最初はアニメで、いまは紙で読んでいる漫画があります。『スキップとローファー』です。書くのは始まりの設定のところまで。誰と誰がどうなるかは、書きません。
姉の隣で観た春
中学に上がる前、居間のタブレットで、姉と配信のアニメを観た。選んだのは姉。私は題名を見て、恋の話だと思ってた。一話目が終わったとき、先に「次」って言ったのは私のほうだった。姉は笑って、何も言わないで次を押した。途中で、私が画面じゃなくて姉の横顔を見てるのに気づかれて、「前見な」って言われた。見てたのは、姉が笑う前の顔。喜好
そこから、私は美津未より、美津未を見ている人の顔ばっかり見てた。すれ違う人、声をかけてくる男の子、教室で後ろに座ってる子。みんな、美津未を見て、ちょっとずつ顔が変わる。変わる前と変わったあとが、同じ画面の中にある。それが面白くて、二話目からはもう、口を閉じて観てた。作品中的观察
静かだったのは、顔を見てたから。しゃべると見逃すでしょ。喜好
紙で止めて見る
中学生になってから、お小遣いで一巻を買った。少女漫画誌のほかに単行本を買うのは、私にはけっこう大きい。アニメで知ってる場面なのに、紙だと止めて見られる。動いてると一瞬で流れる顔が、紙だとずっとそこにある。縁側で読んでいると、白い猫が横に来て、ページの上に影を落とす。影がかかったコマは、なぜかもう一回読みたくなる。喜好
白いところの多い目
美津未の目は、黒いところが小さくて、白いところが多い。おかっぱで、目つきだけ見ると、ちょっとこわい顔にもなる。でも、困ったときも、うれしいときも、すぐ分かる。かわいく見せようとしてない顔なのに、気持ちがいちばん外に出てる。私はクロッキー帳に、美津未の目だけを何回もまねして描いた。うまくいかない。白いところの量が、ちょっと違うだけで別の人になる。作品中的观察
怒らせたあとが長い
好きな理由でいちばん大きいのは、美津未が人を怒らせてしまったときのこと。その場で言い返して終わり、にならない。あとで一人になってから、どうしてあの子の顔が変わったのか、自分の言い方をもう一回思い出す。考え直したことを、ちゃんと相手に返そうとする。そのあいだのコマが、私は好き。解读
私は気づいても言わないことが多い。言わないで、一人で考えて、言う時を逃す。美津未も考えるところまでは私と同じ。違うのは、考えたあと。読んでると、ちょっと背中がまっすぐになる。まねできるかは、まだ分からない。喜好
最初はつんとしてた子
ミカの顔が好き。笑ってるのに目が笑ってないコマと、ほんとに笑ってるコマがある。並べると、口の形はそんなに変わらない。変わるのは目の下と、肩の力。それに気づいてから、ミカが出てくるたびにページを戻すようになった。解读
それ、ミカが自分から動いたから変わったんじゃないの?解读
動く前のコマがあるから、変わったって分かるんです。そこ、けっこう長いですよ。解读
家の外にいる大人
ナオちゃんが出てくると、私はちょっとほっとする。美津未が東京で一人で失敗しても、帰る場所に、美津未の顔を気にしてくれる大人がいる。私にはそう見える。家族じゃなくても、毎日顔を見てくれる人がいれば、人はわりと大丈夫なのかもしれない。うちだと、それをやってるのは母。だから美津未が一人で上京してても、私はあんまり心配しないで読めた。解读
あら、私はすぐ聞くこともありますよ。
聞かない日のほうが、多いじゃん。
東京の教室じゃなくても
私の教室は東京じゃない。でも、教室の空気が変わる一瞬は、たぶんどこでも同じ。誰かが言いすぎたとき、みんな黙って、目だけが動く。この漫画は、その目の動きをちゃんと描く。私は休み時間、端の席で自由帳を開いて、それを見てる側。誰が誰を見てるか、だいたい分かる。言わないけど。家族の四コマを描くときも、たぶん同じことをしてる。父が何か言う前の顔を、先に描いておく。喜好
友だちの話として読む
私はこれを、恋の話より先に、友だちの話として読んだ。男の子との場面より、女の子どうしで話してる場面のほうを先に好きになった。アニメで一回観て、気になった顔のところだけ紙で見直す。その順番が、私には合ってた。全部そろえなくても、一巻の最初のほうだけで、美津未がどういう子かはだいたい分かると思う。喜好
二本目と並べると
6選の二本目の『君に届け』も、誤解されやすい子が出てくる。美津未は言ってしまってから考え直す。爽子は言えなくて、少しずつ言う。向きは逆なのに、どっちも相手の顔から目をそらさない。私はその二人のあいだに座って読んでる気がする。解读
母ちゃん、美津未が一人で考えてるコマ、……見てた?
ええ。あなたが同じ顔で読んでいたのも、見ていましたよ。
怒らせたあとに考え直している顔は、言い返す顔より、ずっと長く覚えている。