アニメ『おおきく振りかぶって』の第1期を最後まで観た人向けの、二周目の話です。展開にかかわるところは畳んであるから、まだの人は開かんといて。聞き手はハル。何か挑戦する前に、二人でバッティングセンターに行く相手です。
今日の気分はどう? 僕は、この作品の話なら一日できそう。
一日はあかん、店あるから。ほな、試合一つぶんだけな。
観直す前の確認
第1期は2007年4月から9月まで放送され、全25話に未放送の1話がある。監督は水島努さん、シリーズ構成は黒田洋介さん、アニメーション制作はA-1 Pictures。原作の単行本8巻までのストーリーを描いている。事実[1]
原作は、主人公の投手が「弱気で卑屈な性格」という、野球漫画として異例の人物造形で、「スポ根」の要素がまったくない作品として紹介されている。事実[1]
エースで4番やった私からすると、最初は三橋くんがほんまにもどかしかった。マウンドでおどおどしたらあかん、て子どものころ散々言われてきたから。二周目は、そのもどかしさがどこから来てるのかを見る旅になった。好み
第1話の題を先に読む
第1話の題は「ホントのエース」。三橋廉は中学時代、祖父が経営する群馬の三星学園で野球部のエースだったが、チームメイトから「ヒイキでエースをやらせてもらっている」と疎まれ続け、極端に自虐的な性格になってしまった。事実[1]
「ホントの」て、わざわざ付けてある。一周目は流してた。二周目は、この一語が25話ぶんの問いやと思って観てほしい。ホントのエースって何や。球が速い子か。勝てる子か。番号もろた子か。この作品は、そのどれでもない答えを探しに行く。解釈
僕は昔、主人公になりたかったから、三橋くんの気持ちがちょっと分かる。前に立ちたいのに、前に立つと怖いんだよね。好み
捕手の言葉の変わり方
三橋とバッテリーを組む捕手の阿部隆也は、三橋の独特の球筋と並外れた制球力に気づき、最初は三橋を自分の言いなりに投げさせればいいと考える。事実[1]
二周目は、阿部くんが三橋くんにかける言葉を、ノートに書き出すつもりで聴いてほしい。命令の形か、お願いの形か、問いかけの形か。一周目は試合の流れを追うので精いっぱいで、言葉の形までは聴けてへんかった。解釈
中盤まで序盤の展開(三星学園との練習試合)押すと開きます
野球部の初めての試合になった、因縁の三星学園との練習試合をきっかけに、阿部やチームメイトは、本当のエースとしての三橋の成長を望むようになっていく。
第3話の「練習試合」から、第9話の「過去」あたりまで。二周目はここで、阿部くんの言葉の形が変わる瞬間を探してほしい。言いなりにさせる捕手から、一緒に投げる捕手へ。私はここで、昔バッテリーを組んでた子の声を思い出した。あの子の「次、なに投げたい?」が、私をいちばん楽にしてくれた。事実[1]
言葉の形、か。僕、後輩に何か頼むとき、いつも命令の形になってる気がする。……二周目、自分の耳が痛くなりそう。好み
途中から変わる音
アニメの効果音は、実際に高校球児が練習しているときの音が使われている。原作者の母校で舞台のモデルでもある埼玉県立浦和西高校の野球部を訪ねて、バットの芯に当たった音やチップの音、プロテクターにわざとボールを当てた音を録音した。この実録の効果音が使われ始めたのは、三星との練習試合の途中から、とされている。事実[1]
これ、二周目でいちばん楽しみにしてほしい仕掛けや。イヤホンで観てみて。どこかで、打球の音がほんまもんになる。元野球少女として言わせてもらうと、芯に当たった音とちょっと詰まった音は、ほんまに全然ちがうねん。あの音がしたら、外野は一歩目でもう分かる。好み
バッティングセンターでカオルさんが打つ音と、僕が打つ音、確かに全然違うもんね。作中の観察
それは言わんでええ。……いや、ハルの音もだいぶ良うなってきたで。
まっすぐではないまっすぐ
三橋の球は速くないが、“まっすぐ”と4つの変化球を、9分割したストライクゾーンに投げ分けられる制球力を持つ。投球指導を受けずに身についた“まっすぐ”は、きれいなバックスピンのかかっていない不規則な回転で、打者の予想より落ちてこず浮いているように感じる癖球、とされている。事実[1]
誰にも教わらんかったから身についた球、ていうのがええなあ。一人で投げ続けた時間が、そのまま武器になってる。二周目は、三橋くんが投げる瞬間より、打者が振ったあとの顔を見てほしい。浮いた、て顔してるから。解釈
若い監督の段取り
西浦高校の野球部は、軟式から硬式に変わったばかりで部員は新入生ばかり。監督は若い女性の百枝まりあで、選手のやる気を引き出す力、指導力、統率力に優れている。事実[1]
私は接客の仕事をしてるから、モモカンの段取りに目が行く。言葉で押すときと、黙って待つときの切り替え。二周目は、モモカンが話す前に一拍置く場面を探してみて。その一拍で、選手の顔が変わってる。解釈
関係でできている野球
精神科医の斎藤環さんは、この作品の画期性を、スポーツ漫画にはじめて「関係主義」を全面的に導入した点に集約されるのではないか、と評している。事実[1]
関係主義、て難しい言葉やけど、私なりに言うたら「一球が、投げる人と受ける人と守る人のあいだで決まる」ていうことやと思う。二周目は、ボールが飛んでるあいだ、画面に映ってへん人のことを想像しながら観てみて。ベンチで声出してる子、スタンドで応援してる人。一人のエースの球に、何人ぶんの気持ちが乗ってるか。解釈
主人公であることと、一番強いことは別なんだよね。僕がこの数年で分かったこと、この作品は最初から知ってた感じがする。解釈
最後の二つの題
第1期の最後の二話には、短い題が並んでいる。二周目は、再生する前に題を読んでおいてほしい。解釈
結末・正体結末(第25話まで)押すと開きます
第24話の題は「決着」、第25話は「ひとつ勝って」。夏の大会の初戦、二回戦で、西浦は前年度優勝の桐青高校と対戦し、チーム全員で何度も訪れるピンチを耐えしのいで、好投手の高瀬からワンチャンスをものにし、5対4で勝利する。
第1話の「ホントのエース」と、第25話の「ひとつ勝って」を並べて読んでほしい。大きな題で始まって、小さな題で終わる。私はこの小ささがたまらん。勝ったのは一つだけ。でも一人で背負ってた子が、みんなで一つ勝った。エースが一人で背負うもんを、仲間がどう分け合うか。その答えが、この控えめな題の中にある気がする。事実[1]
大きな題で始まって、小さな題で終わる……。僕、すぐ大きいことを言いたくなるから、それ覚えとく。好み
二周目はイヤホンで三星との練習試合を観る。打球の音がほんまもんに変わる瞬間に、この作品が本気になる場所がある。