わたしの6選

『フルーツバスケット』で距離を決め直す

小学生のころに出会い、同じ場面を何度も見返した少女漫画。近づきすぎず、離れすぎず、相手ごとに距離を決め直す。スイの読み方の土台になった『フルーツバスケット』の好きなところを話します。

こんな人に
人との距離の取り方に迷っている人、昔読んだ少女漫画をもう一度ひらいてみたい人へ。
ネタバレの範囲
ネタバレなし 第1巻の導入の設定まで。草摩家の秘密の中身や展開には触れません
話している人
スイ × イロハ
主張の種類: 事実 作中の観察 根拠のある推測 解釈 好み
目次 全8節・約5分
  1. 表情を何度も見返した小学生
  2. 好きな理由1 近づき方に一人ずつ違う距離がある
  3. 好きな理由2 同じ場面を別の人の側から読みたくなる
  4. 好きな理由3 にぎやかさが重さを運んでくれる
  5. いまも続けている小さな遊び
  6. 苦手かもしれない人へ
  7. アニメで観るなら
  8. ほかの5作とのつながり

6選の二つめは『フルーツバスケット』です。私が初めて「同じ場面を、何度も見返した」漫画。好きなところを話すと、つい人物の秘密に触れたくなるのですが、今回はぐっとこらえて、導入の設定と、私が見ていたコマの種類だけで書きます。

表情を何度も見返した小学生

高屋奈月さんの少女漫画が原作です。連載は白泉社の『花とゆめ』で1998年に始まり、2006年まで続きました。事実[1]

物語の始まりは、母親を亡くした本田透のテント暮らしです。一人で暮らしていたその場所は、草摩家の敷地でした。それが縁になって、透は草摩由希、草摩夾と同じ家で暮らすことになります。事実[2]

私が読み始めたのは、小学校の低学年のころでした。物語の全部はまだわかっていなかったと思います。それでも、登場人物の表情だけは、ページを戻して何度も見ていました。笑っているのに、目だけが少し遠い。怒っているのに、口の端がゆるんでいる。台詞と表情が少しずれているコマに、なぜか引き寄せられていました。好み

イロハ

その「ずれ」、私も好き。台詞は明るいのに、背景の白さが急に広くなるコマとか。余白が、言わなかったことの分だけ増える感じがする。解釈

スイ

余白が増える、かあ。私は顔ばかり見ていたから、余白の広さは気づいてなかった。今度そこも見てみるね。

好きな理由1 近づき方に一人ずつ違う距離がある

透は、誰に対してもやさしい人です。でも、私が惹かれるのは、そのやさしさが一律ではないところ。相手によって、声をかける前に少し待ったり、一歩引いて見守ったり、ときには思いきって近づいたりする。同じ「やさしい」でも、距離の取り方が人ごとに違うんです。解釈

子どもの私は、仲良くなるには近づけば近づくほどいいと思っていました。この作品を読んで、近づかないことが思いやりになる場面もあるのだと知りました。距離は一度決めたら終わりではなく、相手と、その日のその人に合わせて決め直すもの。私の人間関係の読み方は、たぶんここから始まっています。解釈

好きな理由2 同じ場面を別の人の側から読みたくなる

小学校の高学年になると、読み方が変わりました。同じ場面を、透ではなく、隣で黙っている人の側から読み直したくなったんです。この人は今、何を言わずにいるんだろう。この作品は、主人公以外の人にも、ちゃんと心の奥行きが用意されています。だから、視点を移すたびに同じ一コマが違って見えます。好み

今思えば、私の研究テーマの「同じ言葉が、関係の変化で違って聞こえる理由」は、この読み直しの遊びがはじまりでした。最初に読んだときは何気なかった一言が、その人の事情を知ったあとでは、まるで違う重さで聞こえる。その体験を、私はこの漫画で何度もしました。好み

好きな理由3 にぎやかさが重さを運んでくれる

家族や孤独のことを描いているのに、この作品はとてもにぎやかです。言い合い、ずっこけ、大げさな驚き顔。私は繊細な会話劇が好きなのに、こういうドタバタの場面で声を出して笑ってしまいます。そして笑ったあとに来る静かな場面が、ずっと深く入ってくる。笑いは、重いものを読み手のところまで運ぶ台車みたいだと、私は受け取っています。解釈

いまも続けている小さな遊び

大人になったいまも、私はときどきこの漫画を読み返します。そのとき、ひとつだけ決めごとをしています。読み始める前に、今日はこの人の側から読む、と一人を選ぶこと。そして読み終わったら、その人について気づいたことを一行だけメモします。笑っていた回数でも、黙っていた場面でもかまいません。好み

同じ一冊でも、選ぶ人を変えるたびに、まったく違う物語になります。ある回では脇にいたはずの人が、別の回では物語の真ん中に立っている。子どものころに「表情を見返していた」遊びが、いまはこういう形になりました。この漫画は、何度ひらいても、まだ会っていない誰かが残っている気がします。好み

苦手かもしれない人へ

少女漫画の絵柄やにぎやかさに慣れていない人は、最初の数話を「同居もののコメディ」として気楽に読んでみてください。慣れてきたら、一度だけ、主人公以外の誰か一人を決めて、その人の顔だけを追う読み方を試してほしいです。それだけで、同じページが少し違う物語になると思います。好み

アニメで観るなら

公式サイトの紹介によれば、『フルーツバスケット』のTVアニメ化は2001年のことで、テレビ東京系で全26話が放送されています。事実[3]

そのあと、原作を全編アニメ化した新しいテレビアニメも作られています。監督は井端義秀さん、シリーズ構成は岸本卓さん、アニメーション制作はトムス・エンタテインメント。本田透の声は石見舞菜香さんです。事実[4]

小学生の私がページを戻して見返していた表情は、アニメでは声と一緒にやってきます。明るい台詞の語尾や、笑い声のあとの短い間に、言わなかったことが混ざって聞こえる瞬間がある。台詞と表情の「ずれ」を耳からも受け取れるのは、アニメならではだと私は感じました。好み

絵をじっくり見返したい人は漫画から、にぎやかな掛け合いのテンポに乗りたい人はアニメから入るのがいいと思います。人に勧めるときは、「今日は誰の声を追うか、一人決めて観てみて」と添えたい。私がノートでしていた遊びが、アニメでもそのまま使えます。好み

ほかの5作とのつながり

好きなキャラクターの一人めに本田透を挙げているのは、この「距離を決め直す」姿があるからです。中学生で読んだ『3月のライオン』の、助けることと助けられることの話も、働き始めてから観た『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の、返事を急がせない優しさも、根っこをたどるとこの漫画の近づき方に行き着きます。好み

やさしさに決まった距離はない。今日のその人に合わせて、一歩近づくか一歩待つかを選び直していい。

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出典

  1. INTRODUCTION | TVアニメ「フルーツバスケット」公式サイト fruba.jp
  2. INTRODUCTION | TVアニメ「フルーツバスケット」公式サイト fruba.jp
  3. INTRODUCTION | TVアニメ「フルーツバスケット」公式サイト(アニメ化の歩み) fruba.jp
  4. CAST/STAFF | TVアニメ「フルーツバスケット」公式サイト fruba.jp

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