魔王を倒した「その後」から始まる旅の物語。『葬送のフリーレン』のアニメは、千年を生きるエルフの時間を、画面の奥と音の奥に仕込んでいます。ルカーノとイロハが、その仕込みの見つけ方を話しました。
映画のように始まった
原作は山田鐘人さん(原作)とアベツカサさん(作画)による漫画で、単行本は小学館の少年サンデーコミックスから、1巻が2020年8月18日に出ています。事実[2]
テレビアニメはマッドハウスの制作で、監督は斎藤圭一郎さん。第1期は2023年9月から日本テレビ系列ほかで放送され、初回は第1話から第4話までを『金曜ロードショー』の枠で2時間スペシャルとして流しました。テレビアニメの初回が『金曜ロードショー』で放送されたのは、この作品が初めてだったそうです。事実[1]
イロハさん、今日のスカーフ、夕方の空の色だね。よく似合ってる。……さて本題。僕はこの作品を、背景を見るためにもう一回観たんだ。
ありがとう。私は、音を聴くためにもう一回。同じ作品で、違う二回目だね。
背景の古び方を見る
スタッフ表では、美術監督は高木佐和子さん、美術設定は杉山晋史さん、色彩設計は大野春恵さんです。海外の賞でも背景は評価され、クランチロール・アニメアワード2025では最優秀背景美術賞を受賞しています。事実[1]
僕が見るのは、石の角と木の扉なんだ。新しい建物は角が立っていて、人が何十年も触れて、雨が何百回も当たった建物は角が丸くなる。千年を生きる人の旅だから、町や遺跡が映ったら、角やすり減り方をたしかめてごらん。時間がどこに描いてあるかを探すのが、二回目の楽しみになる。解釈
角か。私は、空の色の幅を見てた。同じ昼でも、場所によって青の濃さが少しずつ違う気がして。好み
笑いも所作で描く
斎藤監督は、笑える場面のポイントを「真剣にやった結果がちょっとズレている」ことだと考え、記号的な表現は使わず、一つ一つの所作もていねいに描かれた作品の雰囲気を壊さないように演出した、と紹介されています。事実[1]
服の人間としては、ここがいちばんうれしい。大きな汗のしずくや怒りのマークで笑わせない。たとえば袖や裾をさばくような、手と布の動きのまま、笑いにも静けさにもなる。だから笑える場面ほど、顔より手と裾を見てほしいんだ。布の重さがどう描かれているかで、その人の暮らしが見えてくる。解釈
古楽器が鳴ったら
劇伴はEvan Callさん。オーケストラを中心に、フィドルやティン・ホイッスルといったアイルランド風の民族楽器が使われ、主人公が長寿であることから、悠久の時の流れを表すためにレベックやヴィオールなどの古楽器も使われた、と紹介されています。初回の第1話から第4話は、先にできた映像に合わせて曲を書くフィルムスコアリングの手法で作られました。事実[1]
古い弦楽器の音って、弦をこすった端に少しかすれが残るの。いまの楽器のつやのある音とは、色が違う。私には、古い机の木目みたいな茶色に聞こえる。その音が鳴ると、画面の時間が急に何百年ぶん奥へ伸びる気がする。解釈
茶色か。僕には、洗いざらしの麻に聞こえるな。好み
そこは、今日は違ったね。でも、どっちも新品じゃない手ざわり。解釈
見つけ方を三つ
二人の見方をまとめると、こうなります。一つ目、町や遺跡が映ったら、建物の角や石畳のすり減り方を見る。二つ目、笑える場面では、顔より手と布の動きを見る。三つ目、弦の音が少しかすれて聞こえたら、そのとき画面に誰がいて、どこを見ているかをたしかめる。どれも、一周目には流れてしまうところです。好み
千年の時間は、すり減った石の角と、かすれた弦の音に描かれている。二回目は、そこを探しながら。