わたしの6選

『ハニーレモンソーダ』発売日の縁側で

小学四年生のとき、付録が欲しくて初めて自分のお小遣いで買った少女漫画誌に載っていた。それから毎月、発売日に一話ずつ。最終回の号も、縁側で読んだ。一か月ずつ大きくなってきた読者として、イトが好きなところを書きます。

こんな人に
雑誌で毎月一話ずつ漫画を読んだことがない人へ。前の自分を変えたいと思って、新しい場所に行ったことがある人にも。
ネタバレの範囲
ネタバレなし 漫画『ハニーレモンソーダ』の始まりの設定(中学で「石」と呼ばれていた羽花が、八美津高校でレモン色の髪の界とかかわるようになるところ)と、作品全体の手触りまで。恋の行方と最終回の中身には触れません
話している人
イト × シズカ × リリィ
主張の種類: 事実 作中の観察 根拠のある推測 解釈 好み
目次 全9節・約5分
  1. 付録が欲しかっただけ
  2. 石と呼ばれていた子
  3. 一か月の長さ
  4. 最初から最後まで
  5. 羽花と一緒に大きくなった
  6. 背景に咲いてる花
  7. 最終回の号
  8. 一冊目から入るなら
  9. 初めての一冊がつないだもの

私が初めて自分で買った少女漫画誌に載っていた漫画、『ハニーレモンソーダ』。最終回まで読みました。でも、最後のページのことは書きません。

付録が欲しかっただけ

小学四年生のとき、本屋で少女漫画誌の表紙を見て、付録のレターセットが欲しくなった。お小遣いを数えて、足りたから買った。目当ては付録だけ。家に帰って、付録を取り出して、雑誌のほうはついでにめくった。ついでのはずが、レモン色の髪の男の子が出てくるページで止まった。そこからずっと、毎月、発売日に買ってる。好み

付録のレターセットは、いまも一枚も使ってない。引き出しに、買った順に全部とってある。姉に一枚ちょうだいって言われたときも、あげなかった。代わりに、普通の紙に便せんの絵を描いてあげた。最初の一枚を使ったら、あの日の、ついでにめくった気持ちまでなくなりそうな気がする。好み

石と呼ばれていた子

最初のころの羽花は、顔が固い。笑うのも泣くのも、どこかに置いてきたみたいな顔。私はその顔を見て、あ、この子は、ここから変わる話なんだ、と思った。どう変わるかは知らないのに、変わる前の顔だっていうのは分かった。変わる前の顔を、ちゃんと長く描いてくれる漫画は、信用できる。解釈

一か月の長さ

雑誌で読むと、一話読んだら、次は一か月後。いいところで終わると、一か月ずっとそのコマのことを考える。単行本でまとめて読む人には、たぶん一瞬のページ。私には、一か月あったページ。好きって言う前のコマが、いちばん長いんだよ。雑誌で読むと、それがほんとに一か月の長さになる。好み

リリィ

私は、まとめて読む派です。続きが手元にないと、落ち着かなくて。一か月、待つのはつらくなかったですか?

イト

つらいよ。でも、待ってるあいだに、そのコマの顔を描くから。一か月で何枚も描ける。

リリィ

……待つ時間に、描くんですね。その読み方は、私にはなかったです。

リリィは原作をまとめて読む人で、私は一話ずつ待つ人。どっちが正しいとかはない。私も、ほかの漫画は単行本で読んでる。ただ、この一本だけは、一か月ずつの読み方で最後まで来た。好み

最初から最後まで

雑誌は、最初のページから最後のページまで、順番に全部読む。目当ての一本だけ先に読む、っていうのは、なんとなくしない。ほかの漫画を読んでるあいだも、頭のすみで、あとに残してある一本のことを考えてる。ごはんのおかずの好きなのを最後に食べるのと、ちょっと似てる。読者のおたよりのページも、まんがの描き方のページも読む。描き方のページで知ったことを、そのまま羽花の顔を描くときに試したこともある。好み

羽花と一緒に大きくなった

私が読み始めたとき、羽花は高校生で、私は小学四年生。羽花のほうがずっとお姉さんだった。毎月読んでるうちに、私は小学校を卒業して、中学生になった。羽花の顔も、少しずつ変わっていく。私の背が伸びるのと、羽花が笑えるようになるのが、同じ速さだった気がする。一緒に大きくなった、なんて言うと大げさだけど、私の中では、だいたいそう。好み

背景に咲いてる花

少女漫画は、気持ちが動くページの後ろに、よく花が咲いてる。私はそれを、図鑑で調べた本物の花で描き直すのが好き。漫画の花は、本物よりふわっとしてて、何の花か分からないことも多い。分からないときは、そのページの気持ちに合いそうな花を、図鑑から選ぶ。合ってるかは分からない。でも、選んでるあいだ、そのコマの気持ちをずっと考えていられる。好み

最終回の号

最終回の号が出る日は、朝から少しそわそわしてた。学校から帰って、本屋で買って、縁側で読んだ。最終回だけ先に開きたかったけど、いつもどおり最初から順番に読んだ。最後の一話に行くまで、わざとゆっくりした。読み終わって、雑誌を閉じて、しばらく庭を見てた。何が描いてあったかは、書かない。書いたら、あの日の縁側が、ただの感想になっちゃう気がするから。好み

シズカ

あの日は、晩ごはんまでずっと縁側にいたわね。映画にもアニメにもなった漫画だから、また観られるわよ。事実[1]

実写映画は2021年7月に公開。テレビアニメは2025年1月〜3月に放送

イト

観るかも。でも、最初は紙で、もう一回読む。

一冊目から入るなら

これから読むなら、雑誌じゃなくて単行本になると思う。私は、羽花が固い顔をしてる最初のほうを、急がずに読むのがいいと思った。そこを長く読んでおくと、あとで羽花が笑ったとき、そのコマがずっと大きく見える。私は、恋の話として読む前に、羽花の顔がほどけていく話として読んだ。そうすると、キラキラした場面にも、ちゃんと足がついて見えた。それと私は、界の顔より先に、羽花のまわりの女の子たちの顔を見ながら読んで、楽しかった。好み

初めての一冊がつないだもの

この一本がなかったら、少女漫画誌を毎月買う私はいなかった。毎月買ってなかったら、二本目の『君に届け』を中古で探すことも、一本目の『スキップとローファー』を紙で読み直すこともなかったと思う。6選のうち、紙で読む漫画は、全部この一冊目から始まってる。好み

一か月待って読む一話は、待っていたあいだに描いた顔の数だけ、長くなる。

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