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Anime & manga trivia

アニメで数学が楽しくなる 単位と分母と順番の話

平日は数学の助教、休日は道化師のユウリが、算数が苦手だというカオルに、アニメの数字の眺め方を話した。マッハ20を一分の距離に直し、3700年を秒にし、長い命を割合で読み、決まりを一字ずつ読む。公式はひとつも使わない。

For people who
算数や数学が苦手だと思っている人へ。アニメを観るついでに、数字や決まりごとを少し楽しく眺めてみたい人に。
Spoiler range
No spoilers 『暗殺教室』『Dr.STONE』『葬送のフリーレン』『ノーゲーム・ノーライフ』『STEINS;GATE』の始まりの設定まで。物語の展開と結末には触れません
Who's talking
Yuuri × Kaoru
Types of claims: Fact Observation from the work Grounded inference Interpretation Preference
Contents 7 sections, ~12 min
  1. 数学は単位と順番の遊び
  2. マッハ20を手のひらに乗せる
  3. 3700年は何秒か
  4. 比で読む長い命
  5. 決まりは一字ずつ読む
  6. 順番を入れ替えると
  7. 楽しくなる三つの癖

日曜の昼、駅前の古い喫茶店で、カオルさんと待ち合わせました。いつものように昼のギャグアニメを一本観て、笑いの間を数える約束だったのですが、その日のカオルさんは、席に着くなりこう言いました。「なあ、うち、算数が昔からあかんねん。あんた数学の先生やろ。なんか、楽しなる方法ないん?」。僕は平日は大学で数学を教えています。教室では言えない、休日の僕のやり方でよければ、とお話ししたのが、今日の記事です。題材は、二人とも観ているアニメから選びました。

数学は単位と順番の遊び

Kaoru

最初に言うとくけど、公式とか覚えられへんで。九九の七の段も、いまだにちょっと怪しいねん。

Yuuri

大丈夫です。今日は公式をひとつも使いません。僕が数学で楽しいと思っているのは、二つだけなんです。ものさしをそろえること、つまり単位。それから、どの順番でやるか。

平日の僕は、情報幾何学という分野で、学習のふるまいを数式で調べています。むずかしそうに聞こえますが、やっていることの芯は、ものさしをどう決めるかと、情報をどの順番で並べるかです。アニメを観ていても、僕の目はついそこへ行きます。今日は、その目で見たときに、アニメの中の数字や決まりごとが、急に数学の遊び場に見えてくる、という話をします。Preference

Kaoru

テストは無しやな。

Yuuri

ありません。答えを当てるより、確かめるほうが楽しい。今日はそれだけ持って帰ってもらえたら十分です。

マッハ20を手のひらに乗せる

一つ目は『暗殺教室』です。中学校のあるクラスの担任になる謎の生き物、殺せんせーは、マッハ20で空を飛びます。物語は、月の七割ほどが吹き飛ばされて、いつも三日月の形になってしまうところから始まります。Fact[1]

Kaoru

マッハ20な。速いのは分かるけど、どんだけ速いんか、正直ピンとけえへん。

Yuuri

そこです。マッハというのは、音の速さの何倍か、という比なんです。マッハ20は、音の二十倍の速さ。まず音の速さを、ふだん使う単位に直してみましょう。Fact[3]

音の速さは、空気の温度で変わります。海面の高さで気温が15度くらいの空気なら、音は一秒におよそ340メートル進みます。これを20倍すると、一秒で6800メートル、つまり6.8キロメートル。一時間に直すと、6.8キロに3600秒を掛けて、24480キロメートルです。Fact[4]

Kaoru

二万四千キロ……。数字がでかすぎて、また分からんようになったわ。

Yuuri

でしょう。大きすぎる数字は、身近な距離と比べると手のひらに乗ります。たとえば、仮に400キロメートル離れた町へ行くとします。400を6.8で割ると、だいたい59。つまり59秒、一分かからずに着いてしまう速さなんです。

Kaoru

一分で400キロ。新幹線の駅弁、開ける前に着くやん。

Yuuri

そうなんです。そう言い直すと、殺せんせーが授業の合間にどこへでも飛んでいける、という設定の重さが、急に体で分かりませんか。

ここで僕がやったのは、二つだけです。比を、知っている速さに直すこと。それから、大きすぎる数を、身近な距離と比べること。前半は教科書で「単位の換算」と呼ばれる作業、後半は身近な量との比べっこです。僕は二つまとめて「数字を手のひらに乗せる」と呼んでいます。速さでも時間でも、ピンとこない数字に出会ったら、身近なものさしと比べてみる。それだけで、数字が急におしゃべりになります。Preference

ちなみに、音の速さは温度で変わるので、マッハ20の本当の速さは、どこを飛んでいるかで少しずつ違います。飛行機が飛ぶくらいの高さでは、気温が低いぶん、地上より音が遅くなるからです。「同じマッハ20でも、場所によって速さが違う」。この一文に引っかかれる人は、もう数学の入口に立っています。Fact[3]

3700年は何秒か

二つ目は『Dr.STONE』です。ある日、地球上の人類が一斉に石になってしまい、主人公たちが目覚めたのは、それからおよそ3700年後の世界でした。そこから、科学の力で文明を一つずつ作り直していく物語です。Fact[5]

Kaoru

3700年て。私がカウンターに立ってからの年月なんか、足しても十年ほどやのに。

Yuuri

では、3700年を秒に直してみましょう。紙と鉛筆なしで、ざっくりで構いません。

一年は365日、一日は24時間、一時間は3600秒。全部掛けると、一年はおよそ3150万秒です。これに3700を掛けると、およそ1170億秒になります。うるう年を数えない、ざっくりした計算ですが、桁は合っています。Observation from the work

Kaoru

1170億……。指で数えたら、何年かかるん。

Yuuri

それを聞いてくださるのが、いちばんうれしいです。一秒に一つ数えたら、ちょうど3700年かかります。

Kaoru

いや、なんでやねん。当たり前やないか。

Yuuri

当たり前なんです。でも、いまの一言で、カオルさんは「秒と年の行き来」を一往復しました。

僕が好きな計算の近道を一つ。一年はおよそ3150万秒ですが、これは円周率の3.14に、1000万を掛けた数とほとんど同じです。一年は「だいたいパイ掛ける1000万秒」。こう覚えておくと、何年でも、すぐ秒に直せます。3700年なら、3.14に3700を掛けて、さらに1000万倍。だいたい1160億。さっきの計算と、上の二桁がちゃんとそろいます。Observation from the work

この遊びの名前は、見積もりです。正確な答えは、あとで電卓に任せればいい。先に桁をつかんでおくと、電卓の答えが合っているかどうかを、自分で確かめられる。物語の「3700年」という数字も、秒にしてみると、主人公たちがどれだけ遠い未来に立っているかが、体の感覚で分かってきます。Preference

比で読む長い命

三つ目は『葬送のフリーレン』。魔王を倒した勇者の一行が、十年の旅を終えるところから始まります。一行は、五十年に一度降る流星群を見て、次もまた見ようと約束して別れます。とても長い命を持つエルフのフリーレンにとって、その十年は、ほんの短い時間でした。Fact[7]

Kaoru

これは泣けるやつやで。数学の話にせんといてほしいわ。

Yuuri

泣けるからこそ、数学の目で見ると、もっと泣けるんです。比、つまり割合の話をさせてください。

たとえば、八十年生きる人にとって、十年の旅は人生の八分の一です。かなり大きな割合ですね。では、もし千年生きる人がいたら、十年は百分の一。同じ十年なのに、人生に占める割合は、八分の一から百分の一へと縮みます。Observation from the work

ここで大事なのは、どちらの十年も、時計で測れば同じ長さだということです。違うのは、何で割るか、です。物語の中で、同じ十年を「長い旅」と感じる人と、「短い旅」と感じる人がいる。それは、二人が自分の人生という別々のものさしで、十年を割っているからだと、僕は読んでいます。Interpretation

Kaoru

で、五十年に一度の流星は?

Yuuri

八十年生きる人なら、生きているあいだに見られるのは、多くて二回。千年生きる人なら、二十回ほど見られます。約束の重さが、割り算ひとつで、こんなに違って見えるんです。

Kaoru

……あかん。それ聞いたら、もう一回観なあかんようになった。

割合を考えるとき、僕はいつも「分母は何か」を最初に確かめます。同じ数でも、分母が変われば、意味が変わる。テストの点数も、野球の打率も、物語の時間も、同じです。何で割っているかを確かめる癖がつくと、ニュースの数字にも、ずいぶんだまされにくくなります。Preference

Kaoru

打率は分かるわ。三割打ったら一流。十回に三回打てたら、それでええねん。

Yuuri

そうです。逆に言うと、一流の打者でも、十回のうち七回は打てない。分母まで見ると、数字の見え方がやさしくなりますね。

分母を確かめる癖は、物語を観るときにも使えます。たとえば、一話の中で笑った回数を数えるとき、三十分の回と十分の回とでは、同じ五回でも重みが違う。カオルさんと僕が笑いの間を数えるときも、最後は「何分のうちの何回か」で比べています。数を数えたら、必ず何で割るかまで決める。それだけで、比べられなかったものが、比べられるようになります。Preference

決まりは一字ずつ読む

四つ目は『ノーゲーム・ノーライフ』。主人公の兄妹が召喚された世界では、【十の盟約】という絶対のルールがあって、殺し合いや戦争は禁じられ、あらゆる争いがゲームの勝ち負けで決まります。Fact[9]

盟約の中には、ゲーム中の不正について決めた一文があります。物語の中では、その決まりは、不正が相手に見破られたときに働きます。これが、僕の大好きなところです。Fact[10]

Kaoru

え、ばれへんかったらええってこと? ずるいやん。

Yuuri

……少し、順番を整理させてください。決まりが言っているのは「不正が見破られたら、とがめられる」ということです。「不正をしたら、とがめられる」とは言っていない。この二つは、似ているようで、別のことを言っています。

数学では、「AならばB」という形の文を、とても大事にします。「見破られたら、とがめられる」。ここで、矢印の向きを逆にした文、「とがめられたなら、見破られた」は、元の文からは出てきません。もう一つ、「見破られなかったら、とがめられない」も、実は元の文だけでは言い切れない。元の文は、見破られなかった場合について、何も言っていないからです。Observation from the work

物語の面白さは、登場人物たちが、この「何も言っていない部分」を一字ずつ読みこんで、勝ち筋を探していくところにあります。僕がこの作品を観ると数学の時間を思い出すのは、そのせいです。数学の証明も、書いてあることだけを使い、書いていないことは使わない。決まりを一字ずつ読むのは、意地悪をするためではなく、何が確かに言えるかを知るためなんです。Interpretation

Kaoru

うちの店にも決まりあるで。「お代は先払い」。これは、どう読むん?

Yuuri

「お代は先払い」が決めているのは、払う順番だけです。「払えば、何でも出てくる」とまでは書いていません。

Kaoru

せやろ。品切れの日もあるからな。

順番を入れ替えると

最後は『STEINS;GATE』。主人公たちが、偶然、過去へ短いメールを送れる仕組みを作ってしまう話です。過去へメールを送るたびに、世界の流れが変わっていきます。Fact[11]

Kaoru

ああ、それ、あんたの好きなやつやな。いつもの「順番」の話になるんやろ。

Yuuri

はい。順番の話です。今日いちばんお伝えしたかったのは、実はここなんです。

足し算と掛け算は、順番を入れ替えても答えが変わりません。3足す5も、5足す3も、8です。でも、世の中には、順番を入れ替えると結果が変わる操作が、たくさんあります。いちばん身近なのは、靴下と靴です。靴下を履いてから靴を履く。靴を履いてから靴下を履く。同じ二つの動作なのに、結果はまるで違いますね。Observation from the work

算数の中にも、じつは順番で答えが変わるものがあります。引き算と割り算です。10引く3は7ですが、3引く10はマイナス7。12割る4は3ですが、4割る12は三分の一。小学校で「引き算は大きいほうから」と習うのは、逆にすると、まだ習っていないマイナスの数が出てきてしまうからです。言いかえると、引き算は、順番を入れ替えると答えが変わることに、僕たちが最初に出会う計算でもあります。足し算と掛け算は、順番を気にしなくていい、やさしい計算だった、とも言えます。Observation from the work

Kaoru

へえ。私が算数でつまずいたん、引き算からやったかもしれん。

Yuuri

そこでつまずいた人は、順番の大事さに一番早く気づいた人です。そう思っていただけたら、僕はうれしいです。

Kaoru

後のほうは、ただの事故やで。

Yuuri

事故です。でも、数学はこういう「順番で結果が変わるもの」を、ちゃんと調べる道具を持っています。本を机の上で、縦に四分の一回転させてから横に四分の一回転させるのと、その逆とでは、最後の向きが違ってしまう。実際にやってみてください。

過去へメールを送る話を、僕は「順番を入れ替える実験」として観ています。昨日の自分に先に知らせが届けば、昨日の出来事の順番が入れかわる。順番が入れかわれば、結果も変わる。靴下と靴の話と、筋道は同じです。この作品を観たあとで、身のまわりの「入れ替えると困る順番」を三つ探してみてください。料理の手順、着替え、電車の乗り換え。探しはじめると、世の中は順番でできている、と気づきます。Interpretation

数学には、順番を入れ替えても結果が変わらない、ということを表す言葉があります。「交換できる」という意味の言葉です。わざわざ名前をつけて区別するのは、それがいつも成り立つとは限らないからです。足し算や掛け算が気楽なのは、その性質がいつも成り立つ、ありがたい計算だからなんですね。Observation from the work

カオルさんは、ここでいちばん長く考えこんでいました。そして、ツッコミの入れ方にも交換できないものがある、と言いました。ボケを聞いてからツッコむのと、ツッコんでからボケるのとでは、笑いがまるで違う。それは、僕が授業で一時間かけて説明していることを、一言で言い当てていました。Preference

さあさあ、お立ち会い! ……失礼しました。順番の話になると、つい口上が出てしまいます。言いたかったのは、こういうことです。数学の問題が解けないとき、知っていることの順番が合っていないだけ、ということが、案外よくあります。並べ替えてみる。順番を入れ替えて、もう一度やってみる。それだけで、急に道が開けることがあります。Preference

楽しくなる三つの癖

Kaoru

ほな、最後にまとめてや。算数あかん私でも、明日からできるやつ。

Yuuri

三つだけ、お渡しします。どれも、アニメを観ながらできます。

一つ目。大きな数字が出てきたら、身近なものさしで割る。マッハ20を「一分で400キロ」に直したように。物語の中の数字は、割ってみると急に体温を持ちます。Preference

二つ目。割合を見たら、分母を確かめる。同じ十年でも、何で割るかで長さが変わる。数字の裏にある「何に対して」を探す癖は、物語の人物の気持ちを読むのにも役立ちます。Preference

三つ目。決まりや手順は、一字ずつ読んで、順番を入れ替えてみる。書いてあることと、書いていないことを分ける。順番を変えたら何が起きるかを、頭の中で試す。それが、証明の始まりです。Preference

Kaoru

単位と、分母と、順番。……なんや、笑いの間と同じやん。ツッコミも、何で割るかと、どの順番で入れるかやもん。

Yuuri

……それ、今日いちばんの証明です。

Kaoru

笑ってもろたら、それで勝ちや。ほな、今日のアニメ観よか。間、数えなあかんしな。

その日に観たギャグアニメの一本で、僕たちは笑いの間を、いつもより一つ細かく数えました。ボケからツッコミまでの間を、一話の長さで割ってみる。カオルさんは途中で数えるのをやめて、ただ笑っていました。それでいいんです。数学は、楽しくなるための道具であって、楽しさを邪魔するためのものではありませんから。Preference

大きな数は身近なものさしで割る。割合は分母を確かめる。決まりは一字ずつ読み、順番を入れ替えて試す。アニメの中の数字は、この三つで急におしゃべりになる。

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Steins;Gate
Anime 2011 · TV series #Sci-fi #Suspense
Told by Yuuri A quiet mathematician on weekdays, a cheerful clown on weekends More from Yuuri →

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