薦めたい作品会議

思春期の子の親に薦めたい一作で3人が割れる

成人した一人娘のいるガク、ハルを一人で育てたミサ、5人の子を育てるシズカ。思春期の子を持つ親に一作ずつ渡した。美大を目指す不良優等生か、16歳で娘を産んだ母が主人公のドラマか、マリラの側から観るアンか。子どもに口を出すかどうかで、三人は最後まで割れた。

こんな人に
思春期の子どもとの距離に迷っている親へ。子どもの側から、親が何を考えているのか知りたい人にも。
ネタバレの範囲
ネタバレなし どの作品も、紹介文と序盤の設定で分かる範囲まで。物語の展開・仕掛け・結末には触れません
話している人
ガク × ミサ × シズカ
主張の種類: 事実 作中の観察 根拠のある推測 解釈 好み
目次 全6節・約5分
  1. ガクは美大を目指す高校生の話
  2. ミサはアメリカの母娘ドラマ
  3. シズカはマリラの側から
  4. 口を出すか出さないか
  5. 心を閉ざした側から見る
  6. 最後に一人一作

平日の昼下がり、ミサのダンス教室の近くの喫茶店。ガクは二人とは今日が初対面で、注文の前に名刺を出しかけて、少し考えてからしまった。昔なじみのミサとシズカは、席に着くなり好きなドラマの話でかみ合わずにいる。題目は、思春期の子を持つ親に薦めたい一作。

ガクは美大を目指す高校生の話

ガク

僕は『ブルーピリオド』を。娘が十代のころに、こういう作品を読んでおけばよかったと思って。好み

『ブルーピリオド』は山口つばさの漫画で、講談社の『月刊アフタヌーン』で2017年から連載されている。学校では成績がいいが味気ない毎日を送っていた高校生の矢口八虎が、ある日美術室で見た一枚の絵に惹かれて美術部に入り、美術大学の受験を目指す。2021年にテレビアニメが放送された。事実[1]

ガク

うちの娘が音楽の道に進むと決めたとき、僕は助言の前に、制度の話を始めてしまったんです。進学率とか、業界の仕組みとか。食堂でいえば、皿を洗う前に配管の図面を広げたようなもので……すみません、またやりました。好み

ミサ

で、親としてはどう読むの、その漫画。

ガク

子どもが本気で何かを始めるとき、親は「反対する役」か「応援する役」のどちらかを選ばされる気がするんです。でもこの作品を読むと、その前に「何を見て、何に惹かれたのか」を聞く余地があると分かる。最初の一枚の絵の話を、親が聞いてもいいんだと。解釈

シズカ

何に惹かれたのか、ですか。うちの子たちに聞いたら、五人とも違う答えが返ってきそうです。解釈

ミサはアメリカの母娘ドラマ

ミサ

私は『ギルモア・ガールズ』。アメリカのドラマよ。好み

『ギルモア・ガールズ』は2000年から2007年までアメリカで放送されたテレビドラマ。コネチカット州の田舎町スターズ・ホローを舞台に、16歳で娘を出産した母親とその娘、そして祖母を中心にしたファミリードラマで、全7シーズン153話が放送された。事実[2]

ミサ

母と娘が、友だちみたいにしゃべり倒すの。でも友だちじゃない。親だから言わなきゃいけないことがある。その線の引き方を、毎回はらはらしながら観たわ。解釈

シズカ

ミサさんのお勧めにしては、ドロドロしていないんですね。

ミサ

失礼ね。……まあ、たまにはね。私も若くしてハルを産んだから、他人事じゃなかったのよ。好み

ガク

親が完璧じゃない話を、子どもと一緒に観られるのはいいですね。親のほうが先に失敗して見せる、というのは、制度でいえば……いえ、やめておきます。解釈

ミサ

止まれるなら上出来よ。

シズカはマリラの側から

シズカ

私は『赤毛のアン』です。テレビアニメのほう。好み

テレビアニメ『赤毛のアン』は、L・M・モンゴメリの小説を原作に高畑勲が監督し、日本アニメーションが制作した。「世界名作劇場」の第5作として、1979年1月から12月までフジテレビ系列で放送された(全50話)。事実[3]

シズカ

子どものころは、祖母の家のテレビで、想像の翼を広げるアンばかり見ていました。大人になってから観ると、それを不器用に受け止めるマリラのほうばかり見てしまうんです。思春期の子の親は、たぶんマリラの側にいます。解釈

ガク

同じ作品を、立つ場所を変えて観直す。子どものころに観た作品を、親になってから観直す。それ自体を薦めたい、ということですね。解釈

シズカ

はい。できたら、お子さんとは別々に観てください。同じ場面で、違うところを見ているのが分かりますから。好み

口を出すか出さないか

ミサ

私は言うわよ。期待してる子ほど、きつく言っちゃう。ハルにも、褒める前に「で、準備は?」って聞いちゃうし。好み

シズカ

私は、叱るときは短くします。長く言うと、子どもは途中から聞いていませんから。好み

ガク

僕は長くなるほうなので、耳が痛いです。

ミサ

ガクさん、話が長い自覚はあるのね。

ガク

娘にもよく言われました。だから最近は、助言の前に「今日は何の作業をした?」と一つだけ聞くようにしているんです。答えが短くても、それでいい。好み

シズカ

短い一言と、短い質問。……どちらも、言ったあとに待つのが大事なんでしょうね。解釈

ミサ

待つのがいちばん難しいのよ。言うのは簡単。解釈

心を閉ざした側から見る

ガク

もう一作だけ、いいでしょうか。『思い出のマーニー』。好み

映画『思い出のマーニー』は、ジョーン・G・ロビンソンの児童文学を原作に、米林宏昌が監督したスタジオジブリ制作のアニメーション映画で、2014年に公開された。札幌に住む12歳の少女・佐々木杏奈は、里親の頼子に育てられているが、ある出来事から頼子を「おばちゃん」と呼び、感情を表に出さなくなっている。事実[4]

ガク

子どもが心を閉ざしているとき、親の側から見ると、理由がまったく分からないことがある。この映画は、子どもの側からそれを見せてくれるんです。……動物は出てこないのに、泣きました。好み

シズカ

12歳。思春期の入り口ですね。解釈

ミサ

親は、映画の中の大人のほうに自分を重ねて観ることになるわね。それがきついのよ。でも、観たほうがいい。解釈

最後に一人一作

ガク

『ブルーピリオド』。反対か応援かを決める前に、何に惹かれたのかを聞くために。好み

ミサ

『ギルモア・ガールズ』。友だちみたいな親でも、線は引く。好み

シズカ

『赤毛のアン』。マリラの側から、観直してみてください。好み

子どもに口を出すかどうかは、最後まで割れたままだった。ミサは「言うべきことは言う」、シズカは「短く一言だけ」、ガクは「先に質問を一つ」。会計のとき、ガクはようやく二人に名刺を渡し、ミサは「あら、この名刺は短いのね」と笑った。解釈

思春期の子の親には、子どもの側から世界を見せてくれる物語を。口を出す前に、まず一つ質問を。

この記事の作品

赤毛のアン
アニメ 1979 · TVシリーズ #ファミリー #日常 #ドラマ
話した人 ガク 世界のしくみと正義を旅する人 ガクの記事をもっと読む →

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