『ペンギン・ハイウェイ』を観直しました。一周目の私は、どうして町にペンギンが現れるのか、その答えを早く知りたくて前のめりでした。二周目は答えを知っています。だから今回は、答えを探す少年の手元を見ることにしました。何を書き、何に名前をつけ、どこで書くのをやめるのか。最後まで観た人向けのノートで、展開にふれるところは畳んであります。
二周目を始める前に
森見登美彦さんの長編小説(第31回日本SF大賞受賞作)を原作に、2018年8月17日に公開されたアニメーション映画です。監督は石田祐康さん、脚本は上田誠さん。短編を手がけてきたスタジオコロリドの、初めての長編作品です。事実[1]
少年のノート
主人公のアオヤマ君は小学4年生。何でも実験しないと気がすまない研究者気質で、「スズキ君帝国」「プロジェクト・アマゾン」「お姉さん」「妹わがまま記録」といった研究をノートにまとめています。ノートの書き方を教えたのはお父さんで、息子の研究を温かく見守り、ときに考えるヒントを渡します。事実[2]
二周目の見どころの一つめは、アオヤマ君が何に「名前」をつけているかです。クラスの乱暴者の振る舞いには帝国の名を、水路の探検には川の名を。名前をつけると、分からないものが、調べられるものに変わる。私も旅先で、知らない通りに勝手な呼び名をつけて手帳に書くことがあります。正式な名前を知る前の、自分だけの呼び名。アオヤマ君のノートは、その呼び名の帳面に見えました。解釈
題名は帰り道の名前
題名は、森見さんがテレビのドキュメンタリー番組で知った言葉に由来します。ペンギンが海から巣に戻る道を「ハイウェイ」と呼ぶことに惹かれたそうです。映画のアオヤマ君も、海から陸の巣に向かう通り道をそう呼ぶと知って、ペンギンの調査を「ペンギン・ハイウェイ・プロジェクト」と名付けます。事実[3]
一周目は、かわいい響きの題名だと思っていました。二周目は、これが「帰り道」の名前だということが気になって仕方がなかった。二周目の見どころの二つめは、この映画で、誰がどこへ帰ろうとしているのかを数えることです。解釈
本から借りた名前
原作の執筆当時、森見さんはスタニスワフ・レムの小説『ソラリス』を読んでいて、その影響から「理解できない不思議な存在とどう向き合うか」というテーマが取り入れられています。映画では、アオヤマ君が歯医者でスズキ君に「歯を全部抜かれるスタニスワフ症候群」と嘘をついて泣かせる場面があります。森の中には、お姉さんが本で読んだ怪獣ジャバウォックも現れます。事実[4]
二周目の見どころの三つめは、物語の中に紛れこんだ「本から借りた名前」です。でたらめの病名に作家の名前が入っていて、森の怪獣には本の中の名前がついている。私はこういう名前を見つけると、作品の奥にもう一段の本棚があるような気がしてうれしくなります。一周目は笑って流した嘘の病名が、二周目には、原作が向き合った問いへの小さな目印に見えました。解釈
海辺のカフェとチェス
お姉さんは、アオヤマ君が通う歯科医院で働く歯科助手です。海辺の町の出身で一人暮らし。歯科医院の近くの「海辺のカフェ」で、週に1回アオヤマ君にチェスを教えています。事実[5]
私は週末に同じ喫茶店の窓ぎわで、同じ一冊を開く癖があります。だから、決まった店で決まった相手と向かい合う時間には、つい肩入れしてしまう。二周目は、カフェの場面でお姉さんが何を話し、何を話さずにいるかを見てください。チェスの手を考えるふりをして、言葉を選んでいる間があります。好み
町を離れるとき
中盤まで中盤の展開押すと開きます
ウチダ君が見つけたペンギンのペンタは、何も飲み食いしないのに元気でした。水族館で調べようと電車で運ぶと、町から離れるにつれて弱り、コーラ缶に戻ってしまいます。のちにお姉さんも、故郷の海辺の町へアオヤマ君を日帰り旅行に誘いますが、電車で町から離れると具合が悪くなる。食欲がわかず、何日も食べなくても平気だと話します。事実[6]
中盤まで中盤の展開(続き)押すと開きます
二周目の見どころの四つめは、電車の場面です。ペンタのときと、お姉さんのとき。同じ「町を離れる」が二度描かれていて、一度目が二度目の予告になっています。旅が好きな私にとって、町を出られない人の物語は、いつも少しだけ胸が詰まります。海辺の町の出身だと言う人が、海を見に行こうとして具合を悪くする。その食い違いを、アオヤマ君はノートにどう書いたのだろうと考えました。解釈
草原の観察記録
中盤まで中盤の展開(草原の球体)押すと開きます
アオヤマ君、ウチダ君、ハマモトさんの3人は、森の先の草原に浮かぶ水のような球体を「海」と呼び、秘密にして、夏休みのあいだ観察記録を取り続けます。アオヤマ君が作った小型の観測機「ペンギン号」を投げ入れると、機体は透明な「海」の中で消えてしまいます。事実[6]
結末・正体結末と正体押すと開きます
アオヤマ君は、「海」の正体は空間が歪んで「世界の果て」が現れた穴のようなものだと仮説を立てます。お姉さんが作り出すペンギンは世界の修復者で、お姉さんは人間ではありませんでした。「海」が消えたあと、お姉さんは、大人になって謎を解いたら会いに来て、と言い残してペンギンとともに消えます。立派な大人になって世界の果てを見つけ、お姉さんと再会する日を「信念」とするアオヤマ君は、草むらで、なくした観測機のペンギン号を見つけます。事実[7]
結末・正体結末を知ってから押すと開きます
森見さんは原作を書くとき、子どものころに感じた「自分の家の近所には『世界の果て』のような不思議な場所がある」という想像力を生かしたと伝えられています。事実[8]
結末・正体結末を知ってから(続き)押すと開きます
その言葉が、結末でアオヤマ君の仮説の中にそのまま現れる。二周目に冒頭へ戻ると、ノートを書き続ける少年は、最初から世界の果てへの帰り道を記録していたように見えます。なくした観測機が最後に見つかるのは、研究がまだ終わっていないという印だと、私は受け取りました。答えを知って終わるのではなく、答えを確かめに行く人として、物語を閉じている。解釈
二周目は、アオヤマ君がノートに何を書き、何に名前をつけるかを見て。書かれない余白にも気持ちが出る。
