TVアニメ『頭文字D』のFirst Stageを最後まで観た人のための、二周目の案内です。まだ観ていない人は、ここで戻って第1話からどうぞ。勝負の行方を知らずに観られるのは一回だけですから。展開に触れるところは、押さないと開かない箱に入れました。箱の外では、勝負の中身は書きません。
一周目の僕は勝負だけを待っていた
中学生で初めて観たとき、僕は勝負の回を待っていました。配達の朝や、ガソリンスタンドでの雑談の場面は、正直に言うと少し早送りしたくなっていた。二周目を観たのは、カートで自分の走りが伸び悩んでいたころです。速い人は、勝負の前に何をしているのか。それを確かめたくて、もう一度第1話から観ました。好み
First Stageは1998年4月19日から12月6日まで、フジテレビ系列を主とする地上波で放送された全26話です。事実[1]
師匠が早送りしたくなる場面なんてあったのかよ。俺は勝負しか覚えてねぇ。
ありました。でも二周目は、その場面ばかり巻き戻していました。好み
配達の時間にあるもの
Wikipedia日本語版のあらすじでは、拓海は父が営む「藤原とうふ店」の配送を中学生時代から手伝い、秋名山の峠道で毎日ハチロクを走らせるうちに、非凡な運転の技術を身につけていた、とされています。事実[2]
二周目にまず観てほしいのは、配達の時間です。劇中では、水の入ったコップを使った運転の話が語られます。一周目の僕には、ちょっとした小ネタに聞こえていました。二周目は、あれが毎朝の採点表に聞こえます。水をこぼさないように走るには、アクセルもブレーキもハンドルも、急に動かせない。荷重を少しずつ移して、車を揺らさない。速さの土台が、あの水面に全部出ているんです。解釈
……あ、すみません。コップの話になると、つい長くなります。カートでも、ハンドルを急に切ると、タイヤが鳴いて遅くなる。ていねいなほうが速い。僕の口ぐせの「速さはブレーキの手前で決まる」は、たぶんこの車内から来ています。好み
無口な父の背中
同じ説明には、拓海の技術はすべて、かつて「伝説の走り屋」と言われた父・藤原文太による英才教育だった、と書かれています。事実[2]
一周目の文太は、無愛想で、たばこをくわえて店にいるだけの父親に見えました。二周目は、彼の短い言葉の一つひとつが、教えに聞こえてきます。説明はしない。やってみろ、とだけ言う。息子が自分で気づくまで待つ。僕にタイヤの磨き方を教えてくれたカート屋のおじさんも、同じでした。答えを言わずに、手元を見せてくれた。二周目は、文太が画面のすみにいる場面で、彼の目がどこを見ているかを追ってみてください。解釈
教えねぇで待つ、か。俺なら三日で投げ出してる。……別に、師匠のことを言ってるわけじゃねぇ。
ジンさんには、最初に一つだけ言いましたよね。ブレーキは、速く走るためにあります、って。あれも、文太の真似かもしれません。好み
目を閉じて音で観る
レーシングドライバーの土屋圭市さんは、アニメ版の監修と、ハチロクのエンジン音・スキール音の収録を務めています。事実[3]
二周目のおすすめは、走りの場面で一度、目を閉じることです。エンジンの回転が上がる音、シフトの間、タイヤが鳴きはじめる手前の音。絵を観ているときより、運転している人の足と手が見えてきます。僕がふだん電車の中でやっている、頭の中のコースを一周するイメージトレーニングと、ほとんど同じ観方です。好み
画面に出る注意の一文
作中の技術を実際に真似ようとする人が現れたため、連載の途中とテレビアニメ版では、道路交通法を守り安全運転を心がけてください、という注意のメッセージが表示されるようになりました。事実[4]
一周目は読み飛ばしていたこの一文を、二周目の僕は毎回ちゃんと読んでいます。峠の勝負は物語の中の話です。僕が速さを競うのはサーキットとカートのコースだけで、ふだんの道では法定速度を守ります。道は、みんなのものですから。二周目でこの一文が目に入るようになったのは、物語と道のあいだに線を引く大事さが、前よりわかったからだと思います。好み
俺も公道じゃ法定速度だ。師匠との約束だからな。それは契約だろ?
拓海の目の高さ
一周目の拓海は、車にも勝負にも興味のない、ぼんやりした高校生に見えました。二周目は、その「ぼんやり」の中身に目を凝らしてみてください。表情が大きく変わる人ではないので、目の高さと、ハンドルを握る手のアップに注目すると、見えてくるものがあります。解釈
結末・正体結末押すと開きます
Wikipedia日本語版のあらすじでは、First Stageは、拓海が赤城レッドサンズのナンバー2・高橋啓介に勝利し、「秋名のハチロク」の噂が群馬県内全域に広まっていくところまでです。リーダーの高橋涼介との勝負は、続くSecond Stageに置かれています。
一周目の僕は、最後の勝負を速さ比べとして観ました。二周目は、毎朝の配達で積み上げてきた体が、勝負の夜にもそのまま出ているように見えました。この勝負の拓海の車からは、焦った音があまり聞こえない気がします。配達の朝と勝負の夜が、同じリズムでつながっている。勝ったあとの拓海の小さな表情の変化まで、早送りせずに観てください。
二周目の観方メモ
最後に、僕の二周目のやり方を三つ。一つめ、配達の場面を早送りしない。二つめ、文太が出てくる場面では、文太の目線を追う。三つめ、走りの場面で一回だけ目を閉じて、音だけで観る。勝負の結果を知っているから、勝負の手前にあるものがよく見えます。好み
……配達の回、俺も観直してみる。コップは見ねぇけどな。
コップも、ぜひ見てください。
二周目は、配達の話に出てくるコップの水面を思い浮かべながら観てください。速さの答えは、勝負の手前にあります。