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Anime & manga trivia

『西遊記 鉄扇公主の巻』と14歳の手塚治虫

1941年に上海で作られた『西遊記 鉄扇公主の巻』は、アジアで最初の長編アニメです。翌年には日本でも公開され、当時14歳の手塚治虫さんに影響を与えました。古本屋の店番イツキが、昼のカウンター越しに、魔法の本を探しに来たリリィに話しました。

For people who
古い映画や、古い本の来歴をたどるのが好きな人へ。魔法の道具が出てくる昔話が好きな人にも。
Spoiler range
No spoilers 物語の出発点(三蔵一行が訪れた農村を囲む炎を消すために、鉄扇公主の持つ芭蕉扇が必要になる)と、制作の規模・日本での公開・手塚治虫さんとのつながりまで。孫悟空と鉄扇公主の戦いの行方と結末には触れません
Who's talking
Itsuki × Lily
Types of claims: Fact Observation from the work Grounded inference Interpretation Preference
Contents 4 sections, ~4 min
  1. アジアで最初の長編
  2. 3年と237人
  3. 14歳の手塚治虫
  4. 発掘された復元版

昼の古本屋。リリィはいつものように、カウンター越しに「古い魔法ものの本、入りましたか」と聞きました。イツキは漫画全集の一冊を出しかけて、手を止めました。「先に、この漫画に影響した映画の話をしていいですか」

アジアで最初の長編

Lily

映画、ですか? 魔法は出てきますか?

Itsuki

炎を消すための扇が、一本出てきます。あらすじは、それ以上言わないでおきます。

1941年の元日に公開された中国映画『西遊記 鉄扇公主の巻』は、アジアで最初の長編アニメーションです(原題 鐵扇公主、英語の題は Princess Iron Fan)。作ったのは万籟鳴さん・万古蟾さんの兄弟(万氏兄弟)。場所は上海、時期は日中戦争のさなかでした。お話は中国の古典『西遊記』からとっています。Fact[1]

題名の「鉄扇公主」とは羅刹女のことで、『西遊記』では牛魔王の妻にあたります。映画は、この鉄扇公主と孫悟空がぶつかる話です。彼女の芭蕉扇がなければ、三蔵一行が立ち寄った村を囲む火は消せません。Fact[1]

Lily

炎を消す扇……。説明できないことノートに書いておきます。調べて分かったことの色と、想像の色、両方で。Preference

Itsuki

どっちの色が多くなるかは、観てからのお楽しみで。

3年と237人

制作には3年かかり、作画スタッフ237名、費用35万元が注ぎこまれました。1940年までに描かれた動画は2万フレーム、作画用紙は20万枚あまり。万氏兄弟が手本にしたのは、ディズニーの『白雪姫』です。それと肩を並べる質のアニメーション映画を、中国で作ろうとしたのでした。Fact[1]

Lily

『白雪姫』、前に少し調べました。あの映画を観て、自分たちも作ろうって決めた人たちがいたんですね。

Itsuki

237人ですね。本一冊だと、僕が思い浮かべられる手は、作者と編集と印刷と製本で、せいぜい十人くらいなんです。倉庫で本を箱と数で数えているだけの朝の僕なら、この数字を見ても、何も思わなかったと思います。Preference

Lily

2万フレームと20万枚も、ノートに書いておきます。並べたら、どれくらいの高さになるんでしょう。Preference

Itsuki

紙の束で考えたら、うちの店の床が抜けますね。

キャラクターの顔に、実写の俳優の目がのぞく。この映画には、そんな場面があるそうです。費用を抑えるため、ロトスコープを多く使ったからです。Fact[1]

Itsuki

僕は、こういう、作った人の事情が画面に残ってる話が好きなんです。古本も同じで、前の持ち主の書き込みとか、値札の跡とか。……あ、リリィさんは、本には書き込まないでくださいね。Preference

Lily

書きません! ノートのほうに書きます。

Lily

ロトスコープという言葉も、あとで調べます。分からない言葉は、先にノートの左側に書いておくんです。Preference

14歳の手塚治虫

火焔山のくだりは本作に寄ってしまった。手塚治虫さんは自分の漫画『ぼくのそんごくう』について、全集のあとがきでそう書いています。手塚さん版の『西遊記』ともいえるこの漫画には、映画の影が色濃く出ています。そもそも日本での公開は1942年、配給は東宝でした。手塚さんはそのとき14歳で、この映画から影響を受けています。Fact[1]

1980年に文化交流団として中国へ渡った手塚さんは、万兄弟が上海美術映画製作所で健在だと知ります。スタジオで万籟鳴さん・万古蟾さんに会い、『ぼくのそんごくう』を手渡しました。Fact[2]

Lily

作った人に、自分の漫画を渡しに行ったんですね。私なら、緊張して、添える手紙を三回書き直します。Preference

Itsuki

『火の鳥』、僕はうちの100円コーナーで初めて読んだんです。描いた人が14歳のころに観た映画がある、って知ったのは、そのあと。Preference

Lily

好きな作家さんが、子どものころに好きだったものを知ると、うれしいです。魔法の本の作者の、好きな本を探すみたいで。Preference

Itsuki

本も映画も、誰かの手から誰かの手に渡っていくんですよね。戦争中の上海で作られた映画が、14歳の手塚さんに渡って、漫画になって、何十年もたってから、作った本人のところに漫画のほうが届けられた。手渡しが、一周して戻ってきたみたいで。Interpretation

発掘された復元版

復元版は、2005年7月18日と8月13日にも上映されています。会場は東京国立近代美術館フィルムセンター、企画名は「発掘された映画たち2005」です。Fact[1]

Itsuki

「発掘された」って言い方、いいですね。古本屋も、毎日ちょっとずつ発掘してます。Preference

Lily

発掘って、魔法の遺跡みたいです。

Lily

観るときの入口、ありますか?

Itsuki

あらすじを知らないまま観ることです。扇が何のために要るかだけ覚えておけば、迷いません。それと、顔のところ。キャラクターの顔に実写の目が出てくるところがあるかどうか、探してみてください。Preference

Lily

見つけたら、ノートに書いて持ってきます。

Itsuki

待ってます。手塚さんの漫画は、その日までレジの裏に取っておきます。

1941年に上海で作られた『西遊記 鉄扇公主の巻』は、アジアで最初の長編アニメ映画。翌年日本で公開され、14歳の手塚治虫さんに影響を与えた。

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