わたしの6選

『鉄血のオルフェンズ』の傷をなぞる

泥と油にまみれた子たちが、ボロボロの機体で自分たちの居場所を守ろうとする。父と弟の大会の手伝いのついでに観はじめて、気づけば模型の作業机に戻っていた。汚し塗装のモデラー、ユナが6選の一本目を語ります。

こんな人に
ロボットアニメの、傷だらけの機体が好きな人へ。重たそうで手が出なかった人にも。
ネタバレの範囲
ネタバレなし テレビアニメ『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』の始まりの設定(火星の少年兵たちが会社を自分たちのものにし、少女の護衛を引き受ける)まで。その先の展開と結末には触れません
話している人
ユナ × タカシ
主張の種類: 事実 作中の観察 根拠のある推測 解釈 好み
目次 全9節・約5分
  1. 大会の手伝いのついでだった
  2. 火星の子どもたちの話
  3. 好きなところ1 機体が削れていく
  4. 好きなところ2 戦ってない時間
  5. 好きなところ3 三日月の迷わなさ
  6. タカシさんは向こう側を見てた
  7. 泥は帰ってきた印
  8. 重たそうで迷ってる人へ
  9. 6選のほかの作品と

6選の一本目は『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』。泥と油の中で、削れた機体に乗った子たちが、家族みたいな居場所を守ろうとする話。離れてた模型の作業机に、あたしをもう一回座らせたアニメ。

大会の手伝いのついでだった

観はじめたきっかけは、ぜんぜんかっこよくない。仕事でへこんでたころ、父さんと弟が模型の大会に出るっていうから、作るのを手伝うことになった。そのときに「これくらい観とけ」って渡されたのがこれ。十代の終わりから、模型の箱はずっと押し入れの中で、ロボットアニメの記憶も子どものころで止まってた。だから最初は、宿題みたいな気分で再生ボタンを押した。好み

一話だけのつもりが、止まらなかった。気に入った場面で一時停止して、機体の脚のあたりをスマホで撮る癖がついたのも、たぶんこのときから。バルバトスを塗ってた週は、爪まで同じ色にしてた。爪を塗るのは昔取った杵柄で、そっちの腕はいまでも落ちてない。好み

火星の子どもたちの話

舞台は火星。民間の警備会社で働く少年兵の三日月・オーガスたちが、独立運動の先頭に立つ少女クーデリアを地球まで送り届ける仕事を引き受けるところから始まる。準備の途中で会社が襲われると、大人たちは子どもたちを置いて逃げてしまう。子どもたちの隊を率いるオルガ・イツカは、三日月をガンダム・バルバトスに乗せて、反撃に送り出す。事実[1]

危機を切り抜けたあと、子どもたちは大人から会社を取り上げて、名前を鉄華団に変える。ここまでが、ほんとに始まりの始まり。事実[1]

監督は長井龍雪さん、シリーズ構成は岡田麿里さん。二つの期に分けて放送されたテレビシリーズ。事実[2]

好きなところ1 機体が削れていく

あたしがいちばん見ちゃうのは、機体の削れ方。出ていくたびに傷が増えて、色が剥げて、だんだん使い込んだ工具みたいな顔になっていく。箱から出したばっかりのぴかぴかじゃない。そこがたまらない。作中の観察

作り手は、バルバトスを話の進み方に合わせて段階的に姿を変えていくガンダムとして考えてた。事実[1]

あたしには、それが手に入るもので何とか間に合わせて、また出ていく姿に見える。模型で再現しようとすると、どこが新しい部品で、どこが前からいる部品なのか、塗り分けで迷うんだよね。その迷う時間がいちばん楽しい。解釈

好きなところ2 戦ってない時間

このアニメは、戦いの場面だけじゃなくて、子どもたちのふだんの暮らしをちゃんと描くことを意識して作られてる。事実[1]

あたしはそこにやられた。みんなで食べたり、ふざけたり、どうでもいい話をしたりする時間があるから、機体に乗ったときの重さが変わる。あたしは機体だけじゃなくて、人の着てる服のくたびれ方まで目で追っちゃう。これはたぶん、美容の学校で人の身なりばかり見てた名残。好み

好きなところ3 三日月の迷わなさ

好きなキャラは三日月。口数が少なくて、決めたらもう迷わない感じが、見てて気持ちいい。泥の中でも顔色ひとつ変えないのに、仲間のことになると動きが速い。あたしは迷ってばっかりの人間だから、ああいう背中に弱い。解釈

三日月を模型にするなら、たぶん機体より先に、乗ってる人の手を想像する。操縦する手がどれだけ荒れてるか、どれだけ油が爪に入ってるか。あたしの中では、機体の汚れと乗ってる人の汚れは、同じ一本の線でつながってる。だからこの作品の機体を塗ると、なぜか人の顔まで思い浮かんで、筆がなかなか止まらない。好み

タカシさんは向こう側を見てた

タカシ

私はどうしても、主人公たちと向き合う側の機体を目で追ってしまいます。ユナさんは、傷のほうを見ていたんですね。好み

ユナ

見てるっていうか、たどってる感じ。この傷はあのときのかな、って。汚れってさ、その子が生きてきた証拠なんだよ。解釈

タカシ

……傷の順番、ですか。次は私も、そこから観てみます。

泥は帰ってきた印

あたしが作品で見てるのは、機体や人に残った傷と汚れが、どんな時間を通ってきたか。きれいに勝つ話より、泥だらけで戻ってくる話のほうが、筆を持ちたくなる。この作品の子たちは、帰る場所を自分たちで作ろうとしてる。だから機体の汚れも、ただの演出じゃなくて、その場所までの道のりに見えるんだと思う。解釈

自分で汚しを入れるとき、あたしは最初に、その機体がどこを歩いてきたかを決める。乾いた砂の上なのか、ぬかるみなのか。それから、地面に近い足まわりと、手で触る所から順に色をのせていく。この作品を観てから、その「どこを歩いてきたか」を考える時間が長くなった。画面の中の子たちが、どこから来て、どこへ帰ろうとしてるのかを、つい機体の足元から想像しちゃうから。好み

重たそうで迷ってる人へ

人が傷つく場面もちゃんとあるから、疲れてる日のあたしは、明るい時間に観るようにしてた。最初は話の筋を追うより、好きな機体を一体決めて、その子がどう汚れていくかだけ見てたら、するっと入れた。模型を作らない人でも、服や靴の汚れでやってみると楽しいと思う。好み

6選のほかの作品と

中学のころに観た『ガンダムビルドファイターズ』で、あたしは作ることを堂々と好きになれた。そこから何年も空いて、このアニメが筆を持つ手を戻してくれた。観終わったあと、昔好きだった『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』の地上の泥くささを思い出して観直して、そのまま沼に戻った。『86―エイティシックス―』の、人として数に入らない子たちの話とも、どこかでつながってる気がしてる。好み

ボロボロで戻ってくる機体には、それだけで一つの物語がある。あたしはその傷を、筆でなぞりたくなる。

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