大きな事件の話ではありません。夜、トイレに行くまでの廊下がこわかった、という話です。ソウタが話し、ルカが聞きました。ゲームの事実はルカが公式サイトから補います。
廊下がこわかった
ソウタさん、今日は「こわかったこと」の話をしてくださるそうですね。ゆっくりで構いません。お茶でも……ソウタさんは麦茶のほうがよいですね。
うん。1年生のおわりくらい。夜にトイレに行くとき、ろうかがまっくらで、こわかったの。喜好
何時ごろのことでしょう。
ねたあと。9時とか。目がさめて、トイレ行きたくなって、でもふとんから出られないの。ろうかのはじっこが、なんか、いる気がする。喜好
いない、と分かっていても、いる気がする。暗いところは、そういうふうにできていますね。解讀
トイレのドアの前のカレンダーが、人の顔に見えたこともある。喜好
そのとき、どうしていましたか。
ふとんのなかで、がまんした。でも、がまんできなくて、走っていった。ろうかを、目をつぶって。喜好
目をつぶって走るのは、それはそれで、こわそうです。
かべにぶつかった。いたかった。
それは……おけがはありませんでしたか。
たんこぶだけ。
おねえちゃんをおこしたら、おこられた。「自分で行きなよ」って。それで、ちょっとくやしかった。喜好
こわいのと、くやしいのと、二つ重なったのですね。
だって、おねえちゃんはこわくないんだもん。ずるい。
ゲームの中の夜
そのころ、Minecraftをはじめたの。そしたら、ゲームの中にも夜があった。喜好
公式サイトの紹介では、日が沈むと敵モブのスポーンが始まります。そこで戦うのか、それとも寝るのかを選ぶ。地下はいつも暗い、とも書かれています。事實[1]
そう。さいしょ、夜になって、てきが出てきて、ぼく、電源きっちゃった。喜好
ゲームの中でも、こわかった。
こわかった。ほんとのろうかと、おなじかんじ。喜好
電源を切ったあとは、どうしたのでしょう。
おねえちゃんに言ったら、「夜はこわいけど、明るくすればいいんだよ」って。ゲームの話だよ。それで、つぎの日もやってみようって思った。喜好
お姉さんは、ちゃんと教えてくださったのですね。
ゲームのことはね。トイレのことは、おしえてくれなかった。
戦わないで寝るほう
でもね、つぎの日もやったの。それで、夜になる前に家をつくった。まどをつけて、明かりをおいて、ベッドもおいた。夜になったら、家にはいって寝る。喜好
戦うか、寝るか。ソウタさんは寝るほうを選んだのですね。
うん。てきとたたかわなくても、夜はおわるの。じゅんびしておけば、こわくない。解讀
家の中も、すみっこまで明るくしたの。そしたら、家の中は安心だった。喜好
すみずみまで明かりを。ソウタさんの家は、きっと居心地がよいのでしょうね。
ルカさんの家も、つくってあげようか。
……私の家、ですか。それは、とても、うれしいです。窓は東向きでお願いできますか。朝の光が好きなので。
いいよ。ベッドもおくね。
……こわいものを消すのではなく、こわいものが来る前に、自分の場所を用意しておく。私はそれを、とても賢いやり方だと思います。解讀
それでね、ほんとの夜もおなじにしようと思ったの。
ほんとの夜のじゅんび
ほんとの夜の、じゅんび。どんなことをしたのでしょう。
おうちの人にたのんで、ろうかに小さいライトをつけてもらった。ねる前に、まくらの横に、ちっちゃい懐中電灯もおく。それから、トイレまでの道を、ねる前に一回あるいておくの。喜好
道を、先に歩いておく。
Minecraftで、くらいところに行く前に、道に明かりをおいとくの。かえり道がわかるように。それとおなじ。解讀
なるほど。おうちの方にライトをお願いできたのも、えらいと思います。こわいと言うのは、案外むずかしいことですから。解讀
おねえちゃんに言うより、かんたんだった。
さいしょの日は、それでもちょっとこわかった。でも、ライトのところまで行ったら、つぎのライトが見えるの。ゲームの明かりみたいに。喜好
明かりから明かりへ。一つずつ進めば、暗い道も短く分けられますね。解讀
トイレについたら、ガッツポーズした。
それは、大事なガッツポーズです。
ルカさんは?
ねえ、ルカさんは、夜こわい?
そうですね……。私は、寝る場所がよく変わるのです。新しい場所の最初の夜は、いまでも少し落ち着きません。
寝る前に、窓の外を一度だけ見ておくと、少し落ち着きます。どこに明かりがあるか、確かめておくのです。喜好
それも、じゅんびだね。
それだったら、ねる前に、トイレまでの道あるいたらいいよ。
……はい。次から、そうしてみます。ソウタさんの「じゅんび」をお借りしますね。
ライトも、もってく?
持っていきます。ふふ。あ、いえ、笑ってはいません。少し、設備の調子が……なんでもありません。
いまのソウタ
いまは、夜の廊下はどうですか。
まだ、ちょっとこわい日もある。でも、ライトがあるから行ける。いまは懐中電灯、もうおいてない日もあるよ。喜好
Minecraftでも、いまは夜にちょっとだけ外に出る。家の明かりが見えるところまで。それで、もどる。喜好
あとね、いまは、おねえちゃんが夜こわいって言うとき、ぼくがついていってあげることもある。喜好
立場が入れ替わる日もあるのですね。
おねえちゃんは、こわくないって言うけど。
戻れる場所が見えていれば、少しだけ外に出られる。大人にも、案外そういうところがあります。解讀
こわさは、なくならなくてもいいのだと思います。こわいままでも、行ける道があれば。解讀
読んでくださっている方の中にも、夜が少しこわい方がいらっしゃるかもしれません。
大人も?
大人も、です。
それだったら、大人もライトつけたらいいよ。はずかしくないよ。ぼくのライトは、くもの形なの。
……はい。ソウタさんがそう言ってくださるなら、私もつけます。
おうちの方へ、ひとつだけお伝えします。Minecraftの公式サイトを見ると、ESRBのレーティングで言えば「Everyone 10+」で、これは10才以上向けという意味です。ソウタさんも、家の人と遊び方や時間を決めて遊んでいるそうです。事實[2]
うん。こわい夜の話をしたら、クリエイティブで遊ぶ日もふやしてくれた。喜好
こわいものとは戦わなくていい。来る前に、明かりと帰り道を用意しておけばいい。