好きなものの話をするとき、僕は説明したくてうずうずする。このゲームについては、その衝動を何年も押さえこんでいる。説明しないことが、このゲームへのいちばんの敬意だと思っているからだ。好きなゲームの一本は『Outer Wilds』。遊びはじめてすぐの場面のことだけを書きます。
どんなゲームか
プレイヤーは、小さな宇宙計画のいちばん新しい隊員。宇宙船に乗って、太陽系の星々へ出かけていく。ここで書くのは、そこまでです。作中の観察
何も言わずに渡された
働き始めて数年たったころ、ある人から、このゲームを勧められた。そのときにもらった言葉は、ほとんどなかった。「何も調べずにやってみて」。それだけ。説明好きの僕には、それが少し不思議だった。この話には続きがあって、それはまた別の機会に書こうと思う。
遊びはじめると、最初にいるのは、小さな村の焚き火のそば。マシュマロを棒に刺して、火にかざして焼くことができる。宇宙へ行くゲームなのに、最初に覚えた操作がマシュマロの焼き加減だった。僕はそれだけで、このゲームを信用した。作中の観察
好きな理由その一:誰も教えてくれない
このゲームには、次に行くべき場所を指す大きな矢印がない。どこへ飛んでもいいし、何から調べてもいい。手がかりは、行った先で自分の目で見つけるしかない。最初は心細かった。でも、誰かに言われて行った場所より、自分で決めて行った場所のほうが、ずっと記憶に残ることに気づいた。作中の観察
僕は長いあいだ、「早く正解にたどり着いた人が、いちばん楽しんだ人」だと思っていた。このゲームは、その考えを静かにほどいてくれた。正解に着くまでの迷い道そのものが、体験の本体だったのだ。解釈
遊ぶのは、たいてい平日の夜、寝る前の一時間ほど。机の横には紙のノートを置いて、気になったことを一行ずつ書いた。何かに自分で気づいた夜は、思わず小さく声が出た。誰かに教わった「わかった」とは、体の温度が違う。その声が出る瞬間のために、僕はこのゲームの話を、人にしないでいるのだと思う。
その二:記録はとってくれるが結論は出さない
宇宙船には、見つけたことを書きとめてくれる航行記録がある。行った場所、気になったこと、まだわかっていないこと。記録は線でつながって、少しずつ広がっていく。けれど、その記録が答えを教えてくれるわけではない。つなげて考えるのは、いつも自分だ。作中の観察
小学校のころ、読んだ物語の場所と出来事を線でつないで地図をつくっていた。高校では、アニメの二周目にノートを取った。そういう癖のある僕にとって、この航行記録は、自分のノートがゲームの中に現れたような感覚だった。違うのは、空欄のまま残っていることを、急いで埋めなくていいと思わせてくれるところだ。解釈
その三:道具が耳と目をひらく
手もとにある道具は、暗い場所を照らせる小さな探査機、遠くの音を拾う受信機、そして翻訳機。作中の観察
どれも、何かを「倒す」ための道具ではなく、「知る」ための道具だ。そのことが、このゲームの性格をよく表していると思う。耳をすませる道具があるだけで、宇宙が急に、音のある場所に感じられる。解釈
宇宙を飛ぶの、難しそう。私、焚き火でマシュマロ焼いてるだけでも楽しめそうなんだけど、それじゃだめ?
だめじゃない。僕も最初の日は、出発するまでにかなり焼いてた。焦がしたり、ちょうどよくできたり。
そこで一日終わってもいいなら、やってみたいかも。
いいと思う。……ナギに言われて気づいたけど、あの焚き火の時間も、僕にとっては探索の一部だった。何もしない時間に、次にどこへ行きたいかが自然と浮かんでくる。
これから遊ぶ人へ
宇宙船の操作には、少し慣れが要る。最初は思ったように止まれなかったり、着陸に失敗したりすると思う。3Dの画面で酔いやすい人は、短い時間で区切って遊ぶのがおすすめです。攻略を見るかどうかは自由。ただ僕は、見ないで迷った時間ごと、このゲームが好きだった。詰まったら、焚き火を見つけてマシュマロを焼いてみてください。好み
好きな6作品とのつながり
人に勧める難しさを最初に教えてくれたのは、小学生のころの『十角館の殺人』だった。それから長い時間がたって、このゲームが、知らないまま渡すことは贈り物にもなる、と教えてくれた。見せる順番の面白さを教わった『メメント』の、自分で順番を選ぶ版でもあると思う。
誰かに勧めるときは答えではなく「ここ、気にならない?」を一つだけ渡す。