わたしの6選

『ビューティフルライフ』のハサミを持つ手

美容の専門学校に通っていたころ、配信で一気に観た昔のドラマ。ハサミを持つ手つきの場面ばかり巻き戻していた。髪を整えるのも、機体を塗るのも、相手をいちばんいい顔にする仕事。ユナの6選の六本目は、ロボットの出てこないドラマです。

こんな人に
人の髪や顔や服を、きれいに整える仕事が好きな人へ。昔のドラマはあまり観ない、という人にも。
ネタバレの範囲
ネタバレなし テレビドラマ『ビューティフルライフ』の始まりの設定(美容師の柊二と、図書館で働く車椅子の杏子が出会う)まで。二人の関係の行方と結末には触れません
話している人
ユナ × ルカーノ
主張の種類: 事実 作中の観察 根拠のある推測 解釈 好み
目次 全8節・約5分
  1. 専門学校のころに一気見した
  2. 美容師と図書館の人
  3. 好きなところ1 ハサミの手つき
  4. 好きなところ2 いちばんいい顔にする
  5. 好きなところ3 鏡の前と後ろ
  6. ルカーノさんと手の話
  7. 昔のドラマが苦手な人へ
  8. 6選の最後に置いた理由

最後の一本は、アニメじゃなくてドラマ。『ビューティフルライフ』。ロボットも泥も出てこないけど、あたしの手の動かし方を決めた作品の一つ。

専門学校のころに一気見した

美容の専門学校に通ってたころ、クラスの誰かが「美容師が主人公の昔のドラマがある」って言い出して、その夜に配信で探して観た。気づいたら朝まで観てて、次の日の実習は眠くて手が震えた。なのに、帰ってからまた続きを観た。好み

あのころのあたしは、ガンプラから離れて、ストリートの服で夜の街を遊び歩いてた。手を動かすのは、ウィッグの練習台の上だけ。そんなときに観たから、このドラマの美容師の手つきが、やたらまぶしく見えたんだと思う。夜遊びの帰りに、コンビニの袋をさげたまま部屋でこのドラマの続きを再生する。そういう夜が、あの冬は何回もあった。好み

美容師と図書館の人

主人公の沖島柊二は、医者の家に生まれたのに美容師になった人で、腕もちゃんとある。もう一人の主人公、町田杏子は図書館で働いてて、十代の終わりごろから病気で車椅子の暮らしをしてる。この二人が出会うところから物語が始まる。事実[1]

脚本は北川悦吏子さん。柊二を木村拓哉さん、杏子を常盤貴子さんが演じた、TBSの連続ドラマ。主題歌はB'zの「今夜月の見える丘に」。事実[1]

好きなところ1 ハサミの手つき

あたしがこのドラマで何回も巻き戻したのは、柊二がハサミを持つ場面。指のかけ方、刃を開くときの角度、髪をつまむ指の高さ。物語の大事なところより、そっちばっかり観てた。学校で習ったばかりの持ち方と見比べて、鏡の前で同じ形を作ってみたりもした。指が痛くなるまで開いたり閉じたりして、友だちに「それ、ドラマの真似でしょ」って笑われた。好み

上手い人の手って、動いてないときのほうがきれいなんだよね。切る直前の、ハサミが止まってる一瞬。あそこで、どこに刃を入れるか全部決まってる感じがする。いまのあたしが筆を構えて止まるときも、頭の中では同じ順番を踏んでる。解釈

好きなところ2 いちばんいい顔にする

髪を整えるのも、機体を塗るのも、相手をいちばんいい顔にする仕事なんだと思う。美容師は、目の前の人が鏡を見たときの顔を想像しながら切る。あたしは、組み上がった機体が棚に立ったときの顔を想像しながら汚しを入れる。汚すのに「いい顔」っていうと変に聞こえるかもしれないけど、その機体がくぐってきた時間が見えたとき、機体はいちばんいい顔になる。解釈

あたしは、柊二がハサミを構えて髪と向き合ってる顔が好き。これはあたしの勝手な受け取り方だけど、きれいにするって、相手を自分の好みに寄せることじゃなくて、相手の中にあるものを引っぱり出すことなんだって、専門学校のあたしはあの顔を観て覚えた気がする。好み

好きなところ3 鏡の前と後ろ

美容室の場面って、座ってる人と、その後ろに立つ美容師が、鏡の中で向き合う形になる。あたしはあの構図が好き。直接目を合わせるより、鏡越しのほうが本音が出る気がする。実習で練習台になってくれた友だちとも、鏡越しのほうがよくしゃべれた。鏡に映る自分の顔が少しずつ変わっていくのを、本人がいちばん近くで見てる。あの時間が、あたしはたまらなく好き。好み

模型を作ってるときも、ちょっと似たところがある。あたしは機体と向き合ってるつもりで、実はずっと、完成したときにそれを見る誰かの目を想像してる。鏡の後ろに立つ美容師みたいに、相手の見え方を自分の目に重ねながら手を動かしてる。このドラマを観てから、その感覚に名前がついた気がする。解釈

ルカーノさんと手の話

ルカーノ

ユナさん、その前髪、自分で切ったでしょう。線がいい。好み

ユナ

分かる? 昔のドラマの美容師の手つき、いまだに真似してんの。

ルカーノ

僕は採寸のとき、相手の肩より先に手を見るんだ。手が落ち着いてる人は、立ち姿もきれいでね。美容師も、きっと同じところから見てるんじゃないかな。解釈

ルカーノさんに言われて、あたしは自分の手を見た。爪は今週塗ってる機体の色。指先にはまだ塗料が少し残ってる。髪を切る練習で鍛えた指が、いまはいちばん細い筆を握ってるのは、自分でもちょっと面白い。あの冬にハサミの練習をしてた手が、いまは休みの日に筆を持ってる。構え方は、鏡の前で練習したときのまま。好み

昔のドラマが苦手な人へ

昔のドラマって、画面の色も服も時代を感じるから、最初はちょっと照れくさいかもしれない。あたしは逆に、そこを楽しんだ。髪型も服も、いまとシルエットが全然違うから、専門学校の課題の資料みたいな気分で観られた。病気の話もあるから、しんどい日は美容室の場面だけ追いかける観方で、あたしは十分楽しめた。あたしが生まれたころのドラマなのに、手つきの美しさだけは、いま観ても全然古くならない。好み

6選の最後に置いた理由

ロボットばっかりの6選に、なんでドラマが入ってるのかってよく聞かれる。でも、あたしの中では全部つながってる。『その着せ替え人形は恋をする』の、雛人形の顔を描く手。『ガンダムビルドファイターズ』の、ガンプラに向かう手。そしてこのドラマの、ハサミを持つ手。泥まみれの機体の話も、結局は誰かが手を動かして、何かをいちばんいい顔にしようとしてる話なんだと思う。好み

ハサミも筆も、相手のいちばんいい顔を探す道具。あたしはいまも、あのドラマの手つきを思い出しながら筆を構えてる。

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