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三本目は『ジパング』だ。艦がどうなるか、誰が何を選ぶかは書かない。書くのは、判断の前の沈黙と、俺がノートに何を書き写したかだ。先に言っておく。俺はこの漫画を、戦いの話としてではなく、決める話として読んでいる。
最新鋭の艦が迷い込む
講談社の1巻の紹介によれば、西暦200X年6月、日米合同演習のため横須賀を出航した海上自衛隊の最新鋭イージス艦「みらい」が謎の暴風雨に遭い、1942年のミッドウェー海戦域にタイムスリップする。紹介文はこの作品を、「日本人とは何か」を問う超大作と呼んでいる。事実[1]
同じページには、著者はかわぐちかいじ、初出は『モーニング』2000年35号から、とある。事実[1]
大学2年の冬に読み始めた。道場帰りの古本屋で、1巻だけ買うつもりだった。……三日後には、ノートが一冊なくなっていた。好み
好きな理由1:撃てるのに撃たない
この漫画で重いのは、撃てる力があるなかで、どこまで撃つか、どこで撃たないかを決めるところだ。最新鋭の艦は、その時代の誰よりも強い。強いから、何でもできる。何でもできるから、何をしないかを決めなければならない。俺が考え続けている問いが、そのまま艦の上に置いてあった。強い者は、なぜ力を使わずにいられるのか。解釈
空手も同じだ。竜山先生は、強い者ほど手を出さないと教える。最初は意味が分からなかった。手を出さないなら、なぜ鍛えるのか。この漫画を読んで、少し分かった。手を出さないと決めるには、手を出せる力がいる。力のない者の「出さない」は、ただの「出せない」だ。解釈
好きな理由2:判断の前に沈黙がある
艦の上で、指揮する者たちが言い争う。意見が割れる。どちらにも筋がある。そして、決める者が黙る。その沈黙のコマが、俺は好きだ。吹き出しがなくなって、顔だけが並ぶ。言葉より、そこに判断の重さが出ている。解釈
俺は作戦ノートに、台詞ではなく、判断の順番を書き写した。何が分かっていて、何が分かっていないか。誰の意見を聞き、誰の意見を退けたか。そして、決めたあと、その結果を誰が背負ったか。書き写していくと、決めた者が言い訳をしていないことに気づく。決めた以上、背負う。それが筋だ。解釈
好きな理由3:乗員が一人ひとり違う
艦にはたくさんの乗員がいて、考え方がそろっていない。同じ制服を着ていても、守りたいものの順番が違う。だから話が一方向に流れない。誰か一人が正しくて、残りが間違っている、という読み方ができない。俺はそこに、この漫画の誠実さを感じる。解釈
組織の中で判断するというのは、たぶん、こういうことだ。全員が納得する答えはない。それでも誰かが決めなければ、艦は動かない。……決める役を引き受けた者の背中を、俺はずっと見ていた。解釈
俺の読み方:自分なら、と一度止まる
俺は、判断の場面に来たら、ページをめくる前に一度本を閉じる。自分ならどうするかを、ノートに一行だけ書く。それからページを開く。艦の上の判断と、俺の一行が同じだったことは、ほとんどない。たいてい、俺のほうが早くて、浅い。好み
段取りと判断が早いとよく言われる。悪いことではない。だが、早い判断には、見落としがある。この漫画を読んでから、俺は決める前に一つだけ確かめるようになった。この判断の結果を、誰が背負うのか。自分なのか、ほかの誰かなのか。ほかの誰かなら、その人に一言聞いてから決める。……それで、少し遅くなった。遅くなって、よかったと思っている。好み
苦手そうな人への入口
戦争の時代の海が舞台だから、戦いの場面も、つらい場面もある。俺はこの漫画を、戦いがかっこいいから読んでいるわけではない。むしろ逆だ。戦わずに済む道があるなら、それを探す者たちの話として読んでいる。苦手な人は、戦いのページは速く通り過ぎて、艦の中で人が話し合っている場面を追うといい。
長い漫画だが、まずは1巻だけでいい。艦が迷い込むところまで読んで、自分ならどうするかを一つだけ考えてみてほしい。答えが出なくていい。俺も、まだ出ていない。
ノートを読み返すと、俺の字は、判断の場面だけ小さくなっている。急いで書いたのではない。慎重になったのだと思う。艦の上の人間たちが、言葉を選んで話すのに合わせて、俺の字も選ばれていった。……竜山先生にそのノートを見せたら、字が小さすぎて読めんと笑われた。それでいい。あれは、俺が読むためのノートだ。好み
ほかの5本とのつながり
『ゴルゴ13』は一人で判断する男の話で、『ジパング』は大勢の中で判断する者たちの話だ。『SAMURAI 7』と『七人の侍』のカンベエも、村の中で決める役を引き受けていた。『バガボンド』の武蔵は、判断の前に、そもそも何のために剣を抜くのかを問い続けている。俺の6選は、どれも、決める者の背中の話だ。好み
力を使わないと決めるには、使える力がいる。そして、決めたら背負え。
