わたしの6選

『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』言葉になるまで

誰かの想いを、手紙の言葉にして届ける仕事。働き始めてから出会ったこのアニメは、言葉になるまでの時間をそのまま大切にしてくれる作品でした。スイが好きな理由を、展開に触れずに話します。

こんな人に
言いたいことがあるのに、言葉になるまで時間がかかる人へ。返事をすぐに返せないことを、少し気にしている人にも。
ネタバレの範囲
ネタバレなし 公式に紹介されている導入の設定まで。各話の依頼の中身や物語の展開には触れません
話している人
スイ × イロハ
主張の種類: 事実 作中の観察 根拠のある推測 解釈 好み
目次 全7節・約5分
  1. 働き始めてから夜に一話ずつ
  2. 好きな理由1 言葉の手前で黙る人たち
  3. 好きな理由2 タイプライターの音が心の速さになる
  4. 好きな理由3 言葉を一つずつ自分のものにしていく
  5. 一話のあとの静かな五分
  6. 苦手かもしれない人へ
  7. ほかの5作とのつながり

6選の四つめは、アニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』です。私はこの作品を、物語として好きなのと同じくらい、「言葉が生まれる前の時間」の記録として好きです。今回は各話の依頼の中身には触れず、場面の種類と音と間の話をします。

働き始めてから夜に一話ずつ

出会ったのは、働き始めてからでした。毎日たくさんの連絡に、できるだけ早く返事をしようとしていたころです。夜、部屋に帰ってから一話だけ観る。それが、一日のうちで唯一、急がなくていい時間になっていました。好み

原作は暁佳奈さんの『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』(KAエスマ文庫/京都アニメーション)で、監督は石立太一さん、シリーズ構成は吉田玲子さんです。事実[1]

主人公のヴァイオレットは、戦争が終わったあと、誰かの想いを言葉にして届ける仕事に出会います。事実[2]

アニメーション制作は京都アニメーションが担当しています。事実[3]

好きな理由1 言葉の手前で黙る人たち

この作品には、手紙を頼みに来る人がたくさん出てきます。私がいちばん好きなのは、その人たちが「言いたいこと」の手前で黙る瞬間です。話しかけて、やめて、視線を窓の外へ逃がす。その沈黙を、物語は急いで埋めません。カメラが少し引いて、部屋の空気ごと待ってくれる。作中の観察

私は、返事をしなかった時間にも中身がある、と考えるようになったのは、この沈黙の場面からだと思っています。黙っているあいだ、その人の中では言葉が探されている。何も起きていないように見える時間が、いちばん忙しい時間なのかもしれない。私はそう受け取りました。解釈

依頼人の側から見ると、手紙を頼むというのは、自分の気持ちを他人に打ち明けることでもあります。うまく言えない部分を、誰かに一緒に探してもらう。その心細さと、ほっとする感じが、同じ場面の中にあります。私は、言葉を待ってもらえることが、どれほど人を楽にするのかを、この依頼の場面たちから教わりました。解釈

好きな理由2 タイプライターの音が心の速さになる

手紙を書く場面では、タイプライターの音が響きます。速く打たれるときもあれば、途中でぴたりと止まるときもある。私はこの音の速さを、書いている人の心の速さとして聞いていました。止まった瞬間、言葉がまだ決まっていないことが、台詞より先に伝わってくるんです。解釈

イロハ

あの作品、音が消える瞬間も丁寧だよね。キーの音が止まったあと、外の風とか、紙のこすれる音だけが残る。私は、そこで気持ちが一段深いところに降りる感じがした。解釈

スイ

そうか、止まったあとに残る音。私は人物の顔ばかり見ていたから、そこはイロハの耳を借りて観直したいな。

好きな理由3 言葉を一つずつ自分のものにしていく

ヴァイオレット自身も、最初から言葉を自由に使える人ではありません。言われた言葉をそのまま繰り返したり、意味をたずね返したりする。その不器用さが、私にはとても誠実に見えます。わかったふりをしないで、一つの言葉を、自分の中に置ける場所が見つかるまで持っておく。解釈

好きなキャラクターにヴァイオレットを挙げているのは、この過程があるからです。気持ちに早く名前をつけることが理解だと思っていた昔の私には、言葉を急がない彼女の姿が、少しまぶしく、少し救いでした。好み

手袋をはめた手、便箋を折る指先、封筒を差し出す動き。手の描写がとても多いのも、この作品の好きなところです。言葉にならない部分を、手が代わりに話している場面がたくさんあります。作中の観察

一話のあとの静かな五分

この作品を観るとき、私は一話が終わっても、すぐに次の回へ進まないようにしています。エンディングが流れ終わったあと、画面を消して、五分くらい何もしない。いま観た手紙の言葉を、自分の中でもう一度読み返すような時間です。好み

一話ごとに、誰かの言葉にならなかった想いが、ようやく手紙になって届く。その余韻を急いで上書きしたくないんです。続けて観たくなる気持ちもよくわかります。でも、言葉になるまでの時間を大切にする作品だからこそ、観る側も少しだけ時間をかけて受け取りたい。それが、私なりのこの作品へのお返しです。好み

苦手かもしれない人へ

泣ける作品だと聞いて、構えてしまう人もいると思います。そういう人は、物語を追うより、一話ごとに出てくる手紙の依頼人を「今日のお客さん」として眺めてみてください。一話でひとつの依頼がまとまる回も多いので、疲れた夜は一話で止めても大丈夫です。重く感じたら、明るい日にもう一度ひらけばいいと思います。好み

ほかの5作とのつながり

高校で読んだ『舟を編む』で、私は言葉を選ぶ行為そのものに愛着を持ちました。この作品は、その「選ぶ」の手前にある、迷いと沈黙を見せてくれます。そして小学生のころ『フルーツバスケット』で考えはじめた、人との距離の決め直しは、ここでは「返事を急がせない」という形の優しさになっていました。好み

すぐに言葉にならなくてもいい。黙っているあいだも気持ちはちゃんと言葉を探している。

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