テレビアニメ『スキップとローファー』を、第1期の最後の回まで観た人に向けた二周目の話です。一周目は姉と並んで、美津未が失敗するたびに指のすきまから観ていました。二周目は、海が荒れて船の出ない土曜の午後に、父と居間のテレビで観直しました。今回数えていたのは、美津未のところに誰が来て、誰が来なかったか。真ん中の回の大事なところと、最後の二回の話は畳んであります。
船の出ない土曜日
秋になって、海の荒れる週末が続いたことがあった。父は朝から家にいて、網の手入れも早めに終わってしまい、昼ごはんのあとは居間でずっと天気予報の画面を見ていた。私は縁側でクロッキー帳を開いていたけど、父がため息をつくたびに鉛筆が止まる。
海はしばらく駄目だな。イト、なんか観るか。お前と姉ちゃんが前に観てた、東京の学校のやつでもいいぞ。
なんで知ってるの。あのとき父ちゃん、居間にいなかったじゃん。
台所の入り口で、後ろから全部観てた。お前らが真剣だったから、声かけそびれてな。
……やっぱり。後ろで鼻をすする音がしてたの、父ちゃんだったんだ。姉ちゃんと二人で、振り向かないようにしてた。
潮だ、潮。……で、二周目は何を見るんだ。お前のことだ、もう決めてあんだろ。
美津未のところに、誰が来るか。一周目は美津未しか見てなかったから、今度は、来る人と来ない人を数える。喜好
客を数えるのか。港の朝みてぇだな。どの船が入ってきて、どの船が入ってこねぇか。
それ、ちょっと近いかも。
もう一つ、先に決めたことがある。このアニメは、回ごとの題が「ピカピカ」とか「そわそわ うろうろ」みたいな、音の言葉になっている。一周目は気にもしていなかった。二周目は、クロッキー帳の最後のページに題を全部書き出して、観た回に小さく丸をつけていった。この記事でも、回の番号の代わりに、その音の題で呼ぶことにする。事实[1]
父は、いつもの自分の座布団じゃなくて、私の隣に座った。前は台所の入り口から観ていた人が、今度は横にいる。それだけで、居間の空気がちょっと変わる。私は画面を見ながら、ときどき横の顔も見た。父の顔は、泣く少し前になると、口が一回だけきゅっと結ばれる。一周目のときは背中で音を聞いていただけだから、それを見るのは初めてだった。作品中的观察
駅で声をかけた人
一周目の私は、ここで美津未の顔しか見ていなかった。人の多さに目が回っている顔、もう駄目だと思っている顔。主人公の顔の正面に、ずっと座っているみたいな観方だった。喜好
二周目は、話しかけてくるほうを見た。困っている知らない子に声をかけられる人は、だいたい、自分の行き先がはっきりしている人だと思う。だから一周目の私は、志摩のことを「ちゃんとした東京の子」だと思って観ていた。二周目は、その見方がひっくり返る。解读
中段为止志摩の朝(中盤の展開)点击展开
志摩はその日、入学式に出るつもりがなかった。式をすっぽかすつもりで歩いていて美津未に会い、そのまま二人で学校まで走る。志摩は小さいころ子役をしていて、母親とのあいだもぎくしゃくしている。事实[3]
中段为止駅の場面をもう一度(中盤の展開)点击展开
それを知ってから最初の回を観ると、駅の場面の見え方が変わる。学校へ行く気のなかった人が、学校へ行きたくて泣きそうな子に声をかけている。行き先がはっきりしていたのは、むしろ迷子のほうだった。美津未は迷っていても、学校に行きたい子だったから。
父は横で「あの駅、どっちがどっちを拾ったのか分からなくなるな」と言った。迷子の船を港まで引っぱってやると、引っぱったほうも結局その港に入って、燃料もそこで積むことになるんだそうだ。声をかけたほうも、たぶん、どこかに連れていってもらっている。解读
二周目のこの回は、美津未が泣きそうになっているところより、志摩が出てくる最初の数秒を観てほしい。一周目に流れていった数秒が、二周目にはいちばん長い。解读
次の回の自己紹介は、一周目は観ていられなくて、姉の肩に顔を押しつけていた。二周目は、ちゃんと観た。ただし美津未じゃなくて、冗談が滑ったあとの教室のほうを。誰が下を向くか、誰が隣の子と目を合わせるか、誰が美津未のほうを見たままでいるか。教室の空気が変わる一瞬は、私がいちばん好きな種類の場面で、いちばん苦手な種類の場面でもある。喜好
あれは俺も、一周目は台所で目をつぶった。滑った冗談は、聞いてるほうが寒い。
父ちゃんの冗談は、毎日うちの台所で滑ってるよ。
あれは滑ってねぇ。母ちゃんが笑うのを我慢してるだけだ。
来る人を数える目で観ると、この回は、まだ誰が来るか決まっていない教室の、最初の空気の回だと思う。ここで美津未を見ていた顔を頭の隅に置いておくと、あとの回で、その人たちがどんな順番で美津未のところへ来るのかが分かって、少しうれしい。解读
生徒会室の扉の前
美津未のところに来た二人目は、自分から来たわけじゃない。扉の前まで来て、入るか入らないか決めかねていた子。私はこういう子をよく知っている。美術室の隅で、話しかけられたら返そうと思って、筆を洗うふりをしている子。たぶん、私。喜好
お前は、自分から行くより、向こうから来るのを待つほうだもんな。
待ってるんじゃなくて、見てるの。誰が先に話しかけてくるか。
一周目の私にとって、誠と結月はただの「合わない二人」だった。片方は地味で、片方は華やか。少女漫画だと、だいたいこの二人はしばらくぶつかる。でも二周目に観ると、二人とも同じものをこわがっているように見える。新しい人に、先に決めつけられること。誠は決めつけられる前に下を向いて、結月は決めつけられる前に涼しい顔をする。向きが反対なだけで、守っているものは同じ。解读
中段为止二人のあいだ(中盤の展開)点击展开
美津未とつきあううちに、誠のかたさは少しずつほどけていく。やがて誠と結月は、仲のいい友だちになっていく。事实[2]
苦手だと思ってたやつと、いちばんしゃべるようになる。船でもある。最初の航海で口きかなかったやつが、帰りには隣で飯食ってる。
父ちゃんの船の話、だいたい最後は飯食ってる。
飯食えば分かるんだよ。人は。
二周目は、誠が初めて結月と同じ場所にいるときの、誠の目の高さを追った。顔を上げているか、下げているか。それを頭に置いたまま、あとの回で二人がそろうところをもう一度見る。来る人を数えていると、来た人どうしも、いつのまにか同じ輪の中にいる。解读
分きざみの手帳
最初の回の朝、美津未は「今日は完璧な一日になる」と思っていた。高嶺先輩は、それを毎日やろうとしている人。二人は似ている。違うのは、美津未は予定が崩れても、崩れたところで何か拾ってくるところ。先輩は、崩れることそのものがこわい人に見える。解读
私は予定を立てない。夏休みの計画表は、毎年、三日目くらいから白いままになる。だから一周目は、高嶺先輩のことが少しこわかった。二周目は、こわいより先に、疲れそうだな、と思った。完璧にやれる人ほど、崩れた日にどこへ帰ればいいのか分からなくなる気がする。喜好
中段为止選挙のあと(中盤の展開)点击展开
「パタパタ モテモテ」の回で、美津未は生徒会の書記になる。生徒会長をめざしていた高嶺先輩は選挙に負けて、副会長になる。落ちこむ高嶺先輩を見て、演劇部の兼近先輩は、何かを思いつく。事实[1]
負けた日に、何か思いついて来てくれるやつがいる。そりゃ、ありがてぇよ。解读
父ちゃんなら、何持ってく?
……お前の四コマに出てくる俺の顔、全部だな。
あれは笑わせる用じゃなくて、記録。
高嶺先輩は、初めて出てくる回の顔と、選挙のあとの回の顔を並べると面白い。同じ真面目な顔なのに、あとのほうが少しだけ、肩から力が抜けている気がする。私は、そこがこの先輩のいちばんいいところだと思う。解读
来る人を数えていて気づいたのは、ここでは、来る人が美津未のところだけにいるわけじゃないこと。落ちこんだ先輩のところにも、ちゃんと来る人がいる。その人は、美津未みたいにまっすぐな言葉じゃなくて、思いついたことを持って、押しかけるやり方で来る。二周目は、兼近先輩が最初に出てくる回から、この人がずっと誰かのところへ押しかけている人だったことを確かめながら観ると面白い。解读
頼みに行く回
数えていて、この回では向きが逆になっていると気づいた。誰かが美津未のところに来るんじゃなくて、美津未のほうから、ちょっと言い方のきつい子のところへ頼みに行く。解读
一周目は、どうしてわざわざミカなんだろう、と思っていた。二周目は、頼みに行けることのほうに目が行く。私なら、言い方のきつい人のところへは、自分からは行かない。教わるのが上手な人は、きつい言葉の前にも立っていられる人なのかもしれない。解读
教わりに行けるやつは強ぇよ。船でも、怒鳴る先輩のとこに自分から行く新入りは、だいたい伸びる。
私は無理。怒鳴る人がいたら、美術室から出ない。
お前は出なくていい。向こうがお前の絵、見に来るだろ。
練習の場面では、ミカが美津未を見ている顔を追った。教えている人の顔なのに、ときどき、教わっている人をじっと観察している顔になる、と私は思った。来る人を数えていたつもりが、この回で、来られた側の顔も数えなきゃいけないと分かった。解读
動物園の日の後ろ姿
この回で来る人は、少し変な来方をする。正面からじゃなくて、後ろから来る。見られていることを、美津未は知らない。一周目の私は、ここをただの笑える回だと思っていた。二周目は笑えるけど、ちょっと胸がざわざわする。後ろからついていく人の顔は、たいてい、前を歩いている人より忙しい。解读
後ろからついてくやつは、だいたい自分のほうが心配なんだよ。解读
父ちゃん、ホマレの最初の遠足のとき、ついてったでしょ。
……誰に聞いた。
誰にも。父ちゃんの靴、あの日だけ砂がついてた。
中段为止女子会で(中盤の展開)点击展开
同じ回の女子会で、美津未・結月・誠と集まったミカは、気持ちをうまく出せないまま、先に抜けようとする。美津未の叔母で東京での保護者のナオちゃんは、そんなミカに、少しだけおせっかいをする。事实[1]
来るのに、帰ろうとする人。その気持ちは、私には分かる気がする。輪の中に入ったとたん、自分だけ場違いな気がして、先に帰りたくなる。そういうとき、私は何も言わないで帰る。だから、帰ろうとする子を、叱るでもなく放っておくでもなく、少しだけ構う大人が出てくると、画面の前で背中がまっすぐになる。全部を言わないで、少しだけ。そこが、私がこの回で一番長く止めたところ。解读
帰ろうとしてるやつに、説教しねぇでちょっとだけ構う。あれは難しいぞ。俺がやると、声がでかくなって説教になる。
知ってる。最後はいつも、ホマレに言い負かされてる。
女子会の場面では、ミカがみんなの話を聞いているときの顔を追った。帰ろうと決める前から、顔はもう帰りかけている、と私は思った。そこを心に残したまま、ナオちゃんと話したあとの顔と比べた。解读
凧島町に帰る夏
ふみの話は、私は恋の話としてより、遠くの町にいる人の話として観た。恋の話は、私はいまは読むほうがいい。美津未の東京には、ふみがいない。ふみの町には、美津未がいない。好きな人ができたと言える相手が、遠くにいる。それって、来る人を数える話の、反対側だと思う。来られない人。解读
美津未が家に帰る回は、父がいちばん静かだった。画面の中の美津未には、妹と弟がいる。東京では気を張っている長女が、家に帰ると、ただの上の子に戻るように見える。父は膝の上で手を組んで、ずっと黙っていた。解读
長い航海から帰った最初の晩はな、陸の飯が一口目でしみるんだ。腹じゃなくて、どっか別のとこに。
それ、何回も聞いた。でも今日のは、ちょっと違う顔で言ってる。
私は父が初めて陸で迎えた子だから、父が海から帰ってくる日を知らない。上のきょうだいは知っている。この回を父と観ていて、初めてそれが少し惜しい気がした。帰ってくる人を迎える側の顔を、私は描いたことがない。喜好
二周目でここを観るなら、家に帰った美津未より、東京へ戻っていく美津未。一周目は、帰るのが寂しそうだった。二周目は、戻る先に誰が待っているかを、こっちはもう知っている。最初の回では誰もいなかった東京に、いまは戻る理由がある。数えてきた人の分だけ、戻る顔が軽くなった気がした。解读
寝過ごした約束
二周目でいちばん驚いたのは、この回が、最初の回とよく似ていること。どっちも、張り切りすぎた美津未が、思ったとおりにいかなくなる回。最初の回は電車で迷い、この回は寝過ごして約束を果たせない。一周目は別々の失敗だと思った。二周目は、同じ子の同じくせだと思う。解读
違うのは、まわりにいる人の数。最初の回、美津未のところに来たのは一人だけだった。この回のころには、美津未のまわりには、ここまで数えてきた人たちがいる。だから失敗したときの重さも、たぶん違う。人が増えるほど、がっかりさせる相手も増える。来る人が増えるのは、いいことだけじゃない。解读
網、全部ひとりで直そうとするやつほど、朝起きれねぇんだ。若いころの俺だ。
父ちゃんは、いまも起きれてない日ある。
時化の日だけだ。
美津未みたいに、全部引き受けて寝過ごしちゃうのと、最初から手を挙げないの、どっちがいいんだろ。
どっちも、たまにやりゃいい。約束を守れなかったら、次の日に謝りに行けばいいだけだ。
父は簡単そうに言う。私は手を挙げないほうの子だから、寝過ごすほど引き受けたことがない。だからこの回の美津未は、一周目はただかわいそうで、二周目は少しうらやましかった。寝過ごすくらい、誰かのために何かを抱えていること。喜好
中段为止劇に出る人(中盤の展開)点击展开
演じることに気の進まない志摩も、クラスの劇に出てほしいと頼まれて、引き受ける。事实[2]
ここは、美津未と志摩が同じ回の中で、反対向きに困っていると私は思う。美津未は、自分から何でも引き受けて、手が回らなくなる。志摩は、頼まれて、気の進まない場所に立つことになる。どっちも、人のために動いているのに、自分のことは後回し。二周目は、この回の二人の顔を、交互に止めて観た。解读
題の「バタバタ ポロポロ」も、二周目に読むと音の並び方が気になった。最初の音で走り回って、あとの音で何かがこぼれる。題だけで、回の形が先に書いてあるみたい。解读
文化祭のお客さん
ここで、数えてきたことが少し揺れる。クラスメイトのところには、中学のころの友だちがやって来る。美津未は、ふるさとから東京へ出てきたばかりの子。ずっと美津未のところに誰が来るかを数えてきた私は、この回で初めて、美津未のほうのお客さんのことを考えた。教室がにぎやかなほど、私はその場面を長く止めた。解读
父ちゃん、船の上で、誰か会いに来たことあった?
海の上に客は来ねぇよ。来るのは鳥と、たまに別の船からの無線くらいだ。
無線、うれしかった?
天気の話しかしねぇのにな。人の声がするだけで、腹のあたりがあったかくなる。
结局·真相文化祭に来た人(結末にふれます)点击展开
文化祭には、志摩の母と、三歳の弟もやって来る。最終日には、子役のころからの知り合いでモデルの梨々華も見に来る。梨々華は、昔の因縁があって、志摩にきつく当たる。事实[2]
最後の回のことは、父が先に言いたがった。
最後の回な、俺がどこで泣くか、先に言っといていいか。
いい話にしないで。先に言われたら、私がどの顔を見るか決まっちゃう。
……おう。口、結んどく。
结局·真相最後の日(結末にふれます)点击展开
この学校に来てから少しずつ変わってきた自分に気づいた志摩は、梨々華に、いまの本音を打ち明けはじめる。事实[1]
结局·真相最初の朝と最後の日(結末にふれます)点击展开
最初の朝、入学式に出るつもりもなかった人が、最後の回では、変わってきた自分のことを、昔からの知り合いに話そうとする。美津未のところに来た一人目は、来たことで、自分も少しずつ動きはじめていたんだと、私は思う。
それに、最後の回に見に来るのは、志摩の家族と、志摩の昔を知っている人。ずっと美津未のところに誰が来るかを数えてきたのに、最後は志摩のほうのお客さんの回になる、と私は読んだ。最初の回で声をかけてもらった子のまわりで、今度は声をかけた人の昔が、少しずつほどけはじめる。私はそこで、数えるのをやめた。
父は、口を結んだまま、志摩が梨々華と話すところで一回だけ鼻をすすった。先に言われていなくても、だいたい当たっていたと思う。解读
ピカピカとキラキラ
全部観終わって、クロッキー帳の最後のページの、題の一覧を見直した。最初の回が「ピカピカ」で、最後の回が「キラキラ」。どっちも光っている音なのに、並べると少し違う。事实[1]
ピカピカは、まだ誰も触っていない新しいものの音に聞こえる。入学式の朝の、新しい制服みたいな。キラキラは、光がいろんな方向に散らばっている音。一つが光っているんじゃなくて、たくさんのものが少しずつ光っている。私は、最初の題は美津未一人のことで、最後の題は、美津未のまわりに集まってきた人たちのことでもあると読んだ。解读
数えてきた人を、思い出せる順に並べてみる。駅で声をかけた人。扉の前で迷っていた子。先に決めつけられるのがこわかった子。手帳の先輩と、思いついて押しかけてくる先輩。後ろからついてきて、途中で帰ろうとした子。遠くの町の親友。それから、最後の回にやって来る人たち。最初の回の駅では一人だったのに、数えていくと、片手では足りなくなる。解读
父ちゃん、最初の回の駅で、志摩が声かける前のとこ。……見てた?
見てねぇ。お前の顔のほう見てた。……だから、もう一回だ。今度は俺も、あいつのほうを見る。
観終わった日の夕方、クロッキー帳を開いて、うちの縁側に来るものを数えてみた。白い猫、朝の新聞を取りに来る弟、網を干しに来る父、洗濯物を取りこみに来る母。美津未の東京ほど多くないけど、毎日だいたい同じ順番で来る。数えているうちに、来るものを待っている自分のことも、一コマ目に描きたくなった。その四コマは、一コマ目だけ、まだ空けてある。喜好
次の土曜も、海は荒れていた。父は自分でリモコンを持って、最初の回をもう一度つけた。
二周目は、最初の回の駅で、美津未に話しかけてくる人のほうを見てみる。最後の回の題を知っていると、その人の最初の数秒が、少し違って見える。