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「最初の一個、どれ買えばいい?」。イベントでも、知り合いの集まりでも、いちばん聞かれるのがこれ。あたしは教えるのとか得意じゃないし、正解なんてないと思ってる。だから今日は、あたしが最初の一箱を選ぶならこうする、っていう話と、あたしやまわりの子たちが、どこでどうやって沼に落ちたかの話をする。読んで、なんか一個作ってみたくなったら、それでじゅうぶん。
最初の一箱は好きな顔で選ぶ
いきなり結論。最初の一箱は、いちばん好きな顔の機体にしてほしい。性能とか、作りやすさとか、値段とか、そういうのは二番目でいい。作ってる途中で、手が止まる瞬間が絶対に来る。説明書の次のページがやたら細かかったり、部品をなくしかけたり。そのときに「この子の顔が見たい」って思えるかどうかで、最後まで行けるかが決まる。Preference
あたしが最初に組んだのは、父さんの世代のロボットだった。家にあったから、っていうだけ。でも、組み上がって顔がついた瞬間のことは、いまでも覚えてる。机の上の部品の山が、急にこっちを見たんだよね。あの感じを一回味わうと、たぶんもう戻れない。Preference
好きな作品があるなら、その作品の機体から選ぶのがいちばんいい。アニメで観た場面を思い出しながら組めるから、ただの部品が、だんだん知ってる子になっていく。好きな作品がまだ決まってないなら、箱の絵を見て、いちばん「かっこいい」より「気になる」顔を選んで。かっこいいは見慣れるけど、気になるはずっと続くから。Preference
グレードの話をざっくり
顔が決まったら、次は箱の種類。ガンプラには、グレードっていう作りの段階がいくつかある。でもその前に、一個だけ安心してほしいことがある。いまのガンプラは、接着剤も塗装もなしで組み立てられるように作られてる。部品をはめこむだけでくっつくし、部品は最初から色分けされてるから、組んだだけで、ちゃんとその機体の色になる。Fact[1]
ふつうのプラモデルは、接着剤で部品をくっつけて、塗料で色を塗って仕上げるもの。ガンプラは、そこをすっ飛ばしても形になる。最初の一箱で塗装の心配はいらない。塗りたくなったら、そのとき考えればいいよ。Fact[1]
じゃあ、グレードの話。いちばん手を出しやすいのは、エントリーグレード。小さい子でも組みやすいように、工具を使わずに手で部品を外せる作りになってる。ニッパーも持ってない、でも今日の夜に一個作ってみたい、って人にはぴったり。Fact[1]
いちばん定番なのが、ハイグレード、HG。大きさは1/144。Fact[2]
あたしのまわりで最初の一個に選ばれてるのは、だいたいこれ。作りやすさと見ばえのバランスがいいと思うし、種類がめちゃくちゃ多いから、好きな顔の機体が、たぶんこの中にいる。Preference
同じ1/144で、もっと細かく作りこまれてるのがリアルグレード、RG。手のひらサイズなのに部品の数がすごい。1/100のマスターグレード、MGは、大きくて作りがこまかい高価格帯のシリーズで、組むのにも時間がかかる。いちばん大きい1/60がパーフェクトグレード、PG。この三つは、HGを何個か作って、もっと手を動かしたくなってからでいいと思う。Fact[2]
それから、頭が大きくて小さいSDっていう形もある。かわいいし、小さいぶん手に取りやすいし、組むのも比較的かんたん。かっこいいより、かわいいから入りたい人には、SDから入るのもありだと思う。Fact[2]
まとめると、道具なしで今夜作りたいならエントリーグレード、好きな顔がいちばん見つかりやすいのはHG。どっちを選んでも、失敗ってことはない。あたしは、最初の一箱がどれだったかより、二箱目を買いに行くかどうかのほうが、ずっと大事だと思ってる。Preference
お店で迷ったら、箱の横か裏を見てみて。完成したときの写真が載ってることが多いから、組み上がった姿を想像しやすい。あたしは、正面の写真より、後ろ姿の写真があるとうれしい。背中のかっこいい機体は、組んでる途中も楽しいから。Preference
大きさは割り算で分かる
グレードの話で出てきた1/144とか1/100は、実物の何分の一の大きさか、っていう意味。たとえば、設定で頭のてっぺんまでの高さが18メートルあるガンダムなら、1/144だと約12.5センチ、1/100だと約18センチ、1/60だと約30センチになる。Fact[1]
18メートルを144で割ると、0.125メートル。つまり12.5センチ。割り算一回で、机の上に置いたときの大きさが分かる。箱を手に取ったら、その機体が設定で何メートルあるかを調べて、割ってみると面白いよ。大きい機体は、同じ1/144でもちゃんと大きい。並べたときの差が、作品の中の差そのままなんだよね。Observation from the work
同じ割り算は、逆にも使える。机の上の1/144の子を見て、「この指先の太さが、ほんとは何センチあるんだろう」って掛け算してみる。小さな部品の一個一個が、設定の中ではちゃんと人より大きな機械の一部なんだって分かると、ニッパーを入れる手が、ちょっとだけ丁寧になる。Preference
最初の一箱は、置き場所のことも考えておいて。12.5センチなら机の端に置けるけど、30センチになると、棚を一段空けないといけない。あたしの押し入れは、組んだあとも捨てられない箱でもう一段埋まってる。笑えない話。Preference
道具はニッパーから
プラモデルの部品は、枠にくっついた状態で箱に入ってる。この枠のことをランナーっていう。部品はランナーから切り離して使う。エントリーグレードなら手で外せるけど、ほかのグレードでは、ニッパーっていう工具で切るのがふつう。Fact[4]
ニッパーは、プラモデル用のやつを一本だけ買っておけばいいと思う。あたしは刃の薄いのを使ってる。工具箱をそろえるのは、ずっと後でいい。最初はニッパー一本で、ちゃんと最後まで作れたから。Preference
あたしのやり方は、二回切り。一回目は部品から少し離れたところでランナーから外して、二回目に部品のぎりぎりで残りを切る。一回でぎりぎりを狙うと、部品のほうがえぐれたり、白っぽく跡が残ったりするから。ちょっと手間だけど、組み上がったときの見た目が全然ちがう。Preference
それと、部品を切ったら、すぐ組む。切った部品を何個もためておくと、どれがどれだか分からなくなる。説明書の一つの手順ぶんだけ切って、組んで、次へ。地味だけど、これがいちばん迷子にならないやり方だった。Preference
最初の失敗はだいたい同じ
最初の一箱で、あたしもまわりの子も、だいたい同じところでつまずいてる。だから先に言っとく。つまずいても、それ、みんな通ってる道だから。Preference
一つ目は、左右の取り違え。腕とか脚とか、右と左でそっくりな部品がある。説明書の小さい記号を見落とすと、組み上がったときに、なんか肩の向きが変な子が完成する。あたしは三回やった。いまでも、左右の部品は最初に机の右と左に分けて置くようにしてる。Preference
二つ目は、小さい部品の家出。ニッパーで切った瞬間に飛んでいく。床のどこかで、二度と見つからない。あたしは、作業するときは机に明るい色の紙を一枚敷いてる。落ちても見つけやすいし、飛んでいく前に、手のひらで部品を押さえてから切るようにしてる。Preference
三つ目は、シール。色分けされてても、目の部分とか細かいところはシールを貼るキットがある。これが曲がる。ずれる。一回はがすと、もう粘らない。ピンセットでつまんで、端だけ当てて、位置を確かめてから押さえる。あたしは、ここだけは呼吸を止めて貼る。Preference
四つ目は、急ぎすぎ。一晩で全部作ろうとして、夜中に指が痛くなって、最後の腕だけ雑になる。あたしはこれを何回もやった。いまは、一晩で決めたところまでしか作らない。胴体だけ、とか、脚だけ、とか。途中で止めた子が机の上で待ってると、次の日の夜が楽しみになる。完成を急がないのも、長く続けるコツだと思う。Preference
箱を開けたら最初にやること
箱を開けたら、まず全部のランナーを机に並べて、写真を一枚撮る。部品が全部そろってるかの確認にもなるし、あとで見返すと、ここから始まったんだなって分かる。あたしのスマホには、組む前のランナーの写真が、作った機体の数だけある。Preference
それから、説明書を最後のページまでざっとめくる。どこが山場なのかを先に知っておくと、そこに来たときに慌てない。あたしの場合、だいたい手の部品と、背中の細かいところが山場。そこに来たら、いったん手を洗って、飲み物を取ってきてから始めてる。Preference
組むときは、その機体が出てくるアニメを横で流しっぱなしにする。休みの日は、作業机の横で同じ話をずっと流してる。画面の中で動いてる子と、机の上でだんだん形になる子が、同じ顔をしてくる瞬間がある。あれが、あたしにとってのいちばんのごほうび。好きな場面が来たら、筆を置いて巻き戻しちゃうから、作業はぜんぜん進まないんだけど。Preference
あたしたちが沼った瞬間
ここからは、沼の話。先に言っとくと、これは「女の子はこういうとこにハマる」って話じゃない。あたしと、あたしのまわりにいた何人かが、たまたまこうだった、っていう話。性別とか関係なく、刺さる人には刺さると思う。Preference
それに、沼った瞬間って、たいてい本人もびっくりしてる。あたしが中学で塗装のスプレーにはまったとき、自分がこんなに一つのことに夢中になれるなんて思ってなかった。学校では言えなかったし、言えないぶん、家でこっそり楽しんでた。好きなものに落ちる瞬間は、誰にも予想できない。だから、どこで落ちるかを先に決めなくていいんだよね。Preference
あたしの場合は、汚しだった。ぴかぴかの機体に、わざと汚れや傷をつける塗装。泥とか錆とか、戦ったあとっぽい跡。そういう、風雨や使いこみで汚れたり傷んだりした感じを足す塗り方は、ウェザリングって呼ばれてる。最初に雨の筋を一本引いたとき、機体が急に「どこかで生きてきた子」に見えた。あれで完全に落ちた。汚れってさ、その子が生きてきた証拠なんだよ。Fact[2]
美容の専門学校で知り合った子は、スミ入れで落ちた。スミ入れっていうのは、部品の表面にある継ぎ目のみぞに色を入れて、凹凸をくっきり見せるやり方。これをやると、線が浮かんで、急に本物っぽくなる。その子は「アイラインと同じじゃん」って言って、そこからずっとはまってる。言われてみれば、たしかに似てる。輪郭を一本足すだけで、顔が締まる。Fact[2]
イベントで仲良くなった子は、ジオラマで落ちた。組み上がった機体のまわりに地面や建物を作って、一つの場面にするやつ。その子は、機体そのものより、機体が立ってる場所を作るほうが楽しいって言ってた。好きなアニメの名場面を、机の上に作りなおす。それ、もう一本の映画を撮ってるのと同じだと思う。Fact[2]
それから、これはあたしの話だけど、ネイル。塗ってる機体の色に合わせて、その週のネイルを塗るのが習慣になってる。機体を塗る筆と、爪を塗る筆って、使い方がけっこう似てるんだよね。美容の専門学校で覚えた手さばきが、いちばん役に立ってるのが、実は細かい塗装の筆づかい。どっちが先だったか、もう分かんない。Preference
あたしにとって汚しは、その子がどんな場所で、どんな時間を過ごしてきたかを描く作業。だから、汚す前にいつも、その子の一日を想像してる。朝どこを歩いて、夕方どこで止まったか。雨に打たれたのか、日に焼けたのか。想像が決まると、筆がやっと動く。Preference
こうやって並べると、沼の入口はほんとにバラバラ。汚しの人、線の人、場所の人、爪の人。共通してるのは、たぶん「組み上がった、そのあと」が楽しくなった瞬間があったってこと。組むのが楽しいのは最初の一箱。沼るのは、組み上がった子に、自分で何かを足したくなったときなんだと思う。Interpretation
足したくなったら
じゃあ、何かを足したくなったら、どこから始めるか。あたしなら、いきなり全部塗るんじゃなくて、まず一か所だけ。たとえば、足の裏だけ、泥っぽい色を薄く入れてみる。足の裏なら、失敗しても机に立たせれば見えない。そこで手が慣れたら、ひざ、腰、って上へ上がっていく。Preference
スミ入れも、最初は顔のまわりの線だけでいい。顔が締まると、ほかの部分も締めたくなる。全部やらなきゃって思うと手が止まるから、今日は一本、明日は一本。それくらいの気持ちでいいよ。Preference
あと、色を足す前に、その子がどこに立ってるのかを一回決めてみて。砂漠なのか、雪の中なのか、雨の街なのか。立ってる場所が決まると、つく汚れの色も決まる。何色を足せばいいか迷ったら、だいたい場所が決まってないときなんだよね。あたしは、好きなアニメの場面を一個思い浮かべて、その地面の色をパレットに出すところから始めてる。Preference
……ちょっと待って、いま乾く前。って、作業してるときのあたしは、たぶんこんな感じで話しかけても返事しない。だから、この記事を読んで何か足してみた人がいたら、作業中は誰にも話しかけられない場所でやってほしい。それくらい、楽しいから。Preference
隣の作業机
最後に、ちょっとだけ小声の話。いま、あたしの作業机の隣には、もう一つ作業机がある。旦那の机。旦那はプロのモデラーで、イベントで出会って、あたしが猛烈に押して、あっという間に結婚した。Preference
隣で作ってると、腕の差がよく分かる。悔しいくらい上手い。なのに、あたしは旦那の作品をほめるのが下手で、つい塗装のダメ出しから入っちゃう。「ここの錆、もうちょい流れてたほうがよくない?」とか。旦那は黙ってうなずいて、次の日には直してる。その黙ってうなずく感じが、ちょっとだけ好きなアニメのあの子に似てるんだよね。本人に言ったら否定されたけど。Preference
二人で作業してると、部屋に聞こえるのは換気扇の音と、ニッパーの音と、横で流しっぱなしにしてるアニメの声だけ。ほとんど話さない。でも、ときどき完成した機体を、黙って相手の机に置く。それが、うちのいちばん長い会話だったりする。Preference
たまに、旦那が黙ってあたしの机に置いていくのは、完成した機体じゃなくて、試し塗りしたプラ板の切れ端だったりする。色の名前も書いてない。でも、見れば、あたしが次に塗ろうとしてる子に合う色だって分かる。……そういうところ。言わないけど。Preference
最初の一箱は、好きな顔で選ぶ。組み上がったら、何か一つ足してみる。それで沼に落ちたら、ようこそ。落ちなくても、机の上に一体、好きな顔がいる生活は、けっこういいよ。Preference
最初の一箱は、性能より好きな顔で。今夜作りたいならエントリーグレード、好きな顔がいちばん見つかりやすいのはHG。組み上がったら、足の裏に一か所だけ色を足してみて。
