

そういう言い方、ずるい

ずるくない。正直

既読
クロ
ミコ

ロボットのとこで下がった。私、ロボットの見分けがつかない人だから

見分けはつかなくていい。キョウが乗る機体は一機だけ覚えればいい。アルティールっていう名前

既読
クロ
ミコ

アルティール。名前は好き

ミコに言ったのは、顔を知らない相手に勧めたかったから。顔を知ってると、その人の好みに合わせて話を曲げる。ミコには、曲げなくていい

既読
クロ
ミコ

……それ、褒めてる?

たぶん

既読
クロ
ミコ

じゃあ私も曲げずに観る。ロボットの見分けがつかないまま

それでいい

既読
クロ

あと、何年もあとになって、映画も作られてる。テレビを観たあとに、続けて観られる

既読

劇場版は2016年10月と、2024年8月(『ゼーガペインSTA』)に公開

クロ
ミコ

そんなに時間がたってから映画になるの、好かれてる証拠じゃない

好かれてる。俺の周りにいないだけ

既読
クロ
ミコ

笑えば?

草

既読
クロ
ミコ

……で、私は何話まで観ればいいの。そこで止まって話すんでしょ、いつもの

キョウが最初にロボットに乗るところまで。そこで止まって、連絡して。中身は、そのとき話す

既読
クロ
ミコ

了解。って、クロの言葉うつった

(猫のスタンプ)

既読
クロ

マッチングが決まった。ロビーの画面が切り替わる直前、ミコはメモ帳のアプリを開いて、題名と、アルティール、とだけ打った。クロの側では、チャットの欄に、もう一行だけ残っていた。

観たら、水泳部のとこから話そう。乙

既読
クロ

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