五本目は『交響詩篇エウレカセブン』。あたしの中で、ストリートとロボットが初めて同じ場所に並んだアニメ。たぶん6選の中で、いちばん長く付き合ってる。
最初に観た空
最初に観たのは、ほんとにちっちゃいころ。父さんの横で、何の話かもよく分からないまま観てた。弟はまだテレビの前でじっとしていられない年で、途中から寝てたはず。覚えてるのは、空を板で滑っていく感じと、機体がかっこいいってことだけ。なのに、その「かっこいい」が、ずっと体のどこかに残ってた。好み
大きくなってから配信で観直したら、あのときは気づかなかったものが山ほどあった。服、音、街の空気、船の中の生活感。あ、かっこよさの正体はロボット以外にもあったんだ、って。好み
とくにレントンが、ホランドたちに向けるまっすぐなあこがれは、最初に観たときは分からなかった。十代の終わりに観直したときには、もう分かりすぎて、ちょっと笑っちゃった。あたしも同じころ、地元の駅前でしゃがみこんで、どこか遠くに行きたいって毎晩思ってたから。好み
波乗りにあこがれる少年
主人公のレントンは14歳。祖父と暮らしてる。楽しみは、空気中に漂うトラパーの波に、サーフィンみたいに板で乗る遊び。あこがれの人は、すご腕のリフボーダーで、ゲッコーステイトっていうはみ出し者の集団を率いるホランド。事実[1]
そんなある夜、レントンの部屋に、ニルヴァーシュという機体が落ちてくる。中から出てきたのは、ゲッコーステイトの一員の少女エウレカ。事実[1]
ボンズの制作で、京田知己さんが監督、佐藤大さんがシリーズ構成。事実[2]
好きなところ1 空を板で滑る
まず、乗り物が板っていうのがずるい。空の波に板一枚で乗るのって、スケボーとかスノボの感覚に近い。ロボットアニメなのに、主人公の最初のあこがれが機体じゃなくて、板と波なんだよね。そこが、街で遊んでた子の感覚と地続きな感じがする。好み
機体まで板に乗るのも好き。ロボットが波に乗る姿って、なんであんなに気持ちいいんだろう。模型で作るとしたら、板の裏側の擦れ方をどう汚すか、それだけで一晩悩める。空を滑ってるんだから、泥じゃなくて、風で削れた跡になるはず。あたしの汚し塗装の中では、ちょっと珍しいお題。いつか本気で作るときは、板の縁だけ塗装をうっすら剥がして、何度も波を越えてきた感じを出したい。好み
好きなところ2 雑誌と服と音
ゲッコーステイトは「ray=out」っていう雑誌も出してる。事実[1]
これがもう、あたしにはたまらない。船で暮らす連中が、自前で雑誌まで作って配ってるって、ストリートのチームそのものじゃん。レントンがあこがれてたのも、たぶん雑誌の中のかっこいいゲッコーステイトだったんだと思う。専門学校のころ、服の雑誌を切り抜いて部屋の壁に貼ってたあたしは、レントンの気持ちが分かりすぎる。好み
作中には音楽をはじめ、いろんなものへのオマージュがたくさんあって、各話の題名にも、あちこちから引いた名前が並んでる。事実[1]
あたしはその元ネタを全部は知らない。でも、知らなくても、画面の空気がなんか音楽っぽい。服のシルエットも、船の中のごちゃっとした感じも、クラブの帰りの朝みたいな匂いがする。塗装の日にこれをかけると、換気扇のうなりまで、なんかリズムに聞こえてくる。筆が乗る日のBGMとしては、6選の中でたぶんいちばん。好み
好きなところ3 離れてた時期もこれだけは
美容を勉強してたハタチ前後、あたしは模型を完全にやめてた。友だちと朝まで街にいて、作業机の話なんか一回もしなかった。でも、このアニメだけは別だった。友だちに「ロボットアニメ観るの?」って笑われても、これは服と音楽のアニメだから、って言い張ってた。実際、服を見るだけでも十分楽しい作品だったし、言い張ってたのは半分くらい本音。好み
いま思えば、この作品があたしの中のロボット好きを、細い糸みたいにつないでくれてたんだと思う。全部捨てたつもりでも、ここだけは切れてなかった。だから、あとで模型の机に戻ったとき、意外とすんなり戻れた。押し入れの奥にしまった模型の箱を、見ないふりしながら捨てられなかったのも、たぶん同じ理由。解釈
ロボットものが硬そうな人へ
ロボットものは設定がむずかしそう、って思ってたあたしの友だちは、服と音の話から入ったら、ちゃんとはまってくれた。最初はレントンのホランドへのあこがれだけ追いかけてれば、話についていける。機体の名前や言葉が分からなくても、空を滑る場面の気持ちよさは、たぶんそのまま届く。話数の多いシリーズなので、あたしは気に入った回を繰り返し観ながら、少しずつ先に進んだ。出てくる人たちの服を一人ずつ見比べるのも、あたしの好きな楽しみ方。同じ船に乗ってても、着こなしが全員ばらばらで、それぞれの好きがちゃんと服に出てる。好み
6選のつながりをたどると
『ガンダムビルドファイターズ』で作ることを好きになって、『ビューティフルライフ』で人をきれいにする仕事にあこがれて、『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』で作業机に戻った。その全部の下に、このアニメがずっと流れてる。ストリートのあたしと、ロボットのあたしが、ちゃんと同じ人間なんだって、最初に教えてくれたのはこれだった。好み
好きなものを一回手放しても、どこかで細い糸がつながってることがある。あたしの場合、その糸は空の波の色をしてた。
