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My six

『STEINS;GATE』一通の文面と送る順番

大学で数学を選んだころ、過去へ短いメールを送れてしまう若者たちの話に夢中になった。一通の文面と、送る順番で、世界の筋道が変わっていく。その組み立てに研究の糸口をもらっているユウリの、6選の四本目です。

For people who
序盤の雑談が長いと聞いて、観るのを先延ばしにしている人へ。一つの小さな選択で、その後が大きく変わる話が好きな人にも。
Spoiler range
No spoilers テレビアニメ『STEINS;GATE』の始まりの設定(秋葉原の小さな発明サークルが、携帯のメールを過去へ送れる仕掛けを見つける)まで。事件と結末には触れません
Who's talking
Yuuri × Ren
Types of claims: Fact Observation from the work Grounded inference Interpretation Preference
Contents 8 sections, ~5 min
  1. 数学を選んだ春の夜更かし
  2. 秋葉原の小さな研究所
  3. 好きなところ1 短い文面の重さ
  4. 好きなところ2 雑談に埋めてある種
  5. 好きなところ3 実在の街のざわめき
  6. 並べ替えた表を作る休日
  7. 序盤で迷いそうな人へ
  8. 研究ノートの横に並ぶ5本

6選の四本目は『STEINS;GATE』です。研究で行き詰まった夜、僕はいまでもこの作品の最初の数話を流しながら、ノートに矢印を書いています。メールが過去へ届くと分かるところまでで、話を止めます。

数学を選んだ春の夜更かし

大学で数学を専攻に選んだころ、配信でこのアニメに出会いました。放送からは少し時間がたっていて、周りの友人の多くはもう観終えていた。誰にも先を聞かないように、しばらくは昼休みの雑談から逃げ回っていました。夜、課題の証明を一つ片づけるたびに、ごほうびのように一話ずつ再生する。その春は、証明とアニメが交互に進んでいきました。証明が一つ通るのと、画面の中で何かが一つ明かされるのが、同じ種類の気持ちよさだと気づいたのも、その春でした。Preference

原作はアドベンチャーゲームで、テレビアニメはその物語をもとに作られています。Fact[1]

秋葉原の小さな研究所

舞台は秋葉原。岡部倫太郎は、友人二人と三人で「未来ガジェット研究所」を開いています。仲間と作っている、携帯電話とつながった電子レンジのような発明品が、メールを過去へ送れると分かる。過去へ届くそのメールは「Dメール」と名付けられます。Fact[1]

メールが過去に届くと、そのぶん今が書き換わる。作中では、そうして枝分かれした現実の一つ一つを「世界線」と呼んでいます。Fact[1]

好きなところ1 短い文面の重さ

僕がまず惹かれたのは、過去へ送れるのが、長い手紙ではなく短いメールだということでした。大げさな機械で、大げさな言葉を送るのではない。携帯の画面に収まる程度の数行で、世界の筋道が変わってしまう。情報の量ではなく、どの情報を、どの順番で、どの時点に置くかが、すべてを決める。黒板の前で考えていることを、そのままアニメで見せられた気がしました。たった数行を、どう書いて、いつ送るか。その迷いは、僕が論文の一文を何度も書き直すときの迷いと、少しだけ重なります。Interpretation

好きなところ2 雑談に埋めてある種

最初のほうの話には、研究所の仲間どうしの、なんでもない会話がたくさん出てきます。冗談の言い合いや、ちょっとした口ぐせ。初めて観たときは、正直に言うと少し長く感じました。でも、話が進むにつれて、その何気ない一言一言が、あとから別の重さを持ちはじめる。どの一言がそうなるのかは、ここでは言いません。ただ、雑談の時間を飛ばさずに観ておいてよかった、と僕は何度も思いました。Interpretation

Ren

ユウリくんは、その雑談を表にしてるんだよね。僕はたぶん、場面の時刻しか書いてない。

Yuuri

……少し、順番を整理させてください。レンさんが書いているのは、その一言が「どこにあったか」ですよね。僕が書いているのは、その一言の意味が観客に「いつ明かされたか」です。同じ一言なのに、欄が二つ要るんです。Interpretation

Ren

うん。じゃあ一つだけ。二つの欄の間が、いちばん長く空いてる一言はどれ?

Yuuri

それは、観終えた人どうしで話すことにしましょう。ここで言うと、間が縮んでしまいますから。

好きなところ3 実在の街のざわめき

時間の仕掛けの話なのに、画面の手触りはとても身近です。舞台は、実在する街の秋葉原です。現実に近い景色の中に、ありえない装置が一つだけ置かれている。その置き方のおかげで、僕は最後まで、遠い世界の話としてではなく、隣の路地で起きていることのように観ていました。大きな嘘を一つ通すために、まわりの小さなことは本当にしておく。手品の基本と同じだと思います。Interpretation

並べ替えた表を作る休日

休日の大道芸を終えた夕方、メイクを落とす前に公園のベンチで一話だけ観直すことがあります。帰りの電車では平日の顔に戻って、その話の場面を、ノートの上で並べ替えてみる。画面に出てきた順ではなく、作中で実際に起きた順に。あるいは、登場人物の誰か一人が知った順に。同じ一話から、並べ方の数だけ別の表ができます。Preference

面白いのは、並べ替えた表のほうがすっきりして見えるのに、物語としてはまるで退屈になることです。起きた順に並べると、驚きが全部消えてしまう。作り手が選んだ見せる順番こそが、驚きの正体なんだと、表を作るたびに思い知らされます。僕の研究が「情報の順番がふるまいを変える」というところから離れられないのは、たぶんこの表のせいです。Interpretation

序盤で迷いそうな人へ

最初の何話か、登場人物の言葉づかいや冗談に、置いていかれそうに感じるかもしれません。僕もそうでした。僕が楽になったのは、その時点で筋を理解しようとするのをやめて、研究所の空気だけを味わうことにしてからです。誰と誰が仲がよくて、誰がどんな冗談を言うのか。それだけ覚えておけば、話が動き出したとき、ちゃんと胸に響く準備ができていました。Preference

研究ノートの横に並ぶ5本

夢の中に夢を重ねる『インセプション』とは、出来事の順番が意味を決めるという所で、いちばん太い線で結ばれています。古い仮面が一つ紛れ込むだけで毎日がひっくり返る『マスク』とは、ふつうの暮らしの中にありえない道具が一つだけ置かれる話として、少し似ています。どれも、同じ出来事でも並べ方で別の話になる、ということを、僕に繰り返し教えてくれる作品です。Preference

物語を変えるのは、言葉の量ではなく、置く順番と置く時点。何気ない雑談ほど、飛ばさずに聞いておきたくなります。

Works in this article

Steins;Gate
Anime 2011 · TV series #Sci-fi #Suspense
Told by Yuuri A quiet mathematician on weekdays, a cheerful clown on weekends More from Yuuri →

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