百人一首は、いまもほとんど覚えていません。それでも、アニメの『ちはやふる』は好きです。試合の勝ち負けは、書きません。
休みの日の居間で
小学校の最後の年の、休みの日の昼。姉が「これ、部活の話」って言って、画面をこっちに向けて再生した。かるたの話だと知ったのは、始まってから。私は最初、ルールが分からないから、すぐ飽きると思ってた。飽きなかった。気づいたら、姉より前のめりになってた。喜好
原作は末次由紀さんの漫画で、アニメはマッドハウスっていう会社が作ったの。続きのシリーズもあるのよ。事实[2]
テレビアニメ第1期は日本テレビ系列で2011年10月〜2012年3月に放送。第2期・第3期も放送された
続きもあるの、もう知ってる。姉が先に言った。
読まれる前の一秒
いちばん好きなのは、札が読まれる前。読む人が息を吸うあいだ、みんなが止まる。前かがみで、手を畳のすぐ上に置いて、目だけが動いてる。音がなくなる。その一瞬のほうが、札が飛ぶところより、私には長く見える。千早の目、仲間の目、相手の目。全員が同じ一枚を待ってるのに、待ち方が一人ずつ違う。作品中的观察
百人一首は、まだほとんど覚えてない。だから、どの札が読まれるか、私には分からない。分からないのに、誰が本気かは分かる。本気の人は、目が札を見てない。もっと遠く、読まれる声のほうを見てる。そういう顔の人が取る。外れることもあるけど、だいたい当たる。私はそうやって、ルールより先に顔で試合を観てた。解读
いまの人、泣きそうな顔してた! ねえ、負けたの?
それ、今言わなくていいやつ。次の札、まだ読まれてないから。
弟は、思ったことを全部言う。言われると、画面の空気がちょっと抜ける。でも、弟が泣きそうって言った人の顔は、ほんとに泣きそうだった。私は分かってて黙ってた。黙ってるのと、言うのと、どっちが見てることになるのかは、まだ分からない。喜好
音を小さくした日
一回だけ、弟が隣で昼寝してたから、音をすごく小さくして観た日がある。読む声も、札をはらう音も、ほとんど聞こえない。そうしたら、見るものが顔しかなくなった。誰がいつ息を止めたか、誰の肩が先に動いたか、音があるときより、よく見えた。弟が起きて音を戻したら、今度は声の高さで、さっき見た顔の意味が分かった。顔と音の両方で一つの場面なんだと、そのとき思った。喜好
千早の二つの顔
千早は、ふだんと、畳の上とで、顔が全然違う。ふだんはわりとぼんやりしてて、話してても目があっちこっちに行く。畳に座ると、急に目が一点で止まる。同じ人の中に、二つの顔がある。私はクロッキー帳の同じページに、両方を並べて描いてみた。並べると、別の人みたいで、でも口の形だけは同じだった。解读
部活ができていく顔
部活の話としても好き。一人ずつ仲間が増えていくとき、入る前の顔と、入ったあとの顔が違う。最初は「やらない」って顔をしてる人が、畳に座った瞬間、ちょっとだけ口の形が変わる。私は美術部で、部活はわりと静か。でも、静かな部屋で誰かが本気になると、空気が変わるのは同じだと思った。絵を描いてる人の背中が急にまっすぐになるとき、私は手を止めて、それを見てる。解读
いちばん見ていた人
好きなキャラクターは、奏ちゃん。みんなが札を取る速さを競ってるときに、奏ちゃんは歌そのものを聞いてる、と私は思う。歌の意味を知ってる人には、同じ一枚が、ほかの人とは違って聞こえてるはず。私には、好きなものの話をしているときの奏ちゃんが、いちばん楽しそうに見える。私は、好きなものを好きって、ちゃんと言える人が好き。自分ではなかなか言えないから、なおさら。解读
札を一枚も知らなくても
観始めたとき、私は札を一枚も知らなかった。それでも、困らなかった。ルールの細かいところは、観てるうちに半分くらい分かった。残りの半分は、まだ分からない。それでも、顔を見てれば誰が本気かは分かる。取ったか取ってないかより、取る前の顔だけを追いかける。私の観方は、最初からずっとそれ。姉は、私が奏ちゃんばかり見てるのを知ってて、奏ちゃんが出てくると、黙って肘でつついてくる。喜好
お正月に、一枚くらい覚えてみる?
……奏ちゃんが好きな歌からにする。どれか知らないけど。
そのあと、母が一枚だけ読んでくれた。声がゆっくり長くのびて、弟が笑った。私は笑わないで、母の顔を見てた。読み始める前に、母も一回、小さく息を吸った。アニメの読む人と同じだった。札を取る人だけじゃなくて、読む人にも、読む前の顔がある。それに気づいたのは、そのときが初めて。喜好
顔で勝つ人と顔に出る人
6選の五本目の『からかい上手の高木さん』も、顔を見る話だと思ってる。高木さんは相手の顔を読んで、からかう。ちはやふるの本気の人たちは、自分の顔を消して、声だけを待つ。顔を読むのと、顔を消すの。どっちも、私にはまだできない。だから、どっちも観てしまう。四本目の『あたしンち』のお母さんは、思ってることが顔に全部出る人。6選を並べると、顔の使い方が一本ずつばらばらで、そこが面白い。解读
札の名前を知らなくても、読まれる前の一瞬の顔で、誰が本気かは分かる。