土曜の昼、地域の図書館の集会室。リリィが開いている「まだ知らない作品を持ち寄る会」が終わって、椅子を並べ直していたナギに、リリィが一冊のノートを開いて見せました。表紙には「説明できないことノート」。今日、持ってきたのに紹介しそびれた一本の話です。
壁の小さなドア
ナギさん、本当はもう一本、持ってきていたんです。『コララインとボタンの魔女』。でも、どこから紹介すればいいか決まらなくて。
題名に魔女って入ってるね。それなら、どこから話してくれても聞くよ。
原作は、ニール・ゲイマンさんが2002年に出した児童文学で、ヒューゴー賞を受けました。日本語版は2003年に角川書店から出ています(訳は金原瑞人さんと中村浩美さん)。映画になったのは2009年で、ストップモーションのアニメ映画として、立体(3D)で作られました。Fact[1]
11歳のコララインにとって、引っ越してきたピンクパレスアパートの毎日は退屈そのものです。パパもママも締め切りに追われていて、遊び相手になる友だちもできません。ところがある日、壁のなかでふさがれていた小さなドアに、コララインは気づきます。Fact[1]
小さいころ、祖母と通った図書館で、絵本の中の小さな扉や窓を探すのが好きだったんです。だから、壁に小さなドア、っていう一行だけで、私、もう……あ、ごめんなさい。続けていいですか。Preference
どうぞ。私、まだ何も知らないから、ちょうどいいよ。
ドアの向こうのことは、言わないでおきます。そこは、観て確かめるところなので。
パパとママは、そろって園芸雑誌に記事を書くライター。ママは料理が苦手で、パパの料理はといえば、スライムみたいな出来ばえだそうです。Fact[1]
スライム状……。どんなお皿に盛ってあるのか、そっちが気になっちゃった。Preference
二十八人のコラライン
監督はヘンリー・セリックさん。ストップモーションでつくられたアニメーション映画のなかで、3D映画として公開されたのはこの作品が史上初です。Fact[2]
画面に映るものは、どれもこの映画のために作られたものです。撮影には50の区画に分けた広い倉庫が使われ、そこに150近いセットが並びました。倉庫があったのは、アメリカのオレゴン州ヒルズボロ(Hillsboro, Oregon)です。Fact[4]
コララインの人形は、同じものが28体ありました。1体を作るのに3〜4か月、たいてい10人がかりだったそうです。人形の頭は上と下に分かれていて、付け替えることで表情を変えられました。Fact[4]
28体です。ノートの「調べて分かったこと」の色で書きました。同じ女の子が、別々のセットで同時に撮影されていたのかなって想像するのは、「こうだったらいいな」の色のほう。Grounded inference
顔を上と下で付け替えるの、お弁当のおかずを詰め替えるみたい。……ちょっと違うか。Interpretation
髪の毛くらい細い編み針
ここが、今日いちばん話したかったところなんです。
一着に6週間から6か月。人形たちの小さなセーターや服には、それだけかかることもありました。編み手として雇われたのはアルシア・クローム(Althea Crome)さんで、人の髪の毛ほど細い針を使うこともあったそうです。仕上がった服は、絵の具を塗り、やすりをかけて、着古したように見せています。Fact[4]
一着に、半年かかることもあるの。私、マフラー一本で冬が終わったことあるよ。
私は魔法を使えないので、こういう話を聞くと、人の手のほうがよっぽど魔法みたいだと思ってしまいます。Preference
上杉忠弘さんは日本のイラストレーターで、この映画ではコンセプトアートを手がけました。その仕事で第37回アニー賞の最優秀美術賞に輝き、日本人がこの部門を受けたのは初めてです。Fact[3]
日本の人の絵が、遠い国の倉庫で人形の部屋になったんだね。Interpretation
はい。私、この名前を見つけたとき、ノートのページの端に小さく丸をつけました。知っている国の人の名前が、知らない国の映画の真ん中にあると、扉がもう一つ開いた気がするんです。Preference
監督が子どものころ観た影絵
セリックさんの子ども時代は、3歳から12歳まで、絵を描くことでほぼ埋まっていました。アニメの道に興味を持ったきっかけは、子どものころに見た2本の映画だそうです。ロッテ・ライニガーさんの影絵アニメーション『アクメッド王子の冒険』と、レイ・ハリーハウゼンさんがストップモーションを手がけた『シンバッド七回目の航海』です。Fact[2]
古い影絵の映画が、ずっとあとで人形の映画につながってる。次の会には、その影絵のほうを持ってきたいです。Preference
ホラーが苦手な人への入口
英語の紹介では、この映画はゴシック・ダーク・ファンタジー・ホラーの映画として紹介されています。Fact[4]
あ、ホラーなんだ。私、ホラーは苦手で……。
だから、先に言っておきたかったんです。おすすめは、明るい昼に、誰かと一緒に。それから、物語より先に、セーターの編み目を探すつもりで観てもいいと思います。Preference
それならいけるかも。温かい飲みものを用意して、編み目を探す係になる。Preference
観たら、どこが好きだったか教えてください。私の感想は、そのあとにします。
『コララインとボタンの魔女』の人形の小さなセーターは、髪の毛ほど細い針で編まれ、一着に6週間から6か月かかった。コララインの人形は同じものが28体あった。