目錄
今日はどんな気分? 自分ばっかり空回りしてる気がする日なら、この一本の話がちょうどいいかもしれない。僕の6選の三本目は、漫画の『ハイキュー!!』です。第1巻の導入より先の展開や、試合の結果には触れません。
目立ちたかった中学生
中学生のころの僕は、とにかく目立つ人になりたかった。授業でも部活でも、いちばん最後にいいところを持っていく役がやりたくて、そのくせ準備は雑で、よく空回りしてた。誰かがきれいに整えてくれた場面に飛び込んで、決めきれずに終わる。それを何回もやって、自分は主人公向きじゃないんだと、少しいじけていた時期です。喜好
そんなときに読み始めたのが、この漫画でした。最初は、背の低い主人公が高く跳ぶ話だと思っていた。でも何巻か読み進めるうちに、僕の目は主人公の跳ぶ瞬間より、その手前でボールに触る人たちのほうへ吸い寄せられていったんです。喜好
集英社の書籍ページでは、作者は古舘春一さん、第1巻(紙版)の発売日は2012年6月4日と記されています。事實[2]
好きな理由1:主役はボールをつないだ全員
第1巻の紹介文にあるとおり、主人公の日向翔陽は、中学最初で最後の公式戦で「コート上の王様」と呼ばれる天才選手・影山に敗れ、リベンジを誓って烏野高校バレー部の門を叩きます。事實[1]
バレーボールは、ボールを持ったまま運べない。誰かが受けて、誰かが上げて、誰かが打つ。この漫画は、その「受けて、上げる」の一つひとつに、ちゃんと顔と気持ちを描きます。点を決めた人のコマと同じくらいの熱量で、そこまでボールを運んだ人のコマがある。読んでいるうちに、点が入る瞬間よりも、ボールが床に落ちずに上がった瞬間のほうで、胸が鳴るようになりました。解讀
ハルの研究テーマ、「主人公以外の人が物語を前に進める場面」だよね。この漫画って、視点の置き方がそれに向いてると思う。試合の途中で、ボールに触った人の頭の中に何度も入るでしょう。だから読者は、一つの得点を何人分もの気持ちで受け取ることになる。解讀
それだ! 一点が、一人の手柄に見えないんだよ。
ただ、仕組みで言えるのはそこまでかな。なんで読んでて泣きそうになるのかは、僕もまだうまく説明できない。
好きな理由2:コマから音が聞こえる
この漫画、紙の上なのに音がする。床を蹴る音、ボールが手に当たる乾いた音、体育館の天井まで抜けていく声。大きなコマで一気に跳ぶ場面もいいけど、僕が好きなのは、その直前の静かなコマです。息を吸う、目線が動く、指先がそろう。音が消えた一コマがあるから、次のページをめくった瞬間に全部の音が鳴りだす。ページをめくる手が、毎回ちょっと震えるんです。解讀
好きな理由3:「勝つ」と「助ける」が同じコートにある
もちろん、試合だから勝ち負けはある。登場人物たちは本気で勝ちたいし、そこはまったく甘くない。でも同時に、誰かのミスを誰かが拾って、誰かの得意を別の誰かが生かす。勝つための行動が、そのまま仲間を助ける行動にもなっている。僕が「勝つ」と「助ける」の違いを考えるようになったのは、この二つが同じコートの上で重なったり、すれ違ったりするのを見たからです。解讀
そしてもう一つ。僕はベンチや客席の人たちが映るコマにも弱い。声を出す人、準備をする人、黙って見守る人。コートの外にいる人が、コートの中を押している。派手なスパイクと同じくらい、そういう支える人の表情が、何度読み返しても目に残ります。喜好
中学生の僕が変わったところ
読み終えるころ、僕は「最後に決める役」以外の楽しさを知っていました。誰かが得意なことを出せるように、自分の得意を先に渡す。決めるのが自分じゃなくても、そこまでつないだのは自分だと思える。部活でも、自分が決めることより、誰かが決めやすいように動くことを考えるようになった。そっちのほうが、ずっと気持ちよかったんです。喜好
とはいえ、すぐに上手になったわけじゃありません。相変わらず張り切りすぎて、段取りをまちがえることもあった。でも、空回りしたときに「いま自分は、誰のために動いてる?」と考えるくせがついた。そう考えると、不思議と焦りが少し引いていくんです。喜好
苦手そうな人への入口
スポーツ漫画の熱さに疲れそうな人は、まず第1巻だけ。試合の勝ち負けを追うより、「この点の前に、誰がボールに触ったか」を一回だけ数えてみてください。ルールがわからなくても、ボールが誰の手を通ったかなら追えます。長い作品なので、一気に読まなくていい。試合の区切りで閉じて、また読みたくなった日に戻れば大丈夫です。
アニメで観るなら
アニメ『ハイキュー!!』の公式サイトによると、テレビアニメは2014年にシリーズがスタートし、2020年12月の時点で第4期までが制作・放送されています。事實[3]
第1期の監督は満仲勧さん、シリーズ構成は岸本卓さん、アニメーション制作はProduction I.Gです。事實[4]
漫画のコマから聞こえていた音が、アニメでは本当に鳴る。シューズが床をこする音、ボールが腕に当たる音、仲間を呼ぶ声。僕が好きな「音が消える一コマ」も、画面では息を吸う間になって、次の一本へつながっていく。ボールが誰の手を通ったかを、動きのまま追えるのもアニメのいいところです。喜好
今日、文字を読む元気がないならアニメから。自分のペースでコマを止めて眺めたいなら漫画から。どっちから入っても、同じコートに立てます。誰かに勧めるときは、「一話だけ観て、一点の前に何人がボールに触ったか数えてみて」と言ってみてください。喜好
ほかの5本へつながっていく
『天元突破グレンラガン』で覚えた「一人の勇気がバトンになる」感覚は、この漫画で「ボールをつなぐ」という、もっと手ざわりのある形になりました。そのあとに観た『オデッセイ』でも、遠く離れた場所にいる人たちが、それぞれの得意を一つの目的に向けて出し合っている。僕の中で、仲間の物語はずっとこの漫画の延長線上にあります。喜好
決めるのが自分じゃなくても、そこまでつないだ手は、ちゃんと物語を前に進めている。