土曜の昼、ゲンの家の居間。テレビの野球中継が終わったあと、ホマレは兄の棚から持ってきた古い野球漫画を、中継をいっしょに観に来ていたカオルの前に置きました。表紙には『ドカベン』。ゲンはソファで、試合の余韻にひたっています。
ドカベンってなに
カオルさん、ドカベンってなに? 人の名前?
『ドカベン』は水島新司さんの野球漫画で、『週刊少年チャンピオン』に1972年から1981年まで連載されました。1976年から1979年にはフジテレビ系でテレビアニメも放送されています。事実[3]
あだ名やねん。主人公の。
あだ名? なんでドカベンなの?
主人公の山田太郎は、大きな弁当箱がトレードマーク。「ドカベン」は、その山田の愛称です。事実[4]
しかも始まりは野球ではありません。最初の舞台は鷹丘中学で、描かれていたのは柔道でした。山田は柔道部にいて、話の途中から野球部へ移っていきます。事実[1]
野球を始めてからの山田のポジションは捕手です。事実[1]
柔道から野球? そんなの、ありなの?
ありやったんやろな。私な、そこが好きやねん。最初の何冊かは、まだ誰もこの子がマスクかぶると思てへん。表紙だけ見て読みはじめたら、びっくりするで。好み
柔道も投げるし、野球も投げるね。
うまいこと言うやん。投げる中身はぜんぜんちゃうけどな。人を投げたら退場や。
アウト三つで終わり?
ほな、ホマレに問題。アウト三つ取ったら、ショートはどうする?
ベンチに走って帰る。いちばん先に帰ると、気持ちいい。好み
それがな、すぐ帰ったらあかん時があんねん。
野球では、三つ目のアウトを取ったあとでも、守る側は審判に「アピール」ができます。たとえば、フライが捕られたのに三塁ランナーが三塁に戻らずホームへ走っていた場合、守る側がボールを持って三塁を踏み、それを審判に訴える。認められれば、そのアウトが「四つ目」として三つ目と入れかわり、ホームに入った点は消えます。事実[6]
四つ目のアウト? それ、ほんと?
ただし、このアピールは、守る側の選手たちがベンチへ戻ろうとしてフェアの地域を出てしまう前にしなければなりません。出てしまえば、その権利はなくなります。事実[6]
せやから、三つ目のアウトを取っても、すぐ引き上げたらあかん時があるんよ。根拠のある推測
寝ている間の一点
……父ちゃん、寝てる。
『ドカベン』には、この決まりが使われる試合の場面があります。守る側がアピールをしないまま引き上げてしまい、入らないはずの1点が認められる。野球好きのあいだで、「ルールブックの盲点」として話題にされてきた場面です。事実[1]
のちには実際の甲子園でも、この決まりを使ったプレーが話題になっています。事実[5]
細かいルールの話になったら、ゲンさんはいっつもこうや。まあええわ、寝かしとこ。
盲点って、なに?
見えてるはずやのに、見えてへんとこ。ルールがまちがってるんやなくて、みんなが忘れてるとこやね。私の少年野球の監督は、三つ目のアウトのあとも、ボール持ったまま帰ってこい言うてた。あれ、意味あったんやなあ。好み
ベンチに帰る前に
じゃあ、おれ、三つ目のアウトのあと、まわりのランナー見てから帰る。好み
ほんで、見つけたらどうする?
えっと……ボール持ってる人が、戻ってないランナーの塁をふむ?
そう。で、ふむだけやなくて、審判さんに向かってちゃんと言う。私の監督は、黙ってふんでも伝わらへんで、声出せ、って毎回言うてた。好み
声なら、父ちゃんに負けない。
ゲンさんに勝ったら、審判さんのほうがびっくりするわ。
それ、ええショートや。私はあの場面を読むたびに、自分がショートやったら気づけたかなって、一回ページを止めてまう。解釈
その場面、何巻?
それは自分で探し。柔道の巻から順番に読んだら、もっとおもろいで。……あ、ゲンさん起きた。
アウトを三つ取っても、試合はまだ止まっていない。ベンチに帰る前にふり返る一歩で、入るはずの1点が消えることがある。