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日常

開場までの一時間で黒尾鉄朗を語る

劇透範圍 會提及結局 『ハイキュー!!』原作漫画(単行本全45巻)の最終話まで。高校を出たあとの黒尾鉄朗と、連載終了後の読み切りにも触れます

昼の部と夜の部のあいだ、劇場の裏通りの喫茶店。レイは最終巻をテーブルに置き、『ハイキュー!!』の音駒の主将・黒尾鉄朗のどこが好きかを話しはじめる。舞台の目で返すのはチアキ。原作の最終話までのネタバレありです。

本文含有直到結局的劇透

範圍『ハイキュー!!』原作漫画(単行本全45巻)の最終話まで。高校を出たあとの黒尾鉄朗と、連載終了後の読み切りにも触れます

這是寫給看完作品、想在二周目看得更有趣的人的文章。中段展開與結局、真相的細節都折疊起來,點擊才會顯示。

適合這樣的人
『ハイキュー!!』の黒尾鉄朗が好きな人、アニメや舞台で追ってきて原作の最後まではまだという人へ。誰かの好きを、事実と解釈に分けて聞くのが好きな人にも。
發言的人
Rei × Chiaki
同人展 劇場の裏通りの喫茶店(窓ぎわの二人席) 十月の土曜、昼の部と夜の部のあいだ(夕方四時すぎ)

昼の部がはねたあとの、劇場の裏通りの喫茶店。窓ぎわの二人席で、チアキは文庫サイズの手帳を開き、さっき観たカーテンコールのことだけを短く書きつけていた。足もとの小さなキャリーの持ち手には、糸で縫った半券の形のしおりが結んである。

ドアのベルが鳴って、レイが入ってきた。肩に黒い衣装袋を掛けている。原宿の店長の工房で、型紙を見てもらった帰りだった。チアキは顔を上げると、レイの顔より先に、肩が上下する速さを見た。

Chiaki

レイさん。急いで来ました? 息、少し上がってます。

Rei

早歩きです。夜の部までの時間を、削りたくなかったので。

Chiaki

開場まで、まだ一時間あります。座ってください。お水、先にどうぞ。

レイは衣装袋を椅子の背に掛け、鞄から単行本を一冊出してテーブルに置いた。ページのあいだから、ケーブルを結んだ形のしおりがのぞいている。

Chiaki

ハイキュー。いちばん最後の巻ですね。

Rei

電車で読み返してました。来月の半ばが、黒尾の誕生日なので。[1]

黒尾鉄朗の誕生日は11月17日

Chiaki

お誕生日の前に、最終巻。

Rei

毎年そうしてます。好物がサンマの塩焼きなので、その日の夜は魚を焼きます。[1]

Chiaki

好物まで合わせるんですね。私、ハイキューはアニメと舞台のDVDで追ってきたんです。漫画の最後までは、実はまだで。

Rei

知ってます。……最後まで話していいですか。黒尾の、高校のあとまで。

Chiaki

ネタバレ、ですね。はい、今日は聞きたい。大事なところは、畳みながらにしてもらえれば。

Rei

了解。畳みます。開けたくないところは、閉じたままで。

レイは単行本を閉じ、表紙の上に両手を置いた。チアキは手帳を脇に寄せ、ペンのキャップを閉めた。

Rei

入口から。黒尾は東京の音駒高校の三年生で、バレー部の主将。ポジションはミドルブロッカーで、背番号は1。[1]

Chiaki

頭のてっぺんが、とさかみたいな人。就職して三年目の春先に、舞台のDVDで初めて観たときも、あの髪ですぐ分かりました。[1]

ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」は2015年に初演。最初の公演のDVDは2016年3月発売

Rei

設定だと、あれは寝癖です。枕で頭を挟んで寝るから、ああなる。[1]

チアキが、ふっと息だけで笑った。

Rei

衣装を作る側から言うと、ウィッグでいちばん泣かされる形です。重力に逆らってるのに、寝癖と言われたら、こっちは何も言い返せない。

Chiaki

舞台だと、生身の人が毎回あの形を作って出てきますよね。紙の上の寝癖を、毎晩、手で作り直してる。そういうところで胸がいっぱいになってしまうんです。

Chiaki

レイさんが、最初に黒尾くんで手が止まったのは、どこでした?

Rei

試合より、主将どうしです。烏野の澤村と黒尾は、お互いを同じように見てる。どっちも、相手を油断のならない、したたかなやつだと見てる。[1]

Rei

ここから私の解釈。片方だけが警戒してたら、上と下ができる。両方が同じ物差しで相手を測ってるから、ネットをはさんでちょうど対称になる。高一の私は、その対称の線で読むのが止まりました。

Chiaki

対称。舞台なら、上手と下手に一人ずつ、同じ明るさで立たせる置き方だね。

Rei

そう。照明の当たり方が同じ。

Rei

プレーで言うと、黒尾はリードブロックを徹底してる人です。烏野のコーチが、身近な名手として名前を出すくらい。[1]

Rei

読んでから跳ぶ。先に決めつけない。人の見方も、たぶん同じです。

Chiaki

人の見方?

Rei

黒尾は、人に短い呼び名をつけるのがうまい。日向のことは、本人に自覚のないほめ上手。研磨のことは、チームの背骨と頭と心臓を一人で兼ねてる、って。梟谷のセッターのことは、落ち着いてるのに律儀で真面目なやつ。[1]

Rei

監視の設計に似てます。どの数字が、いくつになったら、誰を起こすか。名前の付け方が正確だと、夜中に呼ばれた人が迷わない。黒尾のつける名前は、そのまま使える。

Chiaki

あ、そこ。でも私は、少し違う読みです。

Rei

待って。聞かせてください。

Chiaki

病棟だと、人にラベルを貼るのがいちばん怖いんです。一度貼ると、みんながその人をラベル越しに見るようになるから。黒尾くんの名前は、ラベルじゃなくて呼び名に聞こえる。呼ばれた側が、ちょっと背筋を伸ばしたくなるほうの。

Rei

呼び名。……正しい。メモしていいですか。

Chiaki

どうぞ。一年のリエーフくんのことは、合宿メンバーの中でいちばん下手な二人のうちの一人、って言ってましたけど。[1]

Rei

あれは呼び名じゃなくて、現状の報告。直せる場所の。

Chiaki

ふふ。唇と頭の形でからかい合ってる、よその学校の二人に、食べ物に失礼だろうって突っこむのも黒尾くんでしたね。[1]

Rei

あれは、ただの正しい突っこみです。

Rei

作者は、中学と高校のバレー部でミドルブロッカーだったそうです。分かってるのはそこまで。黒尾がミドルブロッカーなのと関係があるかは、公式には書いてない。そこは分ける。[1]

Chiaki

分けてくれるの、ありがたいです。客席でも、聞いた話と自分の勘を混ぜて話す人がいて、つい、そっちに引っぱられがちなので。

Rei

音駒の三年は、ほかに夜久さんと海さん。黒尾と夜久さんは中学で顔を知った仲で、一年のころは事あるごとに張り合ってた。その二人のあいだを取り持ってたのが海さん。[1]

Rei

並び方で見ると、張り合う二人と、間に立つ一人の三角形。一か所が抜けたら止まる形じゃなくて、三点で支えてる。単一障害点がない。

Chiaki

三人の立ち位置、舞台だとカーテンコールで分かりますね。誰が真ん中に来て、誰が一歩引くか。

Rei

劇場版も、入社二年目の冬に一人で観ました。当番明けの週に。後ろから三列目の、右の端。[1]

『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』は2024年2月16日公開

Chiaki

右の端。レイさんらしい席。

Rei

コート全体と、両方のベンチが一度に見える席なので。最後に黒尾がどこに立ってたか、確かめたかった。……泣いてて、確かめられなかった。

Chiaki

じゃあ、いつかもう一回、確かめないと。

Rei

ここから畳みます。一つ目。

中段為止中盤の展開(第21巻〜第23巻のあたり)點擊展開

レイ「音駒は、東京の代表を決める試合で、まず梟谷とぶつかる。粘って拾い続けるけど、攻撃の破壊力の差で、一セットも取れずに負ける。残りの一枠をかけた三位決定戦の相手は、戸美。戸美の主将の大将とは昔からの知り合いで、顔を合わせるたびに小競り合いになる。黒尾は彼のことを、彼女にふられた傷はもう癒えたのか、なんて冷やかしてる」

レイ「その試合の途中で、音駒の守りの要のリベロ、夜久さんがけがで下がる。私がいちばん止まったのは、そこから。一年のリエーフが、チームが噛み合う瞬間を、初めて自分の体で知る。それは、黒尾が前から口にしていた言葉。最後はリエーフの攻撃の力で押し切って、音駒が勝つ。全国への切符を取る」

レイ「ここから私の解釈。黒尾は、言葉を先に置いておく主将。言った日には届かない。届くのは何試合かあと、相手の体の中で。手順書と同じ。書いた日には誰も読まない。読まれるのは、夜中に何かが止まったとき」

チアキ「……病棟の申し送りに、少し似てる気がします。次の勤務の人が困ったときに思い出せる場所に、一行だけ置いておく」

レイ「申し送り。それ、今日いちばんの言い換えかも」[1]

Chiaki

開けました。……夜勤の前に読まないほうがいい箱でした。

Rei

二つ目。

中段為止中盤の展開(人物の背景その1)點擊展開

レイ「黒尾には、急ぐ理由があった。音駒の猫又監督は年が年で、いつまで現場に立てるか分からない。だから一日でも早く、烏野との公式戦を実現させたい。黒尾はそれを、烏野の澤村たちにも話してる」

レイ「猫又監督と、烏野の元監督の烏養さんは、宮城の中学で知り合ったライバルどうし。でも、猫又監督が中学最後の大会の直前に東京へ越してしまったから、二人は公式戦で一度も決着をつけられなかった。高校の全国大会で顔を合わせて、もう一度戦おうと誓ったのに、それもかなわない。烏と猫の対戦だから、ゴミ捨て場の決戦。二校の試合はそう呼ばれる」

レイ「つまり主将二人は、監督二人の、ずっと昔に終わらなかった試合を引き受けてる。自分たちの試合なのに、自分たちだけのものじゃない」

チアキ「いつまで、が分からない人の約束を、預かる側。病棟にいると、たまにあります。間に合わせたい、っていう気持ちは、頭より先に体が動きます」

レイ「黒尾がそれを、どんな顔で澤村に言ったかまでは、公式には書いてない。私は、笑いながら言ったと思う。手の内を見せない顔で」

チアキ「本気のことほど、軽く言う人」[1]

Rei

三つ目。

中段為止中盤の展開(人物の背景その2)點擊展開

レイ「いまは軽そうに見えるけど、子どものころの黒尾は、かなりの人見知りだった。引っ越しがきっかけで、研磨と知り合う。親が家にいないあいだ、二人でゲームをしたり、バレーをしたりして、少しずつ近くなっていく」

レイ「研磨も人見知りで、一緒に遊ぶ相手といえば黒尾だけだった。黒尾は研磨にバレーを教えて、半分むりやり、こっちの世界に連れてきた。それを、少し負い目に思ってる。研磨が自分のバレーについて、黒尾に気を遣っていないわけじゃない、という意味のことを言ったとき、黒尾はショックを受けてる」

レイ「……この二人の関係に、私は新しい名前をつけない。幼なじみで、もう足りてる。足りてるところに、私の読みは足さない」

チアキ「連れてきた側の負い目、私にも少し覚えがあります。仕事の後輩に、舞台のDVDを貸したことがあって。一人、こっちの道に来ちゃいました」

レイ「その後輩さん、いま楽しそうですか」

チアキ「休憩室で推しの話になると、目が光ります」

レイ「なら、黒尾の心配と同じ。たぶん、いらない心配」[1]

Chiaki

読みました。私はいま、黙って水を飲みたい気分です。

Rei

どうぞ。次は結末です。

結局·真相結末(第33巻〜第37巻のあたり)點擊展開

レイ「春の全国大会の三日目。烏野と音駒が、公式戦で初めて向かい合う。ゴミ捨て場の決戦が、本当に全国の舞台で実現する。合宿でも練習試合でも音駒からセットを取れなかった烏野が、二セット目で初めて取る。最後はフルセットまでもつれて、烏野が競り勝つ。音駒の春は、そこで終わる」

レイ「試合の終わりぎわ、研磨は、自分の組んだ作戦を次々に破ってくる日向とやり合ううちに、とうとう楽しいと漏らす。試合のあと、研磨は黒尾に、バレーを教えてもらったことのお礼を言う。黒尾は、それに胸を打たれる」

レイ「何年も前に、半分むりやり連れてきた相手から。負けた日に。……ここは、何も足さない。書いてあるとおりで十分」

チアキ「私、手紙の最後には、いつも、返事はいりません、と書くんです。もらえたら、どうしていいか分からないので。黒尾くんは、頼んでもいないお礼を、いちばん遠回りな日に受け取ってる」

チアキ「カーテンコールで、袖に下がる一歩の手前、客席を一度だけ見る役者さんがいます。あの一度に、似てる」

レイ「劇場版で私が確かめられなかったのも、たぶん、その一度」[1]

Chiaki

……開けて、よかったです。

Chiaki

レイさんは、最後の話は連載で読んだんですか。

Rei

連載が終わったのは2020年の夏。私は大学三年で、研究室の机で最終話を読みました。最後の単行本が出たのは、その年の冬の手前。[1]

『週刊少年ジャンプ』2020年33・34合併号で完結。最終の第45巻は2020年11月発売

Rei

最後の箱です。高校のあと。

結局·真相最終章と連載のあとの読み切り點擊展開

レイ「高校を出たあと、黒尾は日本バレーボール協会で働いてる。部署は、競技を広めるための仕事をするところ。研磨は大学に通いながら、株の取引と、プロのゲーマーと、動画の投稿をこなして、自分の会社の代表にまでなってる。その会社が、ブラジルで修行する日向のスポンサー」

レイ「黒尾が日向を、研磨と一緒の動画に誘ってるのを見た宮侑には、だまされて大きな借金を背負わされそうな誘い方だ、と茶化されてる」

レイ「連載が終わってから、黒尾の目で描かれた読み切りも一本ある。バレーボールのリーグと組んだ催しが舞台で、協会で働く黒尾が主役」

レイ「コートの中では、相手を読んで止める人だった。コートの外では、コートそのものを増やす側に回った。私の仕事に置きかえると、夜中の電話が鳴る前に手を打っておく係。うちのマネージャーの口癖が、人を直すな、仕組みを直せ。研磨を連れてきたのも、監督のために試合を急いだのも、黒尾はずっと、自分が勝つことより、バレーが続く場所のほうを整えてた」

チアキ「黒尾くんのこと、舞台の上の人としてしか見てなかったかもしれません。舞台を降りたあとも、ずっと誰かの立つ場所を作ってた人なんだね」[1]

レイはそこまで話して、手元に目を落とした。テーブルの上で、右手の指が二回、軽く天板を叩いた。

Rei

……今の、長かった?

Chiaki

開場まで、あと二十五分あります。

レイは短く鼻で笑い、最終巻をチアキのほうへ滑らせた。

Rei

この巻、置いていきます。帰りのバスで読めるように。

Chiaki

いいんですか。誕生日の前に読み返す本なのに。

Rei

今年は、もう読みました。読んだら、どこで手が止まったか教えてください。一行でいい。

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