わたしの6選

『こち亀』は荒れた海の夜の味方だった

遠洋の船の中で、仲間と回し読みしてボロボロになった漫画がある。めちゃくちゃなのに、最後はちゃんと人情でまとまる。ゲンが『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の好きなところを、船の上の思い出といっしょに話します。

こんな人に
笑いたいのに、長い物語を追う元気がない人へ。どの巻のどの話から読んでも大丈夫です。
ネタバレの範囲
ネタバレなし 第1巻の紹介文にある設定と、一話完結の作りまで。個別の回の結末には触れません
話している人
ゲン × ハル
主張の種類: 事実 作中の観察 根拠のある推測 解釈 好み
目次 全8節・約5分
  1. 船の上の回し読み
  2. 好きな理由1:めちゃくちゃなのに人情でまとまる
  3. 好きな理由2:一話で腹いっぱいになる
  4. 好きな理由3:何でも出てくる
  5. 終わっても続きが来た
  6. 陸に戻ってからの読み方
  7. 苦手そうな人への入口
  8. ほかの6選とのつながり

よっしゃ、俺の6選の一本目だ! 『こちら葛飾区亀有公園前派出所』。長い名前だから、ここからは『こち亀』で行くぞ。どの話から読んでもいい漫画だから、筋の先のことは何も言わねぇ。安心してくれ。

船の上の回し読み

遠洋の船に乗り始めたころの話だ。何か月も陸を見ない航海で、船の中の楽しみってのは限られてる。飯と、寝ることと、漫画だ。誰かが港で買い込んできた単行本が食堂の棚に並んでて、それをみんなで回し読みする。中でも一番ボロボロになってたのが『こち亀』だった。表紙は取れかけ、ページの端は潮でふにゃふにゃ。それでも誰も捨てようとしなかった。好み

海が荒れた夜は、寝床で体を突っ張ってないと転がり落ちそうになる。眠れねぇし、怖ぇし、家も遠い。そういう夜に、懐中電灯で『こち亀』を読むんだ。両さんが何かやらかして、最後にこっぴどく叱られる。それで、ぶはっと笑う。隣の寝床からも笑い声がする。同じ巻を読んでるんだよ。荒れた海の夜も、両さんがいれば笑えた。本当にそうだった。好み

集英社の書籍ページによると、作者は秋本治さんで、ジャンプコミックスの第1巻は1977年7月9日に出ている。第1巻の紹介文は、両さんがコンバット・シューティング・クラブの顧問になる話から始まっている。事実[1]

好きな理由1:めちゃくちゃなのに人情でまとまる

両さんって男は、まあ、ひどい。金もうけの話にすぐ飛びつくし、仕事はサボるし、調子に乗ると止まらない。読んでて「おいおい」って言いたくなる場面ばっかりだ。でもな、困ってる子どもや年寄りの前に立つと、急に顔が変わる回がある。損するって分かってても、そっちへ走っていく。めちゃくちゃな男が、最後の数ページで人情を見せる。その落差に、俺は毎回やられた。解釈

海の男にもそういうやつがいる。陸ではだらしないのに、時化(しけ)の甲板では誰より先に動く。だから両さんは、俺にとって作り話の人じゃなかった。船の上に、ちっちゃい両さんが何人もいたんだ。好み

好きな理由2:一話で腹いっぱいになる

『こち亀』は、だいたい一話で話がまとまる。前の回を覚えてなくても読める。これが船の上ではありがたかった。仕事の合間の短い休みに一話、寝る前に一話。途中で呼ばれても、続きが気になって眠れないってことがない。定食みたいなもんだ。一皿で、ちゃんと腹いっぱいになる。解釈

ハル

一話で終わるのに、ずっと読み続けたくなるのが不思議なんだよね。次はどんな騒ぎになるんだろうって。解釈

ゲン

いいじゃん、それ! そうなんだよ。毎回ちゃんと帰ってくるから、安心して次の騒ぎに出かけられるんだ。冒険も一緒だろ。帰ってくるまでが冒険だ。解釈

好きな理由3:何でも出てくる

この漫画、話の題材が本当に何でもありなんだ。おもちゃ、乗り物、町の祭り、昔の遊び、最新の機械。両さんが首を突っ込むたびに、俺の知らない世界がひとつ増える。陸の流行から何か月も置いていかれる船の上で、『こち亀』は窓みたいなもんだった。読み終わると、陸に戻ったら何を見に行こうか、仲間と話がはずんだ。解釈

終わっても続きが来た

201巻の紹介文には「まさかのコミックス続刊!」とあって、連載が終わったあとにいろいろな場所で載ったエピソード11編がまとめられている。紙版の発売は2021年10月4日だ。事実[2]

これを本屋で見つけたとき、思わず「おかえり!」って声が出た。港で仲間の船を迎えるときと同じ気持ちだ。好み

集英社は2025年12月に、新しいアニメ「新こちら葛飾区亀有公園前派出所」の制作決定を知らせている。お知らせの中には「連載開始50周年記念」という言葉もある。事実[3]

陸に戻ってからの読み方

いまは家で、子どもたちと取り合いになる。うちは子どもが5人いるから、同じ巻を順番待ちすることもある。面白いのは、笑うところが年ごとに違うことだ。下の子は両さんの顔芸で転げ回って、上の子は町の人とのやりとりで黙る。俺はというと、最後の数ページで鼻をすすってる。「父ちゃん、ギャグ漫画で泣いてる」って笑われるけど、泣けるもんは泣けるんだ。好み

船の上で読んだ話を、陸で子どもと読み直す。同じページなのに、揺れてないだけで少し違って見える。あの夜に笑わせてもらった借りを、いま家族で返してもらってる気がするんだ。好み

苦手そうな人への入口

巻が多すぎて、どこから読めばいいか分からない。そう言われることが多い。俺の答えは「どこからでもいい」だ。図書館や古本屋で、表紙が気になった巻を一冊だけ手に取ってくれ。中の一話を読んで、笑えたらもう一話。笑えなかったら別の話へ。それでいい。順番どおりに読まなきゃって思うと、こんなに楽しい漫画が宿題になっちまう。

ほかの6選とのつながり

ガキのころに『ドラゴンボール』で覚えた「腹いっぱい食って笑う」って気持ちを、大人になって船の上で支えてくれたのが『こち亀』だった。陸に置いてきた家族を思い出すのは『となりのトトロ』の役目で、笑わせてくれるのは両さんの役目。俺の6選は、そうやって役割分担してるんだ。好み

長い夜には、一話で腹いっぱいになる漫画を一冊。めちゃくちゃな男の人情が、ちゃんと朝まで連れてってくれる。

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