ソウマ。今回は『陰の実力者になりたくて!』TVアニメ第1期の二周目の話をする。全20話を最後まで観た人向け。中盤と結末に触れるところは畳んであるから、まだの人は押さないで。聞き手はジンさん。新刊を買いに走らされた帰り、リハーサル前のスタジオのロビーで捕まって、そのまま一緒に頭から観直すことになった。
二周目を始める前に
第1期は2022年10月5日から2023年2月15日まで放送された全20話。監督は中西和也、シリーズ構成は加藤還一、アニメーション制作はNexus。事実[1]
前世の影野ミノルは、核兵器にも勝てる力を求めて修行を続け、高校最後の夏、修行帰りに幻覚を見てトラックに轢かれる。生まれ直した先は魔力のある異世界で、男爵家の息子シド・カゲノーになる。彼はそこで、でっちあげの設定を語って陰の組織シャドウガーデンをつくる。事実[2]
でっちあげで組織を立ち上げて、陰で全部片づけて、名乗らねえ。……なんだよ、俺のスタイルそのものじゃねえか。好み
ジンさんは名乗りますけどね。ステージで、毎回。
うるせえ。……別に。
醒めたまま本気の人
作品の説明によれば、シドは中二病ととれる言動をするが、醒めている部分もあるため正確には中二病ではない。超常的な力がまず実在しないと分かっていながら、それを手に入れるために人生を賭けている。事実[3]
中二病は、信じることで成り立つ。シドは信じていない。信じていないのに、やめない。俺がノートを封印したのは、信じられなくなったからだ。信じなくても続けていい、という道は、中学の俺の頭のどこにもなかった。二周目は、シドが決め台詞の直前に一瞬だけ見せる、醒めた顔を探してほしい。熱の下に、ずっと冷えた芯がある。解釈
第1話の題名は誰の言葉か
作品の人物紹介によれば、前世の同級生アカネは、ミノルに名前を間違えられ続けた。それ以上に嫌だったのは、彼の視線が自分を見ていないことだったという。誘拐事件の傷から、彼女もまた仮面をかぶって暮らしていた。第1話の題名は「嫌いなクラスメイト」。事実[4]
一周目、俺はこの題名をミノルの側から読んでました。モブを演じる彼にとって、クラスメイトは背景だから。二周目は逆に読める。嫌っているのは彼女のほうで、理由は、見てもらえないこと。陰の実力者になりたい男は、最初の回から、隣の席の顔を見ていない。解釈
名前を間違えんのは、ナシだろ。名乗った相手には名前で返す。それが最低限の契約だ。解釈
七つの席の並べ方
シャドウガーデンの幹部「七陰」は、加入した順の席次で、ギリシア文字一文字の名前を与えられている。事実[5]
中学の俺のノートにも、組織の名前と階級表があった。上から順に、立派な肩書きがいくつも。違うのは席の決め方だ。俺は肩書きを先に書いた。座る人は、最後まで一人も来なかった。シドは逆で、助けた順に席ができていく。二周目、序盤で仲間が一人ずつ増えていくのを観ていると、組織図は人が来てから書くものだと分かる。……分かったところで、もう遅いけど。好み
そのノート、まだあんのか。今度持ってこい。
……封印してあるので。
嘘が本当になる順番
二周目は、シドが設定を語る場面と、仲間がそれを受け取る場面を、必ず組で観てほしい。語る側の顔は笑っていて、受け取る側の顔は笑っていない。同じ場面に、温度の違う顔が二つ並んでいる。作中の観察
中盤まで中盤の展開押すと開きます
シドが妄想で語ったはずの話は、嘘から出た実だった。魔人ディアボロスも教団も、本当に存在していた。シド本人は事態を把握しないまま、シャドウガーデンは教団との戦いに身を投じていく。
一周目は、勘違いコメディの仕掛けとして笑って観た。二周目は、序盤でシドが適当に並べた設定の一つ一つが、あとで本物の重さを持って返ってくるのが見える。言葉は、言った本人の手を離れたところで育つ。事実[2]
ほら見ろ。ごっこでも、本気で続けりゃ本物になる。俺はこういう話を待ってたんだよ。好み
……ジンさんは、ごっこのつもりもないでしょう。
当たり前だ。ダークヒーローに、ごっこもクソもねえ。
途中で切れた題名
前世のミノルが求めたのは、核兵器にも勝てる力だった。シャドウの奥義「アイ・アム・アトミック」は、核で蒸発しないためには自分が核になればいい、という発想から生まれたとされる。第5話の題名は「アイ・アム……」。事実[6]
題名が途中で切れているのが、いい。名乗りの最後の一語を、本編に取っておいてある。それにこの技名、ちゃんと一文になってる。私は、で始まって、何者かを言い切る。中学の俺が欲しかったのは、技じゃなくて、こういう一文だった。我が名は……いや。今のは忘れてください。解釈
……続き、気になるだろうが。
目立たないための技
シドには、モブらしく負けるための技がいくつもある。血のりで出血を装い、死んだふりまでできる。けれど大けがに見えたまま平然と起き上がるので、本人の思惑とは逆に目立ってしまう。事実[7]
中盤まで中盤の展開(ブシン祭)押すと開きます
TVアニメ版のブシン祭で、シャドウの奥義は王国全体を覆うほどの範囲を見せる。ただし本当に使うつもりはなく、雲を吹き飛ばすだけのこけおどしで終わる。
目立たないための技が目立ち、本気を見せる技が脅しで終わる。この主人公は、力の出し入れの加減だけが、いつも少しずれている。二周目は、そのずれ幅を測るつもりで観ると、ギャグの間が全部、演出の設計図に見えてくる。事実[8]
力を見せびらかさずに、空だけ割って帰る。……そういうのでいいんだよ。好み
最初と最後の手元
前世のミノルは、目出し帽をかぶり、夜な夜な暴走族を相手にバールを振るって鍛えていた。TVアニメの第1話は、この前世の時代を描いている。事実[9]
結末・正体結末(第20話まで)押すと開きます
第1期の最終話、第20話の題名は「魔人降臨」。TVアニメ版のシドはこの回、戦闘中に拾ったバール2本で二刀流を見せる。原作にはない戦い方だという。
剣も魔力も手に入れた男が、最後にまた、そこらに落ちていた道具を握る。前世の夜と最終話で同じ道具が手に取られるのが狙いかどうかは分からない。でも二周目の俺には、何者かになったはずの男の手元に、前世の夜がそのまま残っているように見えた。事実[10]
結末・正体組織をつくった本人の勘違い押すと開きます
シャドウは、仲間たちが教団など実在しないと気づいたうえで、ごっこに付き合ってくれていると思っている。だから、シャドウガーデンが本当に存在しているとも思っていない。
全20話を観終えても、いちばん大きな組織の本当の姿を知らないのは、つくった本人だけ。支配者が、自分の帝国をいちばん信じていない。仮面の支配者についていく人たちの話として、これほど妙で、これほど筋の通った形を、俺はほかに知らない。事実[11]
本気でやってる連中を、ごっこだと思ってんのか。……そこだけは、ぶん殴ってやりてえ。解釈
でも、ごっこだと思ってるから、あの人は最後まで楽しそうなんです。まあ、それで世界が回るなら、なんとかなる。解釈
……別に、分かってる。おい、次の巻も買ってこい。
二周目は、第1話の前世の場面と第20話で、彼が手に取る物を見比べてほしい。剣より先に、何を握るか。