週末の喫茶店。窓ぎわのいつもの席で、ノアは同じ一冊を開いていました。隣の席のスイは、ノアの手帳の端に、二つの題名が並べて書いてあるのに気づきました。片方は日本語、もう片方はカタカナです。コーヒーが冷めるまで、二人は題名の話をしました。
同じ映画の二つの題名
その二つ、同じ映画?
うん、同じ映画。日本では、題名が二つあるの。
『生きのびるために』(英題 The Breadwinner)は、カートゥーン・サルーンのノラ・トゥーミー監督による2017年のアニメーション映画です。日本では『生きのびるために』というタイトルで2018年6月1日からNetflixで配信され、2019年12月20日からは『ブレッドウィナー』というタイトルで劇場公開されました。事実[1]
英語の題は、働いて家族を食べさせる人、くらいの意味の言葉だと私は受け取ってる。言葉の専門家じゃないから、そこは話半分で聞いてね。解釈
日本語の題のほうが、私には切実に聞こえる。息を止めているみたいな題。解釈
でしょう。英語の題は、その人の役目を言ってる。日本語の題は、その人がしなきゃいけないことを言ってる。どっちも合ってて、少しずつ違う方向を向いてる。解釈
本の題名とスタジオの一覧
原作はカナダの児童文学作家デボラ・エリスさんの小説です。日本語訳は『生きのびるために』(もりうちすみこ訳、さ・え・ら書房、2002年)。同じ訳者による訳書には、『さすらいの旅 ― 続・生きのびるために』や『希望の学校 : 新・生きのびるために』もあります。事実[2]
配信のときの題は、本の日本語訳と同じ。劇場のときは、英語の題をそのままカタカナにした。どっちを選ぶかで、映画の入口の形が変わるの。根拠のある推測
本で知っていた人には、前の題のほうが届く。知らない人には、聞き慣れない言葉のほうが目に留まる。……私は、そう受け取った。解釈
もう一つ気づいたのは、同じ訳者の別の本の題にも「生きのびるために」が残ってること。続、とか、新、とかがついて。日本語の読者にとっては、この言葉がひとつの看板になってたのかもしれない。……これは推測ね。根拠のある推測
看板の言葉を、映画の配信のときにもう一度掲げた。そう考えると、二つ目の題を選んだ日のことも、少し知りたくなる。解釈
そこは、私には分からない。決めた人に聞かないと。分からないことは、分からないまま手帳に置いておく。
制作したカートゥーン・サルーンはアイルランドのアニメーションスタジオで、1999年にポール・ヤングさん、トム・ムーアさん、ノラ・トゥーミーさんによって設立されました。スタジオの作品一覧では、この映画は「生きのびるために」「The Breadwinner」「An Saothraí」と、邦題・英題・原題の三つの名前で並んでいます。事実[3]
三つ目の名前は、読めない。
私も読めない。だから手帳には書き写すだけにした。似てるって言う前に、違うところを一行。今日は、その一行が三つ目の名前。好み
物語の出発点
舞台は2001年、ターリバーン政権下のアフガニスタン。主人公は、父親が娘に本を読ませた罪で拘束された少女パヴァーナです。事実[1]
本を読ませた罪。……その一行だけで、もう重い。
重いよ。つらい場面もある。私は、観る日を選んだほうがいいと思う。元気のある週末の昼とか。観終わったあとに、誰かと少し話せる日とか。好み
でもね、スタッフの一覧を見て、私は一つ気になったの。
スタッフ一覧には、「物語パート演出」と「物語パートアニメーションディレクター」という役割が並んでいます。事実[1]
「物語パート」という言葉があるってことは、この映画の中で、誰かが誰かにお話を語る時間があるのかもしれない。私はそう読んだ。どんな形で出てくるのかは、観て確かめてほしい。根拠のある推測
お話の係、か。ノアは、そういうところから観るんだね。
お話を聞く時間そのものが好きな子どもだった私は、その一行だけで観たくなった。好み
あの海の映画と同じスタジオ
同じスタジオの『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』も観直したの。ああいう映画を観るとき、私は手帳に地図を書きながら観る。好み
ノアは、地図が好きだね。
ふふ。知らない駅の名前を地図で探してた子どもだったから。
私は、誰が話して、誰が黙っているかを観ると思う。黙っている人のほうに、言えないことがある気がするから。好み
初めての人への入口
入口は、題名を二つとも覚えておくこと。人によって、どっちの名前で覚えているかが違うから、話すときに迷わない。好み
それから、つらいところで止めてもいい。続きは、また次の週末に。同じ席で、同じ一冊を開くみたいに。好み
少し考えてから観るね。観たら、また話そう。
観たあとに話す時間も、先に決めておく。来週の同じ時間、この席で。好み
うん。手帳に書いておく。今度は、違うところじゃなくて、同じところを一行。好み
『生きのびるために』と『ブレッドウィナー』は同じ映画。日本では配信と劇場で題名が違い、配信のときの題は原作の日本語訳と同じでした。