平日の昼、ダンス教室のレッスンの合間。鏡の前で同じターンを三回失敗したカノンは、壁ぎわのベンチに座りこみました。隣で水を飲んでいたイロハさんに、カノンは「台詞のない映画って観たことある?」と聞きます。昨日の夜、一本観て、ずっと体が揺れていたのだそうです。
おばあちゃんと孫と犬
『ベルヴィル・ランデブー』(仏題 Les Triplettes de Belleville、英題 The Triplets of Belleville)は、シルヴァン・ショメ監督の長編アニメーション映画です。まず目を引くのは形の誇張。人物はもちろん、街並みや船まで、極端なほどデフォルメして描かれています。ねらいは、それぞれの性格や特徴をくっきりさせること。この作品を形づくる特色の一つです。Fact[1]
第二次大戦が終わったあとのフランス。おばあちゃんは、寂しそうな孫のシャンピオンをなんとか元気にしたいと思っています。テレビの人気の出し物も、ピアノも、犬のブルーノも、シャンピオンの心にはあまり届きません。手がかりになったのは、ベッドから出てきた一冊のノートでした。貼ってあったのは、自転車の写真や新聞記事。おばあちゃんが三輪車を贈ると、シャンピオンは夢中で乗り回します。それから長い年月がたちました。いまのシャンピオンがめざしているのは、ツール・ド・フランスです。そばで練習に付き合っているのは、いまもおばあちゃんです。Fact[1]
おばあちゃんの名前はスーザ(Souza)。孫と並んでテレビで観るのは、三人組の歌手「ベルヴィルの三つ子」が出てくる古いバラエティ番組です。犬のブルーノはといえば、食べて寝て、列車が来れば吠える。それ以外のことには知らん顔です。Fact[2]
おばあちゃんが、元気のない孫のために、次から次へと何かを持ってくるんです! テレビ、ピアノ、犬。全部ちょっとずつ外れて、それでも次を探すの。私、そこでもう好きになりました。Preference
外れても次を出す。……カノンちゃんのターンみたい。
今のはリハーサルです!
台詞のかわりに歌と身ぶり
ショメ監督が初めて手がけた長編で、4か国の会社が組んだ国際共同製作です。言葉にはあまり頼りません。台詞はわずかで、話の大半は歌とパントマイムが運びます。英国とアイルランドでの題は『Belleville Rendez-vous』でした。Fact[2]
ショメさんは1963年生まれ。フランス出身で、アニメーション作品を手がける映画監督です。最初に作った短編アニメーションは『老婦人とハト』でした。Fact[3]
言葉がないぶん、体で全部言うんです。ダンスと同じ! 私、振りを覚えるのは遅いけど、身ぶりで気持ちが伝わる映画なら、一回で分かった気がしました。Interpretation
言葉がない映画は、私には音が色に見えるの。台詞の場所が空いているぶん、歌と物音がその場所を塗っていく感じ。……私はそう受け取った。Interpretation
冒頭にいる本物のスター
作中には、実在の人物や作品がたくさん登場します。冒頭に出てくるのは、二本指奏法のギタリストのジャンゴ・ラインハルト、ダンサーのジョセフィン・ベーカー、タップダンサーのフレッド・アステア、ピアニストのグレン・グールドです。シャンピオンの部屋には、ツール・ド・フランスで総合優勝に2度輝いた選手、ファウスト・コッピのサイン入り写真が貼ってあります。Fact[1]
タップダンサーが出てくるって知って、もう一回最初から観ました! 本物の人たちが、絵になって出てくるんですよ。憧れの人を壁に貼るのも、私と同じ。私の部屋の壁は、ライブのチケットの半券でいっぱいです。Preference
誰かの写真を毎日見る部屋。……その子の夢の色が、壁から分かる気がする。Interpretation
三つ子と題名の歌
題名の「ベルヴィルの三つ子」は、1930年代のミュージックホールの歌手という設定です。歌曲「Belleville Rendez-vous」は、作曲がブノワ・シャレさん、作詞がショメ監督で、アカデミー賞の歌曲賞にノミネートされました。原語版で歌っているのはマチュー・シェディッドさんです。Fact[2]
日本の題名と、イギリスで公開されたときの題名と、歌の名前。並べると、全部同じなんです! 監督が自分で詞を書いた歌の名前が、映画の顔になってる。私、それがすっごくうれしくて。Observation from the work
三人組で、昔の舞台の歌手。カノンちゃんが好きそうな人たち。
好きです! 何十年も前の舞台に立ってた三人って聞いただけで、どんな立ち姿なんだろうって、ずっと考えちゃいます。Preference
2003年のカンヌ国際映画祭では、犬のブルーノに対して、特別賞のパルム・ドッグが贈られました。Fact[1]
犬が賞をもらったんですよ! 列車に吠えるだけなのに。……だけ、って言ったら失礼ですね。ブルーノさん、ごめんなさい。
体を揺らしながら観る
初めての人は、言葉を探さないで観てほしいです。歌が鳴ったら、体を少し揺らしていい。おばあちゃんとシャンピオンの練習の日々までで、もう十分楽しいです。その先は、観て確かめてください。Preference
私は、画面の色を一つだけ覚えて帰ると思う。あとでノートに書くから。Preference
イロハさんが色を書くなら、私は振りを一個だけ覚えます。……休憩、終わりですね。次のターンこそ、本番です!
『ベルヴィル・ランデブー』は台詞がほとんどなく、物語の多くを歌と身ぶりで伝える。日本の題名は、英国で公開されたときの題名と同じで、監督が作詞した歌の名前でもある。