二周目

『新世紀エヴァンゲリオン』二周目は終わりの側から

いちばん新しい劇場版から入って、あとからテレビ版に戻ったイツキと、テレビ版を一話目から順番どおりに観終えたばかりのレン。逆の順番で観た二人が、二周目に見直したい場所を並べました。駅のホーム、電車の座席、動くはずのない腕。観終えた人向けです。

この記事は結末までのネタバレを含みます

範囲『新世紀エヴァンゲリオン』テレビ版全26話の結末まで。旧劇場版『Air/まごころを、君に』は位置づけだけ。『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は、前半の第3村の場面を中盤の畳み(mid)に、終盤の電車と最後の駅の場面を結末の畳み(end)に入れて触れます

観終えた人が二周目をもっと楽しむための記事です。中盤の展開と、結末・正体のくわしいところは、押すと開く部分に分けてあります。

こんな人に
テレビ版を最後まで観て、もう一度一話目から観るか迷っている人へ。新しい劇場版から入って、あとでテレビ版に戻った人にも。
ネタバレの範囲
結末まで触れます 『新世紀エヴァンゲリオン』テレビ版全26話の結末まで。旧劇場版『Air/まごころを、君に』は位置づけだけ。『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は、前半の第3村の場面を中盤の畳み(mid)に、終盤の電車と最後の駅の場面を結末の畳み(end)に入れて触れます
話している人
イツキ × レン
主張の種類: 事実 作中の観察 根拠のある推測 解釈 好み
目次 全10節・約16分
  1. 順番の違う二人
  2. つながらない電話と道ばたの人影
  3. 動くはずのない腕
  4. 引き取る人とホーム
  5. 笑い方の練習
  6. 同じ教室の二人
  7. 音楽に合わせて踊る回
  8. 電車の中の会話
  9. 遅れてきた一人
  10. 折り返しと最後の二話

土曜の夕方、閉店前の古本屋。レンが帳場の前で「全部観た。テレビ版も、そのあとの新しい劇場版も、出た順番に」と言いました。イツキは、終わりから入って最初に戻った人です。同じ作品を逆の順番で通った二人が、二周目に見てほしい場所を一つずつ出していきます。展開にかかわるところは畳んであります。

順番の違う二人

テレビ版は、僕が生まれる前の秋から春にかけて放送された、庵野秀明さんが監督を務めたアニメです。事実[1]

僕が最初に観たのは、新しい劇場版のシリーズの最後の一本でした。前の話を何も知らないまま、いちばん最後の場面まで観て、それから配信でテレビ版の一話目に戻りました。テレビ版は、店を閉めて部屋に帰ってから、一日に一話ずつ。終わりを知っている人たちの、最初の顔を確かめていく夜が続きました。

レン

僕は逆。一話目から順に観て、最後に新しい劇場版の四本目。イツキさんが最初に観たものを、僕は最後に観た。

イツキ

同じものを観たのに、たぶん通った道が真逆です。今日は、そこを並べてみたいです。

レン

順番どおりに観ると、謎が一つずつ増えて、最後にまとめて片がつく。そういう観方しか、僕は知らなかった。

イツキ

僕のほうは、答えだけ先に持ってて、問いを探しに戻る感じでした。あとがきから読んだ本の、一ページ目を開くみたいに。

物語の入口は、十四歳の碇シンジが、離れて暮らしていた父に呼び出されるところから。人型の兵器エヴァンゲリオンの初号機に乗って、街を襲う謎の敵「使徒」と戦うことになる。事実[1]

つながらない電話と道ばたの人影

レン

一つだけ、最初に確かめたい。一周目のイツキさんは、一話目で何が気になった?

イツキ

電話です。シンジくんが駅の近くで公衆電話をかけて、つながらない。始まって何分もしないうちに、この子は誰ともつながってない、って先に見せられます。作中の観察

レン

少しあとの回の題名にも、電話が入ってるね。作中の観察

第参話「鳴らない、電話」

イツキ

そうなんです。最初の回でかけてもつながらなかった電話が、その次の次の回では、鳴らない電話になる。かける側から、待つ側に回ってます。解釈

レン

僕が一周目でノートに書いたのは、その電話のあと。道路の先に女の子が一人立っていて、次の瞬間にはいない。作中の観察

イツキ

あの子、結末まで観たあとに戻ると、最初の数分でもう出てたのか、ってなります。

レン

一周目の人は、たぶんほとんど覚えてない数秒だよ。僕も、ノートに書いたのに、次の回を観るころには忘れてた。

結末・正体道ばたの少女について(結末にふれます)押すと開きます

道ばたに立っていたのは、綾波レイの姿でした。一周目は、怪我をして担架で運ばれてくる前のレイを、なぜかシンジくんが一瞬だけ見た、くらいに流してしまう場面です。

テレビ版の終盤で、レイが一人ではなかったことが明かされます。それを知ったあとに一話目へ戻ると、担架の上のレイと、道ばたのレイが、同じ一人なのかどうかさえ言い切れなくなる。僕はこの数秒を、物語がまだ何も説明していない場所に、いちばん大きな秘密が先に立っている場面だと読んでいます。解釈

動くはずのない腕

レン

ここ、気にならない? 一話目のケージで、天井から照明が落ちてくるところ。

イツキ

初号機の腕が勝手に動いて、シンジくんをかばう場面。まだ誰も乗ってないのに。見ていた技術者たちが、動くはずがないって驚く。作中の観察

レン

一周目の僕は、これを謎のリストの一行目にした。答えが出るまで、ずいぶん待った。

イツキ

僕は、この腕を見た瞬間に分かっちゃいました。最後の劇場版で、答えのほうを先に見てたので。だから一周目から、謎じゃなくて手紙みたいに見えました。解釈

レン

謎として見るか、手紙として見るか。順番で、同じ一カットの役割が変わる。

結末・正体一話目の腕について(結末にふれます)押すと開きます

テレビ版の後半、シンジくんが初号機と溶け合ってしまう回があります。そこで彼は、初号機の中で母親のユイの魂に触れ、そこから戻ってくる。新しい劇場版の最後でも、初号機はユイを中に残したまま描かれます。

一話目の腕は、操縦する人がいないのに動いたのではなく、中にいた人が子どもをかばった、と読める。一周目のレンさんにとっては『ありえない誤作動』で、僕にとっては『最初の挨拶』でした。二周目は、腕が動く直前に、シンジくんが何を見上げているかを見てください。作中の観察

引き取る人とホーム

父のゲンドウは、呼び出した息子と一緒に暮らそうとしない。代わりに、作戦の指揮をとる葛城ミサトが、シンジの保護者になる。事実[3]

レン

一周目の僕は、ミサトの部屋の散らかり方に気を取られてた。冷蔵庫の中身とか、ペンギンとか。作中の観察

イツキ

いいですね、あの部屋。僕は二周目で、あの部屋に入っていくシンジくんの足の遅さを見てました。人の家に上がるときの足どりのまま、そこが自分の家になる。作中の観察

レン

引き取ってくれた人がいて、引き取らなかった父がいる。二人の大人が、最初の二話で並べて置かれてる。解釈

中盤まで父と並ぶ場面(中盤)押すと開きます

中盤、シンジくんは母の墓の前で父と会います。一緒に暮らそうとしなかった父と、墓の前でだけは並んで立つ。交わす言葉は多くありません。

結末まで観たあとだと、この短い並び方が、ずっと先の電車の向かい合わせの座席の、いちばん小さな前ぶれに見えてきます。並ぶことはできても、まだ向かい合えない二人。二周目の僕は、二人の立っている距離と、どちらが先に背を向けるかを見ています。作中の観察

イツキ

僕がいちばん二周目で見てほしいのは、雨の回の終わりです。

第四話「雨、逃げ出した後」

レン

家出して、電車に乗ったまま夜を過ごす回だ。作中の観察

イツキ

はい。最後は駅のホームで、乗るはずの電車に乗らないで残る。そこにミサトさんが来る。作中の観察

レン

一周目の僕には、ここは『戻ってきた』場面だった。物語が続くための、いったんの区切り。解釈

イツキ

僕には、ここが『最後の場面の、ずっと前の形』に見えました。終わりを先に観てたんで。解釈

結末・正体新しい劇場版の最後の場面(シン・エヴァの結末にふれます)押すと開きます

新しい劇場版の最後の場面は、駅のホームです。大人になったシンジくんがベンチに座っていて、迎えに来た人と手をつないで、階段を駆け上がって駅の外へ出ていく。

僕はこれを最初に観ました。だから、テレビ版の雨の回で、十四歳の彼がホームに立ったまま電車に乗らないのを見たとき、同じ人が、ずっと前は『ここから出ない』を選んでいたのか、と思いました。出ないことを選んだ駅と、出ていく駅。どっちが正しいという話ではなく、同じ人が、別の年に、同じような場所で、逆を選んでいる。二周目の雨の回は、ホームの床と、彼の足もとを見てほしいです。作中の観察

レン

……そうか。僕は最後の駅を、雨の回を覚えたまま観た。イツキさんは、最後の駅を覚えたまま雨の回を観た。同じ二つの駅を、逆向きに渡ってる。解釈

レン

迎えに来たミサトも、一周目と二周目で見え方が違った?

イツキ

一周目は、助けに来た人でした。二周目は、引き取ると決めたことを、もう一回自分で選び直しに来た人に見えます。部屋に迎え入れた日と、ホームまで来たこの日で、二回。解釈

レン

引き取るのは一回じゃ終わらない、か。

笑い方の練習

レン

レイの話もしておきたい。一周目の僕には、ずっと読めない人だった。

イツキ

僕は逆で、最初に会ったレイが、いちばんよく笑う人でした。最後の劇場版のレイを先に観てたので。作中の観察

イツキ

だからテレビ版で、こんなに言葉の少ない子だったのか、って驚きました。順番が逆だと、練習のあとに、練習の前を観ることになる。解釈

レン

レイと二人で作戦に出る回の終わりは、どう見えた?

第六話「決戦、第3新東京市」

イツキ

壊れたエントリープラグをシンジくんが開けて、泣きながら、レイにこう言う場面ですね。「笑えばいいと思うよ」。作中の観察

イツキ

一周目の僕には、ここが挨拶の最初の一回に見えました。ずっと先で覚えていく挨拶の、いちばん最初の一個。解釈

レン

僕には、あの場面は『ここで初めてレイの顔が動く』っていう、ただの変化の記録だった。挨拶として見たことはなかった。解釈

結末・正体綾波レイについて(テレビ版の結末にふれます)押すと開きます

テレビ版の終盤、レイは乗っていた零号機ごと自爆して、命を落とします。そのあと、何事もなかったようにまた現れる。そして、彼女と同じ姿の体がいくつも用意されていたことが、シンジくんとミサトさんの前で明かされます。

これを知ってからあの作戦の回に戻ると、あの笑顔を見たのは『どのレイ』だったのか、という問いが残ります。僕はそこで止まりました。答えを出さないまま観ていると、あの笑顔は、誰か一人のものというより、その場で一回だけ起きた出来事に見えてきます。新しい劇場版の村で挨拶を覚えていくレイも、たぶん同じで、一回ずつ、その場で起きている。事実[1]

同じ教室の二人

イツキ

トウジとケンスケも、僕は大人になった二人に先に会ってます。

レン

テレビ版では、転校してすぐ、トウジがシンジを殴るところからだね。作中の観察

第参話「鳴らない、電話」

イツキ

あれは、僕にはかなり堪えました。大人になった彼を先に知っていたので、十四歳のときにはこうだったのか、って。作中の観察

レン

僕は、雨の回の野原でケンスケに会う場面が好きだ。一人で野営ごっこをしてる同級生のところに、家出したシンジが転がりこむ。作中の観察

第四話「雨、逃げ出した後」

イツキ

分かります。一人で野原にテントを張ってる同級生、っていうのが、僕には大人になった彼の暮らしの、いちばん最初の形に見えました。解釈

イツキ

店にも、小学生のころに漫画を買いに来てた子が、何年かして大人になって、同じ棚の前に立つことがあります。顔は変わってても、立ち止まる棚が同じで、あ、って分かる。

中盤までトウジのこと(中盤の展開)押すと開きます

中盤、トウジはエヴァ3号機の操縦者になります。起動の実験で3号機は使徒に乗っ取られ、シンジくんが戦えずにいるうちに、初号機は彼の意思と関係なく3号機を壊してしまう。中に乗っていたのがトウジだったと、シンジくんはあとから知ります。

一周目のレンさんにとっては、仲間が一人ずつ削られていく展開の一つだったと思います。僕にとっては、大人になったトウジを先に知っているぶん、テレビ版の彼が無事に大人まで行けるのかどうかが、ずっと怖かった。二周目は、教室で殴りかかる回と、船の上ではしゃいでいる回のトウジの声の大きさを覚えておいてから、この回を観てほしいです。事実[1]

中盤まで大人の二人(シン・エヴァの前半にふれます)押すと開きます

新しい劇場版の前半、大人になったケンスケが、赤い大地をさまよっていたシンジくんたちを見つけて、避難した人たちの村へ連れていきます。シンジくんはケンスケの家に泊まる。トウジはヒカリと夫婦になっていて、赤ん坊がいます。レイ(そっくりの子)は鈴原の家に世話になって、挨拶や田植えを覚えていく。

僕はこの村から入ったので、テレビ版の教室は、村の人たちの『子どものころのアルバム』みたいに見えました。野原でテントを張っていたケンスケが、行き場のないシンジくんを家に泊める大人になっている。テレビ版だけを観た人には、たぶん逆で、村のほうが『ありえたかもしれない先』に見える。どっちから観ても、教室と村はつながっています。作中の観察

音楽に合わせて踊る回

レン

アスカの話がまだだ。僕が一周目でいちばん笑ったのは、二人で同じ音楽に合わせて動きをそろえる練習の回。

第九話「瞬間、心、重ねて」

二つに分かれた使徒を同時に倒すため、シンジとアスカは同じ部屋で寝起きし、音楽に合わせた動きを何日も練習して、息をそろえようとする。作中の観察

イツキ

僕も笑いました。けど、最後の劇場版で最初に会ったアスカは、ずっと怒っている人だったので。テレビ版の、口げんかしながらステップを合わせてる二人を見て、こんな日もあったのか、って。作中の観察

レン

一周目の僕は、ここを息抜きの回として観てた。物語の緊張がいったん緩む場所。解釈

イツキ

二周目の僕には、ここがいちばん明るいところに見えました。二人の音がそろった、たった一回。終わりを知ってると、そのあと、そろわなくなっていく音のほうを数えちゃいます。解釈

結末・正体アスカのその後(テレビ版の終盤にふれます)押すと開きます

終盤、アスカは宇宙から来た使徒の精神攻撃を受けて、エヴァに乗れなくなり、心を閉ざしてしまいます。踊りの回で一緒に暮らしはじめた部屋は同じなのに、そこにいる二人の音は、もう合わない。

僕は、踊りの回を二周目で観るとき、二人が足を出すタイミングより、練習が終わったあとの部屋の静けさのほうを見ています。笑える回のなかに、もう静かな時間がちゃんと置いてある。一周目には気づけなかった間です。事実[1]

電車の中の会話

レン

電車の話をするなら、影の使徒の回は外せない。

第拾六話「死に至る病、そして」

イツキ

影に飲まれた初号機の中で、シンジくんが電車の座席に座って、もう一人の自分と話す場面。あそこは何度も止めました。作中の観察

レン

一周目の僕は、あの電車を『心の中の舞台装置』としてしか見てなかった。窓の外が夕方のまま動かないのも、そういう演出だと。解釈

イツキ

夕方のまま止まってる窓、僕も気になってました。古い本の、日に焼けて色が抜けたページみたいで。そこだけ時間が進まない場所に、シンジくんが一人で座ってる。解釈

イツキ

僕は、あの電車を見て、最後の劇場版の電車を思い出しました。

結末・正体もう一つの電車(シン・エヴァの終盤にふれます)押すと開きます

新しい劇場版の終盤、シンジくんと父のゲンドウは、古い電車の中で向かい合って話します。ゲンドウが、自分の過去や、心の中にしまってきたことを息子に話す場面です。

テレビ版の電車の中で、シンジくんが話している相手は自分自身でした。終わりのほうの電車では、相手が父になっている。僕は終わりの電車を先に観たので、テレビ版の電車の座席が、ずいぶん広く、がらんとして見えました。向かいに座るはずの人が、まだいない座席。二周目は、テレビ版のあの車両の、空いている席を数えながら観ています。作中の観察

レン

雨の回の電車、影の回の電車、最後の劇場版の電車と駅。並べると、乗り物の話がずっと一本通ってる。一周目は、一本ずつ別の場面として観てたから、つながってることに気づかなかった。解釈

イツキ

店の目録で同じ作者の本を並べると、こういう線が出ることがあります。一冊ずつ読んでたときには見えなかった線。

遅れてきた一人

レン

もう一人、話しておきたい人がいる。終わりの近くになって、急に出てくる少年。

イツキ

カヲルくんですね。僕は、最後の劇場版で彼を先に見てました。最初の印象は、誰に対しても穏やかに話す人、です。作中の観察

レン

一周目の僕は、出てくるのが遅すぎると思った。伏線が足りない、とまでノートに書いた。

レン

でも題名を見て、考えが変わった。『最後のシ者』の『シ』だけがカタカナになってる。題名の一文字で、読む人に二通りの読み方をさせてる。解釈

第弐拾四話「最後のシ者」

レン

ほとんど一回の登場で、物語の残りの重さを持っていく役。構成としては、かなり思い切ってる。解釈

イツキ

店にも、たまにそういう本が来ます。100円コーナーに一冊だけ入ってきて、何人かの手に渡って、気づいたら棚の並びが変わってる。長くいなくても、変えていく人がいます。

結末・正体カヲルについて(テレビ版の結末にふれます)押すと開きます

シンジくんはカヲルくんに心を開いていきます。けれど彼こそが最後の使徒でした。カヲルくんは、自分か人類か、どちらかしか生き残れないと告げ、初号機の手で終わらせてほしいと願う。シンジくんは迷い、そして、その願いのとおりにします。事実[1]

結末・正体もう一度会った場所(シン・エヴァの結末にふれます)押すと開きます

新しい劇場版の最後の駅で、僕は向かいのホームで誰かと穏やかに話している彼を先に観ていました。だから、テレビ版のこの回は、見たことのある人が、まだ一度も会ったことのない顔をしている回でした。二周目は、カヲルくんが初めてシンジくんと話す場面で、彼が何を先に褒めるのかを聞いてください。そこに、この人がこの世界の何を好きだったのかが、短く入っています。作中の観察

折り返しと最後の二話

レン

一つだけ、構成の話をさせて。ちょうど折り返しのあたりの回は、前半がそれまでのまとめになってる。

レン

しかも、そのまとめは物語の外の語り手じゃなくて、作中の組織が、ゲンドウのやってきたことを振り返る報告の形をとってる。誰の目で前半が要約されるのかが、もう仕掛けになってる。作中の観察

イツキ

一周目は、早送りしたくなる回でした。……いまは、古本の前の持ち主の書き込みを読むみたいに観てます。誰かが、自分の都合で線を引いたあらすじ。線が引いてあるところより、引いてないところのほうが、持ち主のことがよく分かります。解釈

レン

次は、あの報告が何を言わずに飛ばしてるかだけ見てみない? 飛ばしたところに、後半の答えが寄ってる気がする。根拠のある推測

レン

最後の二話は、一周目の僕がいちばん戸惑ったところ。それまでの話の形が、だんだんほどけていく。作中の観察

イツキ

僕は、最後の劇場版で、もっと大きくほどけるのを先に観てました。だから、テレビ版の最後の二話は、ほどけ方の最初の下書きみたいに見えました。解釈

イツキ

古本で言うと、表紙を外して、綴じた糸を見せてるみたいな回です。一周目は乱暴に見えても、二周目は、ここまでの二十何話が、どう綴じてあったかが透けて見えます。解釈

結末・正体テレビ版の結末(最終話)押すと開きます

最終話の終わりのほうで、シンジくんは、まったく別の世界を見ます。使徒もエヴァもいない、何の変哲もない学校の日々。母親も生きている。学園ものみたいな、にぎやかで明るい朝の場面まである。そこで彼は、自分はここにいてもいいのだと気づき、周りの人たちから一斉に祝福の言葉をかけられ、お礼を返して笑う。

僕が二周目に気になったのは、朝の場面です。テレビ版の早いうちに、シンジくんは知らない病院の天井の下で、一人で目を覚ましていました。最後の別の世界には、にぎやかな朝がある。一人で迎える朝と、誰かのいる朝。物語の最初と最後に、同じ『朝』が向きを変えて置いてある、と僕は読んでいます。事実[1]

レン

一周目の僕は、あの終わり方で、少し置いていかれた気がした。何が起きてるのか、仕組みで説明できなかったから。

イツキ

僕は、あの終わり方を観たとき、最後の劇場版のいちばん最後の場面を思い出しました。理由は分からなくても、どこかへ出ていく人を見送っているように見えた。解釈

レン

同じ最後が、テレビ版と旧劇場版と新しい劇場版で、少なくとも三通りある。一周目の僕は、どれが本当の結末なのかを決めたくなった。

イツキ

僕は、決めなくていいと思ってます。店に、同じ本の違う版が三冊並んでることがあって。どれも本物で、どれを先に手に取ったかで、その人の中の順番が決まる。好み

レン

答えは言わない、の作品版だね。

話しているうちに、外の商店街はすっかり暗くなっていました。帳場の電気スタンドを点けると、レンは方眼ノートを開いて、一周目に書いた謎のリストのページを見せてくれました。消してある行と、まだ残っている行があります。残っている行のほうが、少し多い。イツキは、その残っている行のいくつかに、自分なら最後の劇場版のどの場面を思い浮かべるかを、口に出さずに数えていました。

レン

最後に。これから二周目に入る人に、どこから観てほしい?

イツキ

一話目からでいいと思います。ただ、新しい劇場版の最後を先に観た人なら、雨の回のホームを、少しだけ先に観てから一話目に戻ってもいい。僕はそういう順番で、二周目がいちばん面白かったです。好み

レン

昔の僕なら、一周目で謎を全部当てようとしてた。先に当てた人がいちばん楽しんだ人だと思ってたから。今回は、当てないで観た。

イツキ

当てないで観た一周目は、僕にはもう手に入らないです。終わりを先に知っちゃってるので。……ちょっと、うらやましいかもしれません。

レン

そのかわり、イツキさんには、最初から手紙として観る一周目があった。お互い、片方ずつだ。

イツキ

僕が二周目に頭に置いておいたのは三つだけです。一話目の電話と道ばたの人影。雨の回の、ホームの足もと。影の回の、電車の空いてる座席。全部やらなくても、一つ覚えて観るだけで、話の手ざわりがずいぶん変わりました。好み

レン

僕は順番どおりで、ノートの謎のリストを一行目から消していく。二人で、別々の道で二周目をやろう。

イツキ

じゃあ、帳場のパソコン、一話目まで巻き戻しておきます。ケージの場面で、いっぺん止めましょう。照明が落ちてくる、その一瞬の手前で。

二周目は、一話目のケージで照明が落ちてくる一瞬を、止めて観る。まだ誰も乗っていない初号機の腕が、誰をかばったのか。

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話した人 イツキ 昔の漫画を新刊として読んで、次の誰かに手渡す古本屋の孫 イツキの記事をもっと読む →

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