漫画は、雑誌で出会って、単行本で住みつく。ノアがそう言うと、レンは「じゃあ、その単行本の棚はいつからあるんだろう」と年表を開きました。出版社の小史を順に読むと、意外な名前が先に出てきます。
単行本というのは、雑誌のお話を一冊にまとめた本のことですか? シオルのふるさとでは、一冊の本はとても高価なんです。
1968年1月の「マーガレットコミックス」
単行本のレーベルって、少年漫画のほうが先に始まったイメージがあった。違うの?
僕もそう思ってた。でも集英社の小史の1968年の項には、こう書いてある。
集英社小史によると、1968年1月に「マーガレットコミックス」が発刊されました。小史はこれを、本格的なコミック単行本の先鞭をつけたもの、と説明しています。同じ年には「少年ジャンプ」も創刊されています。事実[1]
「先鞭をつける」は、ほかより先に手をつける、という意味。ここで大事なのは、小史が「本格的」と限定していることだと思う。それ以前に漫画の本がまったくなかった、とは書いていない。根拠のある推測
言葉の範囲をちゃんと読むの、レンらしい。じゃあ「この会社の年表では、少女漫画のレーベルが先に名前を挙げられている」までが確かなこと、だね。根拠のある推測
翌年の「ジャンプコミックス」
1969年の項では、10月に「少年ジャンプ」が週刊化して「週刊少年ジャンプ」になり、翌11月には、ジャンプの人気連載だった本宮ひろ志『男一匹ガキ大将』、永井豪『ハレンチ学園』などを単行本にした「ジャンプコミックス」が発刊されています。事実[2]
並べると、少女漫画のレーベルが先、少年漫画のレーベルが約2年後。しかも週刊化のすぐ翌月なんだ。毎週読む人が増えるのと、手元に残したい人が増えるのとが、ほぼ同時に動いたように見える。根拠のある推測
それって、ふるさとの写本師ギルドが、酒場で人気の歌だけを選んで絵巻に写すようなものですか?
近いけど、ここが違って。選んで残すところは似てる。でも年表に出てくるのは一冊の絵巻じゃなくて「レーベル」。同じ名前の棚に、次々と並べていく仕組みなんだ。解釈
あの名作もこのレーベルから
1972年10月には、「マーガレットコミックス」から池田理代子『ベルサイユのばら』の刊行が始まった、と小史は記しています。事実[3]
集英社の「マーガレット」創刊60周年の紹介記事でも、この雑誌から生まれた作品として『アタックNo. 1』『ベルサイユのばら』『エースをねらえ!』の名前が挙げられています。事実[4]
雑誌で毎週読んだ物語を、レーベルの背表紙で棚に並べ直す。私はその「並べ直す」ところに、翻訳とちょっと似たものを感じる。同じ物語なのに、本になると読み方の速さが変わるから。解釈
わかる。雑誌だと次の号まで待つけど、単行本だと次のページにすぐ行ける。同じ「引き」のコマでも、雑誌と単行本では効き方が違うはずなんだよね。答えは言わないけど、一度、雑誌で読んだ場面を単行本で読み返して比べてみてほしい。解釈
雑誌で出会って、単行本で住みつく。シオルもいつか、お気に入りのお話を自分の棚に住まわせたいです。
集英社の年表で「本格的コミック単行本の先鞭」と書かれているのは、1968年の少女漫画レーベル「マーガレットコミックス」。