土曜の昼、ミサ先生のダンス教室。レッスンが終わって、鏡の前でストレッチをしていたリリィは、かばんから一冊のノートを出しました。表紙には「説明できないことノート」。となりで脚をのばしていたイロハさんが、開いたページをのぞきこみました。
世界で初めての長編アニメーション
イロハさん、昨日、家で古いディズニーの『白雪姫』を観たんです。調べてみたら、思っていたより、ずっと大変なことをした映画でした。
『白雪姫』の原作は、グリム兄弟の童話「白雪姫」。長編のアニメーション映画としては、これが世界で最初の作品です。作ったのはウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオで、その長編の第1作でもあります。監督はデイヴィッド・ハンドさん、テクニカラーの作品。初めて上映されたのは1937年12月21日で、場所はロサンゼルスにあるカーセイ・サークル劇場でした。Fact[1]
そんなに昔の映画なんだ。そのころの映画の色って、どんな色なんだろう。少し眠たそうな色かな。
1937年の作品
私には、ぜんぜん眠たく見えませんでした。画面の中に、奥行きがあるみたいに感じて。どうやって撮ったのか、ノートに書いておいたので、あとで話しますね。Preference
グリムのお話と違うところ
白雪姫は王女ですが、両親はもういません。一緒に住むのは継母の女王です。ある日、魔法の鏡が白雪姫の名を挙げたことで、女王の怒りは白雪姫に向かいます。狩人の助けで森の奥へ逃げた白雪姫は、動物たちに連れられて、七人の小人の家にたどり着きます。Fact[1]
人物紹介では、映画の白雪姫は14歳とされています。Fact[1]
グリム童話のほうでは、鏡が白雪姫の名を出すのは7歳のときです。王妃も、最初の版では実の母でした。継母が出てくるのは、版を重ねた1819年の第2版から。Fact[2]
映画の白雪姫は、私と同じ14歳なんです。グリムのほうは7歳。同じお話なのに、版によって年も、お母さんも変わる。私、これを知って、ノートの「調べて分かったこと」の色が一ページぶん増えました。Preference
お話も、少しずつ描き直されてきたんだね。消しゴムで消すんじゃなくて、上から線を引き直すみたいに。Interpretation
グリム童話の小人たちには、名前も性格もありません。性格や言動に合わせた名前をもらったのは、ディズニーの映画からです。いまもその名前が受け継がれることが多いそうです。Fact[2]
ウォルト・ディズニーさんは、小人たちなら喜劇の面白さを生み出せると考え、物語でいちばん魅力的な存在だと見ていました。だから、はじめから一人ひとりに個性と名前を持たせると決めていたのです。脚本の第一稿に並んでいた小人の名前は、候補だけで50以上あったそうです。Fact[1]
名前の候補が50以上。……選ばれなかった名前のほうも、ちょっと見てみたいです。ノートに書くなら、桃色のページに。Preference
名前があると、声や歩き方まで想像したくなるね。七人いたら、七つの足音。Interpretation
七枚の絵を重ねて撮るカメラ
マルチプレーン・カメラを使ったことで、画面に立体感と奥行きが出ました。カメラの高さは14フィート、およそ4.2m。重ねて撮れる絵は、最大で7層です。Fact[1]
仕組みは、セル画を一枚ずつ、カメラから違う距離に置いて撮るというもの。遠くの絵ほどぼやけて写るので、空気遠近法のような奥行きが生まれます。この方式のカメラでいちばん知られているのが、『白雪姫』のものです。Fact[3]
絵を何枚も、離して重ねるんだ。ダンスの隊形と似てるね。前の列と後ろの列で、同じ振りでも見え方が変わる。私の中では、後ろの列は少し淡い色になる。Interpretation
私、いつも後ろの列です。……淡い色、悪くないかもしれません。Preference
白雪姫の頬に赤をのせたのは、インク部門で働くヘレン・オガーさんです。口紅を使ってもうまくいかず、ようやく見つけた赤い染料を、綿を巻いたペンでセル1枚ごとに塗ったといいます。Fact[1]
一枚一枚。……観るときは、その赤を探してみる。Preference
お手本はダンサーだった
ここが、今日いちばん話したかったところなんです。
白雪姫の動きには、お手本がいました。若いダンサーのマージ・チャンピオンさんです。彼女にいろいろな動きを演じさせて撮ったのは作画監督のハミルトン・ラスクさんで、アニメーターたちはその映像を研究しました。撮った人の動きをなぞって描くこの手法をロトスコープといい、白雪姫・王子・女王の場面に使われています。Fact[1]
踊る人の体が、絵の中に入ってるんだ。……それを聞いたら、白雪姫の歩き方を、振りを覚えるみたいに観たくなった。Preference
私も、そう思いました。でも私、振りの最初の一歩がいつも出ないので……観ながらまねしたら、たぶん最初で止まります。Preference
ミサ先生なら、止まる前の一拍を褒めてくれるよ。
初めて観る人へ
初めての人には、白雪姫が小人たちの家にたどり着くまでを、まずゆっくり観てほしいです。絵の奥行きの話と、白雪姫の動きの話は、そこまでで確かめられるので。小人の名前は、そのあとのお楽しみです。Preference
私は、色を見る。頬の赤と、奥のほうの淡い色。Preference
……ごめんなさい、私ばっかり話してました。イロハさんは、どこが好きになりそうですか。
まだ観てないから、分からない。だから観たら、そのノートの続きを一緒に書こう。分かったことの色と、こうだったらいいなの色、両方で。Preference
『白雪姫』は世界で初めての長編アニメーション映画。白雪姫の動きのお手本になったのは、若いダンサーの実写の映像だった。