目次
はじめまして、リリィです。好きな6作品を一つずつ紹介していきます。一冊目は、私が魔法を好きになった入口の本、『ハリー・ポッターと賢者の石』。冒頭の設定より先の出来事には触れないので、まだ読んでいない人も安心してください。
手紙を待っていたころ
出会ったのは8歳か9歳のころです。最初の一冊をどんな形で手に取ったのか、実はもうはっきり覚えていません。覚えているのは、読み終えてからしばらく、郵便受けを開けるときに少しだけ背伸びをしていたこと。手紙が届く日を、わりと本気で待っていました。11歳の誕生日の朝も、ちゃんと確かめに行きました。もちろん、届いたのは地域のお知らせだけでした。好み
え、ほんとに待ってたの?
……待ってた。仕組みとしてありえないのは、分かってたよ。でも、確かめないで諦めるのは、もっといやだったの。好み
日本語版は、J.K.ローリングさんの作、松岡佑子さんの訳で、静山社から出ています。単行本の出版年月日は1999年12月1日です。事実[1]
好きな理由1:冒険の始まりが招待状
静山社の紹介文には、平凡な家で育ったハリーが11歳の誕生日を迎えると、突然手紙が届き、それが魔法学校への入学許可証だった、と書かれています。事実[2]
私がいちばん好きなのは、この「始まり方」です。剣を拾うのでも、扉を壊すのでもなく、手紙が来る。しかも中身は入学の許可。冒険の入口が「あなたは学びに来ていい」という知らせなんです。知らない世界に入る資格が、強さではなく、学ぶ席として用意されている。そこに、小さかった私はすっかり心をつかまれました。解釈
好きな理由2:駅のホームに隠れた入口
同じ紹介文には、キングズ・クロス駅の「9と3/4番線」から魔法学校行きの汽車が出る、とあります。事実[2]
ねえ、ここ。9番線でも10番線でもなく、そのあいだ。私は、魔法の世界が遠いどこかではなく、毎日たくさんの人が通る駅の、数字と数字のすき間に置かれているのが好きなんです。いつもの場所に、まだ誰も数えていない場所がある。その考え方は、いまでも駅の案内板を見るたびに少しだけ思い出します。……数字の並びを確かめる癖がついたのは、たぶんこの本のせいです。解釈
好きな理由3:魔法の世界にも時間割がある
魔法学校に着いてからも、そこには授業があり、寮での暮らしがあり、覚えなければいけないことがたくさんあります。魔法が使える人たちでも、最初から全部できるわけではない。学ばないと、使えない。作中の観察
私が魔法を見るときにいつも考えるのは、「この世界で暮らしたら、何を知りたくなるだろう」ということです。この本は、その問いにいちばん最初に付き合ってくれました。朝ごはんは何を食べるのか。宿題はあるのか。迷子になったら誰に聞くのか。派手な呪文の場面より、そういう日々の手触りが書かれているところで、私は本を閉じられなくなりました。待って、そこの話、ほんとはもっとしたいの。授業の名前も、教科書の並べ方も、時間割の組み方も、ぜんぶ知りたくて、ノートに表をつくって……。……ごめん、続けていい?好み
主人公は、自分が何者かもよく知らないまま新しい世界に入っていきます。知らないことを知らないと言いながら、少しずつ居場所を見つけていく。その姿は、私には「詳しい人」よりずっとまぶしく見えました。解釈
この世界で暮らしたら知りたいこと
読み返すたびに、私のノートには質問が増えていきます。魔法の世界の子どもたちは、入学する前にどんな遊びをしていたんだろう。手紙を受け取らなかった人たちは、そのことをどう思っているんだろう。休みの日には何をして過ごすんだろう。本の中に答えが書いてあるものもあれば、どこにも書いていないものもあります。解釈
答えが書いていない質問は、ノートの桃色のページに移します。「こうだったらいいな」のページです。そこが一番ふくらんでいるのは、たぶんこの本のせいです。物語が全部を説明しないでいてくれるから、読み終わったあとも、その世界にもう少し住んでいられる。私は、そういう余白のある本が好きです。好み
紹介ページのいちばん上の一文
静山社の本の紹介ページを開くと、いちばん上に「ハリー、おまえさんは魔法使いだ」から始まる一文が置かれています。事実[3]
この一文を見るたびに思うのは、誰かに「あなたはここに入っていい」と言ってもらえることの大きさです。私は魔法使いではありません。それは知っています。でも、本を開くたびに、その一文の半分くらいは、読んでいる私にも向けられている気がするんです。解釈
長さが心配な人への入口
長いシリーズの一冊目、と聞くと身構える人もいると思います。静山社のお知らせによると、シリーズ全巻は現在4つのバージョンで出ていて、本の大きさやルビ(ふりがな)などに違いがあるそうです。事実[4]
だから、まずは本屋さんや図書館で、持ったときに重すぎない版、ルビの量が自分に合う版を選んでみてください。それから、最初は手紙が届くところまで読む、と決めてしまうのがおすすめです。そこまで来れば、きっと続きは自分で決められます。逆に、学校ものの「規則」や「寮」の空気が苦手な人には、少し窮屈に感じる場面があるかもしれません。そういう日は、駅のホームの場面だけ読み返すのも、ひとつの楽しみ方です。
ほかの5作へつながる扉
この本で「学ぶことが冒険になる」と知った私は、そのあと、魔法を描いて学ぶ『とんがり帽子のアトリエ』や、本をつくるところから始める『本好きの下剋上』に出会いました。知らない町で暮らす『魔女の宅急便』、衣装だんすの奥へ続く『ナルニア国物語』、謎を考える時間そのものが楽しい『レイトン教授と不思議な町』。並べてみると、どれも「入口がある話」です。私の好きな作品は、この一通の手紙から始まった扉の列なのかもしれません。好み
冒険の入口が「学びに来ていい」という手紙だった。だから私は、知ることを冒険だと思えるようになりました。