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Everyday

酒場で選ぶか旅で出会うか

Spoiler range No spoilers 『ドラゴンクエストIII』『ドラゴンクエストXI』『ポケットモンスター 赤・緑』の、遊び方の仕組みと物語の始まりの設定まで。物語の展開と結末には触れません

日曜の昼、下町のファミレス。発送の手順を見直していたレンとイツキの席に、稽古帰りの竜山が来て、隣の席のハルが身を乗り出した。ドラクエとポケモン、攻略の仕方がばらばらな四人は、話すほど自分の暮らし方を白状していく。

For people who
ドラクエ派とポケモン派で、遊び方の話が妙に噛み合わなかったことのある人へ。
Who's talking
Ryuzan × Haru × Itsuki × Ren
Family diner 下町の商店街の近くにあるファミレスの、壁ぎわの四人席 日曜の昼すぎ

レンが持ってきた手順の紙は、前に渡したものより半分の長さになっていた。イツキは鉛筆で一か所だけ丸をつけ、そこで手を止めた。入口のほうから、張りのある声がした。

Ryuzan

おう、朝のゴミ拾いの兄ちゃんじゃないか。今日は本を抱えとらんのう。

Itsuki

竜山さん。稽古の帰りですか。よかったら、ここ空いてます。こちら、店の常連のレンさんです。

竜山は座るなり、上着のポケットから小さなゲーム機を出して、テーブルに置いた。画面には、古い酒場の絵が映っていた。

Ryuzan

いま、ルイーダの酒場で仲間を選んどるところでな。四人で旅に出るんじゃが、誰を連れていくかで、もう三日迷うとる。[1]

『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』はファミリーコンピュータ用で、日本では1988年2月10日発売。仲間は酒場で登録して、最大4人のパーティーを組む

Haru

すみません、いま、ルイーダって聞こえて……! ドラクエですか。

隣の二人席で一人でオムライスを食べていた若い人が、スプーンを持ったまま振り向いていた。竜山は笑って、空いている椅子を引いた。

Ryuzan

おう、座りなされ。旅は道連れじゃ。

Haru

ハルです。僕はXIが好きで。酒場で選んだことがないんです。旅をしてたら、勝手に増えていくので。

Ren

そこ、仕組みがまるで違うんですよ。IIIは、物語に出てくる人じゃなくて、自分で作った仲間を連れていく。[2]

Ryuzan

そうじゃ。だから、出かける前に勝負の半分は決まっとる。勇者のほかに選べるのは三人。俺は戦士と僧侶と魔法使いじゃ。建付けがいい家は、あとで直さんで済むからのう。

Itsuki

思ったより、まっすぐな組み方なんですね。竜山さんなら、もっと変わった組み方をするのかと思ってました。

Ryuzan

策じゃよ。しかも途中で神殿に寄って、魔法使いを戦士にする。呪文を覚えたまま、重い剣も振れる。強い者ほど、手の内を二枚持っとるもんじゃ。[1]

ダーマの神殿で、勇者以外の仲間は別の職業に「転職」できる。魔法使いが戦士に転職すると、呪文と重い武器の両方を使える

Haru

うわ、ずるい。いや、ずるくないです。賢いです。

Ren

竜山さんのやり方は、人選と配置で先に勝つ型ですね。ハルさんは?

Haru

僕は、とりあえず進みます。勇者の生まれ変わりだって言われる主人公なので、もう行くしかないというか。[3]

『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』は2017年7月29日発売。主人公は、勇者の生まれ変わりとされる若者

Itsuki

それで、レベルは足りてるんですか。

Haru

足りてないです。ボスで全滅して、戻って、また行く。高校のとき、受験勉強の合間にそれを毎晩やってました。戦闘がじっくり選べるターン制だから、負けても考え直せるんです。[4]

Ryuzan

ほう。負けてから作戦を立てる口か。

Haru

はい。それに、寄り道した村で、思ってもない人が仲間になったりする。選んでないのに、出会っちゃうんですよ。それが好きで。

Ren

イツキさんは? ポケモンだと、また話が変わりそうだけど。

Itsuki

僕は、仲間は選ぶより捕まえる側でした。草むらで出会った子に、ボールを投げる。最初に三匹から一匹だけ選ぶ以外は、ほぼ出会い任せです。[5]

『ポケットモンスター 赤・緑』はゲームボーイ用で、1996年2月27日発売。最初のポケモンは3匹から1匹を選ぶ。野生のポケモンにはボールを使って捕まえる

Ryuzan

酒場もなしに、草むらで仲間集めか。川で魚をすくうようなもんじゃな。

Ren

最初のころのポケモンは、一本だけだと全部の種類が集まらないように作ってあるんです。図鑑を埋めたいなら、別の版を持っている人と交換するしかない。[6]

Itsuki

そうなんです。集めて、育てて、交換して、対戦する。ひとりで完成しないゲームなんです。小学生のころ、友だちとケーブルをつないで、教室の後ろで交換しました。[5]

シリーズの柱になる「収集・育成・交換・対戦」は、この作品の時点でそろっていた

Haru

交換に出す子、迷いませんでした? 僕、育てた子を手放すの無理かも。

Itsuki

迷いました。でも、手放した子が向こうで強くなってると、ちょっとうれしかったんです。いまの仕事も、そんな気がします。読み終えた本を、次に読む人へ回すので。

Ryuzan

手放したもんが、よそで強うなる。弟子と同じじゃ。うちを出ていった者が、よその町で子どもらに型を教えとる。……それは内緒じゃ。本人には言うとらん。

Haru

えっ、言ってあげたら絶対喜びますよ。……いまの、なし。言わないで見てるのも、応援ですよね。

Itsuki

レンさんは、どっち派なんですか。

Ren

僕は、どっちも先に全部調べるほうだった。数字を表にして、いちばん無駄のない順番を決めてから旅に出る。中学のころ、それで友だちに「遊んでるのか働いてるのか分からない」って言われた。

Ryuzan

工程を組んでから家を建てる職人じゃな。悪うない。段取りのええ者は、現場で慌てん。

レンが紙ナプキンを一枚取って、ペンで三本の線を引いた。それぞれの先に、小さく「選ぶ」「出会う」「交換する」と書いた。

Ren

並べると、性格が出てる気がするんです。竜山さんは、旅の前に人を選ぶ。IIIは職業がたくさんあって、控えの仲間も酒場に置いておける。だから、選ぶ人の腕がそのまま出る。[1]

IIIの職業は、戦士・武闘家・僧侶・魔法使い・商人・遊び人・盗賊・賢者など。酒場に控えの仲間を置いておける

Ryuzan

ふむ。ところが道場は来る者拒まずじゃ。どう見ても堅気じゃない男も、黙って受け入れた。人生で選べんぶん、ゲームくらい選ばせてくれ。

Haru

あ、それ逆なんだ。僕は普段こそ計画を立てるんです。旅の計画はノート一冊ぶんあります。で、当日はだいたい計画どおりに行かない。

Itsuki

それは計画じゃなくて、出会いの準備ですね。

Itsuki

ポケモンって、強い子を一匹そろえるより、相手を見て出す子を替えるのが面白いんです。全部に勝てる子なんていないっす。だから、いろんな子を連れていく。

Haru

それ! 僕、そこはずっと一番強い子で押し切ってました。

Ren

僕は最初に仕組みを全部読む派です。でも最近は、読まないで進む区間を一つだけ残すようにしてる。知らないまま驚ける場所って、あとから作れないから。

Ryuzan

ええ質問じゃ、と言いたいところじゃが、質問じゃなかったのう。お前さん、それは手順書の空欄の話じゃろう。

Ren

……どうして分かるんですか。

Itsuki

さっき竜山さん、レンさんの紙をずっと見てました。答えを書いてない欄があるの、すぐ気づいてましたよ。

料理が来ても、話は終わらなかった。ハルは、仲間が勝手に増える旅の楽しさを、オムライスの残りを食べるのも忘れて話した。竜山は、四人の職業をどう組むかを、ハンバーグを切りながら真剣に考えていた。

Ryuzan

決めた。このテーブルで組むなら、ハルは勇者じゃ。前に出て、全滅して、また来る。レンは賢者。イツキは僧侶じゃな。人のぶんまで抱えて歩く。

Haru

竜山さんは?

Ryuzan

武闘家に決まっとろう。今朝も稽古してきたばかりじゃ。

Itsuki

じゃあ今度の土曜の夕方、店でカードのほうのポケモンを一戦やりませんか。デッキは僕のを貸します。四人ぶん、あります。

Haru

行きます! ……あ、日にちを忘れないように、いまメモします。

ハルはスマートフォンに時刻を打ちこみ、念のため、レンが三本線を引いた紙ナプキンの端にも書いた。竜山はその紙ナプキンをたたんで、ゲーム機と一緒に上着のポケットにしまった。

Told by Ryuzan An old master kept young by morning training and the classics More from Ryuzan →

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