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Everyday

作品の中に引っ越すならどこにする

Spoiler range No spoilers 『スター・ウォーズ』『よつばと!』『ハウルの動く城』『牧場物語 再会のミネラルタウン』の、始まりの設定と舞台の紹介の範囲だけ。

土曜の午後、商店街の不動産屋の前で足を止めたルカに、ナギ、エマ、配達帰りのタカシが加わった。作品の中に引っ越せるならどこがいいか。水、寝床、お隣さん、家ごと動く城。四人の条件は、一つも重ならなかった。

For people who
間取り図を眺めるのが好きな人へ。好きな作品の中で暮らすなら、と一度でも考えたことのある人にも。
Who's talking
Luka × Nagi × Takashi × Emma
Walk home 下町の商店街、不動産屋の前 土曜の午後二時

不動産屋の窓に、間取り図が何十枚も貼ってある。配達の自転車を止めたルカが、その前で、一枚ずつ指で押さえるようにして眺めていた。

Nagi

ルカ。また見てる。

Luka

ナギ様。……はい、見ております。借りると決めたわけではないのですが、間取り図は、眺めているだけで少し落ち着くのです。

Nagi

うん。私も、この台所なら何を置こうって考えちゃう。

ガラス戸が開いて、店主が顔を出した。ちょうどルカの隣に、道着の袋を肩にかけた金髪の女の子が立ち止まったところだった。「ご兄妹でお部屋探しですか」。ルカと女の子は、同時に首を横に振った。

Emma

違います! ……あ、ルカさん、こんにちは。また言われたね。

Luka

エマ様。これで何度目でしょう。

Emma

数えてない。髪の色しか合ってないのにね。

そこへ、花の入ったバケツを両手に提げた作業着の男が、向かいの花屋から出てきた。

Takashi

ルカさん。ナギさんも。……お知り合いでしたか。

Nagi

タカシさん。配達ですか。

Takashi

ええ、この店の週末の分です。今日は、これで終わりです。

Walk home 商店街の休憩所のベンチ 少しあと

休憩所の自販機で、ナギは温かいほうじ茶、エマはりんごジュース、タカシは缶の緑茶を買った。ルカはミルクティーを、開けずに両手で包んでいる。

Nagi

さっきの間取り図の続きなんだけど。もし、作品の中に引っ越せるとしたら、どこにする?

Emma

Nice! それ、真剣に考えたい。

Takashi

真剣に、ですか。では、私は仕事のつもりで考えます。住む場所を選ぶなら、まず水、それから食べもの、仕事、隣の人。この順番です。

Luka

私は、まず、今夜眠れる場所でございます。

Takashi

なるほど。では順番を一つ直しましょう。眠れる場所が、いちばん先です。

Takashi

言い出した者から話します。子どものころ、私が最初に引っ越したいと思ったのは、砂の星でした。スター・ウォーズの、ルーク・スカイウォーカーの故郷です。[7]

Takashi

タトゥイーン。地面のほとんどが砂漠で、空に太陽が二つある。夕日が二つ沈むのが、幼い私にはうらやましくて。[7]

Emma

夕日が二つ! 描きたい。影も二本になるの?

Takashi

そこまでは、確かめておりません。

Luka

水は、どうなさるのでしょう。

Takashi

そこです。あの星には、空気の中から水を集めて作物を育てる農場があります。大人になって観直したら、そこばかり目に入りました。[8]

Takashi

城を築く場所は、昔から井戸で決まりました。水を外から運ぶしかない町は、長くはもたない。籠城の記録を読むと――

Nagi

いまの、何の話?

Takashi

……水の話です。失礼しました。つまり、うちの会社の花は、あの星では育たないということです。

Nagi

ふふ。社長の目で見てる。

Luka

その星の方々は、どこで眠っていたのでしょう。

Takashi

……それも、確かめておりません。次に観るときは、寝床を見ておきます。いまの私なら選びませんが、子どもの私があの星を選んだことは、覚えておきたいのです。

Nagi

私は、よつばと!の町。

Nagi

最初は、よつばと、とーちゃんが、新しい町に引っ越してくるの。お隣は綾瀬さんの家で、三姉妹が住んでる。[3]

Nagi

住みたいのは、町っていうより、お隣がいる暮らしのほう。一人の日は好きなんだけど、窓を開けたら、隣から晩ごはんのにおいがしてくるくらいの距離。

Emma

それ! 私も引っ越すたびに、最初にお隣さんの顔を覚えてた。

Takashi

お隣、ですか。私の家の隣にも、高校生の方が住んでいます。庭の花ごしに、ときどき声をかけるくらいですが。

Nagi

それ、いいお隣さんだと思います。

Takashi

そうでしょうか。かけすぎていないか、ときどき気になります。

Luka

お隣から、晩ごはんのにおい。……私は、においより先に、壁の厚さを考えてしまいます。

Nagi

ルカは、隣の音が気になるほう?

Luka

いえ、自分の音のほうです。夜ふけに本をめくる音が、お隣のご迷惑にならないかと。

Emma

ページの音まで? そこまで気をつかう人、初めて見た。

Emma

次、私ね。ハウルの動く城!

Emma

帽子屋の女の子のソフィーが、魔女の呪いでおばあさんの姿にされて、町を出て、動く城にたどり着くの。[1]

2004年11月公開

Emma

城を動かしてるのは、暖炉にいる火の悪魔のカルシファー。ソフィーは掃除係になるって言って、そのまま住みついちゃう。[1]

Luka

家賃の代わりに、掃除を。……それは、とても誠実な住まい方です。

Emma

でしょ? でも私がいちばん欲しいのは、家のほうが動くところ。

Emma

子どものころから、親の仕事で国をまたいで引っ越してきたの。荷ほどきして、学校に慣れたころに、また箱詰め。家のほうが歩いてくれたら、窓の外だけ変わって、部屋はずっと同じでいられる。

Nagi

部屋はずっと同じ、かあ。

Emma

住んだ街ごとに、細いネックレスを一本ずつ買ってたの。動く城なら、一本で済むかも。

Takashi

日本の分は、もう。

Emma

……まだ。日本の一本は、まだ買ってないの。

エマはそれだけ言って、りんごジュースの缶を両手で回した。誰も、理由を聞かなかった。

Luka

では、私の番ですね。少し長くなりますが、よろしいでしょうか。

Nagi

うん。待ってる。

Luka

牧場物語の、ミネラルタウンです。主人公は幼いころ、両親と訪ねた田舎町で、牧場のおじいさんのところにしばらく泊めていただきます。帰ってからも手紙を続けていたのに、ある日、返事が来なくなる。[5]

『牧場物語 再会のミネラルタウン』は、『牧場物語 ミネラルタウンのなかまたち』を Nintendo Switch 向けに作り直したもの

Luka

訪ねてみると、おじいさんはもういらっしゃらず、牧場は荒れたまま。そこで主人公は、その牧場を自分の手で立て直すことにするのです。[6]

Takashi

仕事と寝床が、一度に見つかる町ですね。

Luka

はい。朝は畑の水やり、昼は町の雑貨屋さんへ買いものに歩いて、夜は早めに眠る。荒れた畑を一枚ずつ起こしていくのが、私の性に合うのです。

Emma

一枚ずつ。……ルカさんっぽい。メモしたい。

Luka

それに、畑なら、土を傷めないやり方を自分で選べますので。

Takashi

初めの資金は、どうなさるおつもりですか。

Luka

……そこは、タカシ様にお任せいたします。

Takashi

私に任されても、ゲームの中には入れません。

ルカは背筋をすっと伸ばし、唇を結んだ。肩がかすかに揺れている。エマが横から顔をのぞきこんだ。

Emma

ルカさん、いま笑ってる?

Luka

いえ。少し、姿勢を直しただけでございます。

ナギは、ほうじ茶の缶を膝に置いて、指を一本ずつ折った。水、寝床、お隣さん、家ごと動く城。四つ折っても、同じ作品は一つも出てこなかった。

Takashi

四つの条件がそろう作品は、まだ見つかりませんね。宿題にしましょうか。

Emma

宿題、苦手。でも、これはやる。

Nagi

私は、こういう宿題なら好き。寝る前に一本ずつ、ここに住めるかなって考えてみる。

Walk home 不動産屋の前 帰りぎわ

解散する前に、ルカはもう一度だけ、不動産屋の窓の前に立った。ナギが隣に並んだ。

Nagi

どれが気になってたの?

Luka

日当たりのよい、小さな台所のある部屋でした。……考えておきます。

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