テンの6選の二本目は『魔女の宅急便』にゃ。この話をするなら、魔法の国から来たシオルに聞いてほしかったにゃ。……シオルは、ちょっと離れた本棚の上から聞いてるにゃ。町での出来事や結末には触れないにゃ。
シオルは、ここで聞きます! テン、今日は追いかけないって約束ですからね。
約束するにゃ。……たぶんにゃ。
ジジはキキとだけ話す
福音館書店の原作の紹介では、「ひとり立ち」するためにはじめての街にやってきた13歳の魔女キキと、相棒の黒猫ジジの物語とされているにゃ。キキが始めた仕事は、ほうきで空を飛んで荷物を届ける宅急便屋さん。作は角野栄子さん、画は林明子さんにゃ。事実[2]
スタジオジブリの映画は、原作が角野栄子さんで、プロデューサー・脚本・監督が宮﨑駿さん、音楽が久石譲さん。公開日は1989年7月29日にゃ。事実[1]
映画を観ると、ジジはキキとは言葉を交わすけど、ほかの人の前ではふつうの猫としてふるまってるにゃ。これが、テンにはどうにも他人事じゃないにゃ。テンも、ふつうに話すのは決めた相手の前だけにゃ。ほかの人の前では「にゃ」だけ。人の町で暮らすと決めたとき、テンはジジをお手本にしたにゃ。作中の観察
ふるさとの魔女にも、黒猫の使い魔がいます! 使い魔は、魔女とだけ心で話すんです。それと同じですか?
近いけど、ちょっと違うにゃ。ジジは使い魔というより、相棒にゃ。軽口をたたいて、すねて、心配して、キキと対等にしゃべるにゃ。そこがいいにゃ。解釈
好きな理由1:しっぽと背中の芝居
ジジは小さいけど、しっぽと背中で、ものすごくしゃべってるにゃ。不安なときの背中の丸め方、得意なときのしっぽの立て方。猫として言わせてもらうと、あれはほんとうに猫にゃ。毛並みの描き方にうるさいテンも、黒い毛のつやの出し方には感心したにゃ。解釈
好きな理由2:ほうきで届ける仕事
魔法の力で世界を救う話じゃないところが好きにゃ。キキの魔法は、空を飛べることくらい。それで荷物を届けて、お金をもらって、パンを買う。魔法が、暮らしの道具になってるにゃ。魔法の世界のしくみにうるさいテンとしては、この地に足のついた感じがたまらないにゃ。解釈
魔法でお金をもらう……ギルドの依頼みたいなものでしょうか。合ってますか?
半分合ってるにゃ。キキはギルドに入ってないにゃ。仕事を思いついて始めたのは、キキ自身にゃ。だから大変で、だからまぶしいにゃ。解釈
好きな理由3:はじめての町の空気
はじめての町に着いたときの、うれしさとこころぼそさが、両方いっぺんに来る感じ。海の見える坂道、パン屋さんのにおいがしそうな朝。テンも人の町に降りてきたばかりのころ、知らない屋根の上で、こんな気持ちになったにゃ。あのころのテンには、キキのとなりのジジが、うらやましかったにゃ。好み
いまのテンには、スイがいるにゃ。テンにとってのキキは、スイかもしれないにゃ。スイはほうきでは飛ばないけど、傘をさしかけてくれたにゃ。好み
テンとジジのちがい
ジジとテンは似てるけど、ちがうところもあるにゃ。ジジは、キキの肩や、ほうきの先にちょこんと乗って、いっしょに空を飛ぶにゃ。テンは飛ばないにゃ。……飛ばないことにしてるにゃ。そのかわり、スイが仕事の日は、いつのまにか海辺のゲンの家の縁側にいるにゃ。どうやって行ってるのかは、ひみつにゃ。好み
もうひとつのちがいは、ジジはキキと同じ年ごろの気持ちで、いっしょにどきどきしてるところにゃ。テンは、スイのことを少し上から見守ってるつもりでいるにゃ。でも、ジジを観てると、となりで同じ高さでどきどきするのも、悪くないと思うにゃ。見守るのと、となりにいるのは、ちょっとちがうにゃ。テンは、どっちもやりたいにゃ。解釈
はじめての人へ
一回目は、キキの顔ばかり見ていいにゃ。二回目は、ジジだけを追いかけてみてほしいにゃ。画面のすみで、ジジがどこにいて、何をしているか。それだけで、別の映画みたいに見えてくるにゃ。猫と暮らしている人は、ジジが首をかしげる場面で、たぶん自分の猫を思い出すにゃ。
映画のあとに、原作の本を読むのもおすすめにゃ。映画とはまた違う、キキとジジの物語が読めるにゃ。
ほかの5本とのつながり
一本目の『ライオンと魔女』は、大きな生きものが見守る話だったにゃ。この映画は、小さな猫がとなりにいる話にゃ。三本目の『夏目友人帳』では、ただの猫のふりをした存在が出てくるにゃ。テンの6選は、少しずつ、見守る生きものが小さく、近くなっていくにゃ。好み
わあ、テンのお話、ちゃんと聞けました。……テン? なんで少しずつ近づいてるんですか?
最後に一回だけ、撫でさせてほしいにゃ。マントの星の模様が、どうしても気になるにゃ……!
シオルは本棚の向こうへ逃げたにゃ。約束は、たぶん守れなかったにゃ。
言葉を交わす相手が一人いれば、知らない町でもやっていけるにゃ。