私が初めて自分で買った少女漫画誌に載っていた漫画、『ハニーレモンソーダ』。最終回まで読みました。でも、最後のページのことは書きません。
付録が欲しかっただけ
小学四年生のとき、本屋で少女漫画誌の表紙を見て、付録のレターセットが欲しくなった。お小遣いを数えて、足りたから買った。目当ては付録だけ。家に帰って、付録を取り出して、雑誌のほうはついでにめくった。ついでのはずが、レモン色の髪の男の子が出てくるページで止まった。そこからずっと、毎月、発売日に買ってる。喜好
付録のレターセットは、いまも一枚も使ってない。引き出しに、買った順に全部とってある。姉に一枚ちょうだいって言われたときも、あげなかった。代わりに、普通の紙に便せんの絵を描いてあげた。最初の一枚を使ったら、あの日の、ついでにめくった気持ちまでなくなりそうな気がする。喜好
石と呼ばれていた子
最初のころの羽花は、顔が固い。笑うのも泣くのも、どこかに置いてきたみたいな顔。私はその顔を見て、あ、この子は、ここから変わる話なんだ、と思った。どう変わるかは知らないのに、変わる前の顔だっていうのは分かった。変わる前の顔を、ちゃんと長く描いてくれる漫画は、信用できる。解读
一か月の長さ
雑誌で読むと、一話読んだら、次は一か月後。いいところで終わると、一か月ずっとそのコマのことを考える。単行本でまとめて読む人には、たぶん一瞬のページ。私には、一か月あったページ。好きって言う前のコマが、いちばん長いんだよ。雑誌で読むと、それがほんとに一か月の長さになる。喜好
私は、まとめて読む派です。続きが手元にないと、落ち着かなくて。一か月、待つのはつらくなかったですか?
つらいよ。でも、待ってるあいだに、そのコマの顔を描くから。一か月で何枚も描ける。
……待つ時間に、描くんですね。その読み方は、私にはなかったです。
リリィは原作をまとめて読む人で、私は一話ずつ待つ人。どっちが正しいとかはない。私も、ほかの漫画は単行本で読んでる。ただ、この一本だけは、一か月ずつの読み方で最後まで来た。喜好
最初から最後まで
雑誌は、最初のページから最後のページまで、順番に全部読む。目当ての一本だけ先に読む、っていうのは、なんとなくしない。ほかの漫画を読んでるあいだも、頭のすみで、あとに残してある一本のことを考えてる。ごはんのおかずの好きなのを最後に食べるのと、ちょっと似てる。読者のおたよりのページも、まんがの描き方のページも読む。描き方のページで知ったことを、そのまま羽花の顔を描くときに試したこともある。喜好
羽花と一緒に大きくなった
私が読み始めたとき、羽花は高校生で、私は小学四年生。羽花のほうがずっとお姉さんだった。毎月読んでるうちに、私は小学校を卒業して、中学生になった。羽花の顔も、少しずつ変わっていく。私の背が伸びるのと、羽花が笑えるようになるのが、同じ速さだった気がする。一緒に大きくなった、なんて言うと大げさだけど、私の中では、だいたいそう。喜好
背景に咲いてる花
少女漫画は、気持ちが動くページの後ろに、よく花が咲いてる。私はそれを、図鑑で調べた本物の花で描き直すのが好き。漫画の花は、本物よりふわっとしてて、何の花か分からないことも多い。分からないときは、そのページの気持ちに合いそうな花を、図鑑から選ぶ。合ってるかは分からない。でも、選んでるあいだ、そのコマの気持ちをずっと考えていられる。喜好
最終回の号
最終回の号が出る日は、朝から少しそわそわしてた。学校から帰って、本屋で買って、縁側で読んだ。最終回だけ先に開きたかったけど、いつもどおり最初から順番に読んだ。最後の一話に行くまで、わざとゆっくりした。読み終わって、雑誌を閉じて、しばらく庭を見てた。何が描いてあったかは、書かない。書いたら、あの日の縁側が、ただの感想になっちゃう気がするから。喜好
観るかも。でも、最初は紙で、もう一回読む。
一冊目から入るなら
これから読むなら、雑誌じゃなくて単行本になると思う。私は、羽花が固い顔をしてる最初のほうを、急がずに読むのがいいと思った。そこを長く読んでおくと、あとで羽花が笑ったとき、そのコマがずっと大きく見える。私は、恋の話として読む前に、羽花の顔がほどけていく話として読んだ。そうすると、キラキラした場面にも、ちゃんと足がついて見えた。それと私は、界の顔より先に、羽花のまわりの女の子たちの顔を見ながら読んで、楽しかった。喜好
初めての一冊がつないだもの
この一本がなかったら、少女漫画誌を毎月買う私はいなかった。毎月買ってなかったら、二本目の『君に届け』を中古で探すことも、一本目の『スキップとローファー』を紙で読み直すこともなかったと思う。6選のうち、紙で読む漫画は、全部この一冊目から始まってる。喜好
一か月待って読む一話は、待っていたあいだに描いた顔の数だけ、長くなる。
