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6選の四本目は『銀の匙 Silver Spoon』。俺の中では「うちの子にも読ませた漫画」の一番手だ。第1巻の入口より先のことは言わねぇ。食べることが好きな人なら、きっとどこかで箸が止まる漫画だぞ。
陸に戻ったころ
子どもたちが大きくなってきて、俺は遠洋の船を降りて、近くの海で漁をする仕事に移った。毎晩、家で晩飯を食える。それがうれしい反面、家族の中での自分の居場所が分からなくて、少しぎこちなかった時期がある。何か月も留守にしてた父ちゃんが、急に毎日いるんだからな。子どもたちも、どう話しかけていいか迷ってたと思う。好み
そんなとき、上の子が本屋で見つけてきたのがこの漫画だった。「父ちゃん、これ、魚じゃなくて牛の話だけど、たぶん好きだよ」って。読んでみたら、そのとおりだった。好み
小学館の公式コミック情報によると、作者は荒川弘さん。第1巻は2011年7月15日に出ている。紹介文には、大自然に囲まれた大蝦夷農業高校に入学した八軒勇吾が、都会育ちには想定外のことの多さに戸惑いながら、仲間や家畜たちに支えられたり、コケにされたりしながら日々奮闘する「酪農青春グラフィティ」とある。事実[1]
同じページの編集者のおすすめには、『鋼の錬金術師』の荒川弘先生がサンデーで週刊連載に初挑戦した作品だと書かれている。事実[1]
好きな理由1:食べ物の向こうに人がいる
この漫画を読むと、牛乳一本、卵一個の向こうに、早起きして汗をかいてる人の顔が見えてくる。朝の暗いうちから動物の世話をして、天気に振り回されて、それでも毎日続ける。漁も同じだ。スーパーに並んでる魚の切り身の向こうには、夜中の海で網を引いてる誰かがいる。それを言葉で説明されるんじゃなくて、主人公と一緒に手を動かして覚えていく。その感じがいいんだ。解釈
好きな理由2:都会っ子の戸惑いがおかしい
主人公は都会育ちで、勉強はできるけど、農業高校の毎日には全然ついていけない。動物の大きさにびびって、朝の早さにへとへとになって、周りの同級生の当たり前に驚いてばかり。これが笑えるんだよ。でも、笑ってるうちに、こっちも一緒に驚いてる。知らないことを知らないって言える主人公だから、読者も一緒に一年生になれる。解釈
仕組みの話を、最初に知らない人の目で見せるのは、説明としてもすごく上手なやり方なんです。読者が置いていかれない。解釈
仕組みとか言われると俺はもう分からん! でもまあ、あれだ。船で新入りが最初に船酔いして、みんなに笑われながら覚えていくのと同じだろ?
……それです。そっちのほうが短くて分かりやすいですね。
俺は逆に、都会に出ると主人公みたいになる。人混みで右も左も分からなくなって、駅で迷子になって、子どもに手を引かれて帰ってくる。だから、慣れない場所で一年生になるしんどさは、身に覚えがあるんだ。でもこの漫画を読むと、知らない場所で戸惑うのも悪くないと思える。戸惑った分だけ、覚えたことが自分のものになる。主人公の「なんで?」が少しずつ「なるほど」に変わっていくのを見てると、こっちまで腹の底があったかくなる。好み
好きな理由3:うまそうなのにまっすぐ
そして、とにかく飯がうまそうだ。自分たちで手をかけたものを、みんなで囲んで食う場面。湯気まで見えてくる。でもこの漫画は、ただ「うまい」で終わらせない。命をいただいてるってことからも目をそらさない。そこがまっすぐで、俺はいい漫画だと思う。漁師の家に生まれたから分かるんだが、魚をさばくときの手の重さってのがある。それを、畑や牛舎の側から描いてくれてる。解釈
うちの食卓が少し変わった
家族で回し読みしてから、晩飯の「いただきます」が少しだけ長くなった。誰が言い出したわけでもない。下の子が魚の骨を指でつまんで「これ、父ちゃんが獲ってきたやつ?」って聞くようになった。そうだよって答えると、ちょっとだけ丁寧に身をほぐす。俺はそれを見て、心の中で泣けるじゃねぇか……!ってなってる。顔に出てるらしくて、また笑われるんだけどな。好み
苦手そうな人への入口
動物の生き死にが出てくる話は苦手、って人もいると思う。そういう人は、まず第1巻を、主人公のドタバタ学校生活の漫画として読んでみてくれ。朝の早さに文句を言って、先輩にからかわれて、ごはんに感動する。それだけで十分楽しい。重いと感じる場面が来たら、そこで一回閉じて、晩飯を食ってから続きを読めばいい。腹が満ちてると、受け止められることもある。
ほかの6選とのつながり
ガキのころに『ドラゴンボール』で覚えた「よく食う」と、海で『釣りキチ三平』に教わった「命と向き合う」。その二つが、この漫画の中でひとつになった気がする。食べることは、うれしくて、ありがたくて、ちょっと重い。そのぜんぶを子どもと一緒に読めたのが、俺の宝物だ。好み
スーパーの棚の向こうに、早起きしてる誰かがいる。それを知ってから食べる飯は、ちょっとだけうまい。