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デュエル! あいさつ代わりにそう言って、今日は戦わない話をするぜ。オレの家には、子どものころから集めてきたカードも箱もフィギュアも、全部そろってる。どれも、手に入れた日に近い姿のままだ。旅先でそれを話すと、決まって聞かれる。「どうやって守ってるの?」って。だから今日は、オレの保管のやり方を、全部しゃべる。値段の話はしない。好きなものを、好きなまま手元に置いておくための話だ。
敵は四つしかいない
最初に言っておくと、オレのやり方は、敵を四つに絞るところから始まる。光、熱、水気、それから「くっつき」。オレが見てきたかぎり、カードもフィギュアも、だいたいこの四つにやられる。だからオレは、まずこの四つから遠ざけることだけを考えてる。Preference
フィギュアをしまうってことは、素材の弱点を知ることから始まるんだ。オレは、こう覚えてる。日に当てない、暑いところに置かない、湿らせない、くっつけない。それだけだぜ。Preference
光は窓から来る
一つ目の敵は光。とくに日の光だ。プラスチックは、日の光を浴びると傷んでいく素材なんだ。Fact[2]
オレがいちばんこわいのは、色が変わることだ。好きになった日の色のまま、手元に置いておきたい。だから、まず光から遠ざける。Preference
オレの家の飾り棚は、全部、窓のない壁に向けて置いてある。窓のある部屋では、昼のあいだカーテンを閉めっぱなしにしてる。家のことを頼んでいる人たちには、最初に一つだけお願いした。「この部屋だけは、朝の換気のあと、カーテンを戻してほしい」って。今では、オレより先に閉めてくれる。Preference
もう一つの工夫は、見せる棚と眠らせる箱を分けることだ。全部を出しっぱなしにしない。何体かを棚に出したら、ほかは箱の中で休ませる。季節が変わるころに入れかえる。光に当たる時間を、みんなで少しずつ分けあうんだ。Preference
好きなものほど、ずっと見ていたくなる。でも、ずっと出しっぱなしにしておくのは、オレにはこわい。だから交代制にしてる。いちばん好きな一体を出したい気持ちをがまんするのが、いちばんむずかしいところだぜ。Preference
交代制には、もう一つ良いことがある。しばらく箱で休ませていた一体を棚に戻すと、久しぶりに会った友だちみたいに新鮮に見えるんだ。毎日目に入るものは、だんだん見なくなる。たまに入れかえると、ちゃんと見るようになる。守るためのルールが、好きでいつづけるためのルールにもなってるんだぜ。Preference
棚の当番表は、ギアドラが管理してる。オレが勝手に一番好きなやつばかり出そうとすると、「タモツ、今月の当番は、この三体です」と止めてくれるんだ。
熱は思ったより近くにいる
二つ目の敵は熱。プラスチックが傷んでいく原因としては、熱と光と空気と水の影響がとくに大きいと言われてる。光の次に気をつけたいのが、熱なんだ。Fact[3]
オレがいま暮らしてる島は、一年じゅう暑い。だから家の中でも、熱がたまる場所を地図にしてる。家電の上と横、日が当たる壁の内側、屋根に近い棚、それに車の中。とくに車の中は、オレは絶対に置かない。旅先で新しい一体をゆずってもらったときも、移動のあいだは自分のひざの上か、冷房の効いた座席の足元に置く。Preference
ときどき部屋の温度も測ってる。数字を見ると、気のせいじゃなかったって分かる。感覚だけで決めないのも、オレのルールの一つだぜ。Preference
それに、熱のある場所は、たいてい光も当たる場所だ。窓ぎわ、家電の上、車の中。二つの敵がいっしょにいる場所には、オレは大事なものを置かない。Preference
島の家は湿気との勝負
三つ目の敵は水気。湿気だ。これは素材によって効き方が違う。プラスチックの中には、水と反応して少しずつ分解していく種類がある。ポリウレタンのように、分子の中に水と反応しやすいつなぎ目を持つものは、とくにその傾向が強い。Fact[1]
カードや紙の箱にとっても、湿気はやっかいだ。湿気の多い季節や場所には、カビが生えやすい。カビは、生えた物を傷めたり、くさらせたりすることが多い。だから紙の箱やカードを、湿気のこもる場所に置きっぱなしにしないようにしてる。Fact[9]
オレの家は海の近くで、雨の季節もある。だから、大事なものは箱の中に入れて、その箱にも乾燥剤を入れてる。乾燥剤には、水を吸うと色が変わるものがあるんだ。たとえば、水を吸いこむ力が落ちると、青っぽい色から淡い桃色に変わる種類がある。オレはこの色の変わり方を、箱を開けるときの合図にしてる。Fact[11]
ただ、乾燥させすぎるのも好きじゃない。紙のカードも、紙の箱も、極端に乾くと、また別の傷み方をするんじゃないかと心配になる。だからオレは、湿気がこもらないように、ときどき箱を開けて空気を入れかえるくらいにしてる。完全な答えはない。でも、気にかけて見ている箱は、だいたい元気だぜ。Preference
湿気の多い日は、箱を開けない。せっかく乾かした箱を、雨の日に開けたら元も子もない。オレが箱を開けるのは、できるだけ晴れて空気の乾いた日の、昼すぎにしてる。Preference
雨の季節が近づくと、オレは家じゅうの箱の見回りをする。床にじかに置いている箱はないか。壁にぴったりくっつけている棚はないか。床や壁ぎわは、湿気がたまりやすい気がするからだ。箱は床から少し浮かせた棚に置いて、壁とのあいだにこぶし一つぶんの隙間をあける。ギアドラは、湿気のこもりやすい部屋の隅を、上から見て教えてくれる。オレは床に寝そべって、箱の底をのぞきこむ。二人がかりの見回りだぜ。Preference
見回りの日に、もし箱の角に白っぽい点や、いつもと違うにおいを見つけたら、その箱だけはすぐにほかの箱から離す。中身を出して、乾いた部屋で様子を見る。一つの箱の困りごとを、ほかの箱にうつさないためだ。好きなものが多いほど、一つ見逃すと被害も大きくなる。だから、見回りはさぼれないんだ。Preference
フィギュアはくっつけない
四つ目の敵が、いちばん知られてない「くっつき」だ。ポリ塩化ビニルという素材は、おもちゃにもよく使われていて、可塑剤っていう薬品を加えると、やわらかくてしなやかになる。オレの棚にも、この素材のものがある。Fact[5]
この可塑剤が、ちょっと困ったやつなんだ。時間がたつと、素材の外へ移っていくことがあるんだ。Fact[7]
だからオレは、フィギュアどうしを触れさせない。棚に並べるときは、指一本ぶんずつ間をあける。台座も、ほかのプラスチックの上に直接置きっぱなしにしない。手の込んだジオラマみたいに寄せて飾りたい気持ちは、すごく分かる。でも、長く並べるなら、少しだけ距離をとる。仲がいいやつらほど、ちょっと離して並べるんだぜ。Preference
この話を旅先の子どもにすると、たいてい笑われる。「フィギュアにも、ソーシャルディスタンス?」って。まあ、そういうことだ。触れ合わないほうが、長く一緒にいられる。人間の世界でも、そういうときがあるよな。Preference
フィギュアの外箱の中に入っている、透明な台紙や袋も、オレは捨てずに取ってある。ただ、本体を袋に入れたまま、長いあいだ同じところを押しつけておくのは避けてる。何が何とくっつくかは、素材の組み合わせしだいで、オレにも全部は分からない。分からないときは、触れさせない。それがいちばん安全なやり方だと思ってる。Preference
カードは二枚の服を着せる
カードの話をしよう。トレーディングカードは、使ったり持ち歩いたりすれば、どうしてもすれたり傷んだりする。それを防ぐために生まれたのが、カードスリーブだ。カード一枚ずつを包む、透明な樹脂の袋だな。Fact[13]
スリーブのほかに、カード一枚ずつを入れる、もっと硬いケースもある。片側だけ口のあいた、硬い樹脂の箱みたいなやつだ。こっちは遊ぶためというより、しまっておくのに向いてる。Fact[13]
オレのやり方は、二枚の服を着せることだ。まずぴったりの薄いスリーブに入れて、その上からもう一枚、少し大きいスリーブを重ねる。上下の向きを逆にして口をふさげば、ほこりも入りにくい。特に大事な一枚は、そのうえで硬いケースに入れる。これは誰かに習ったんじゃなくて、いろいろ試して行きついた、オレの決まりだぜ。Preference
それから、旅に持っていくデッキと、家で眠らせるカードは、はっきり分けてる。腰のデッキは旅先で貸すから、なくしても笑えるやつだけ。家のカードは、旅に連れていかない。どっちも大事なカードだけど、役目が違うんだ。Preference
それと、スリーブも年をとる。何年もたつと、透明だったスリーブが少し曇ってきたり、口のところがゆるんできたりする。オレは年に一回、晴れた乾いた日に、家のカードのスリーブをまとめて見直す日を作ってる。中のカードは無事でも、服のほうがくたびれてたら、新しい服に着がえさせる。そのときに一枚ずつ絵を見るのが、オレの一年でいちばん好きな作業だぜ。Preference
デッキの話になると、急に声が大きくなる。しょうがないだろ。カードの話をしてるときのオレは、半分デュエルしてるんだ。
四つの目でカードを見る
カードを手元に迎えるとき、オレが必ずやることがある。カードの状態を、四つの目で見るんだ。真ん中に絵がちゃんと収まっているか、角がつぶれていないか、縁が欠けていないか、表面に傷や汚れがないか。カードの状態を見るときは、この四つを見るのがひとつの決まりごとになってる。Fact[15]
昔、質屋をやってる親戚の手伝いで、カードの本物と偽物を見分けていたころに、この見方が体に染みついた。今は値段のためにやってるんじゃない。迎えた日の状態を覚えておくためだ。何年かたってから見直したとき、どこが変わったかが分かるようにな。Preference
値段の話をしたがる人には、オレはいつも絵柄の話をする。「この角の光の描き方、見てくれよ」って。この四つの目は、カードを高く売るための目じゃなくて、カードの絵を長く見ていたい人のための目なんだぜ。Preference
四つの目で見るときは、明るい部屋で、カードを少しずつ傾けながら見る。真上から見るだけだと、表面の細かい傷は見えにくい。光の当たる角度を変えると、ふだんは見えない線が浮かび上がることがある。オレはこの見方を、旅先でカードを見せてもらうときにも使う。もちろん、相手のカードをじろじろ値踏みするためじゃない。いい状態のカードを見つけたら、「大事にしてきたんだな」って言うためだ。そう言うと、たいてい相手の顔がぱっと明るくなる。持ち主がどれだけ大事にしてきたかは、カードの四つの角に、ちゃんと書いてあるんだぜ。Preference
箱もいっしょにしまう
オレは、箱を捨てられない。カードのパックの箱も、フィギュアの外箱も、全部とってある。おかげで家の何部屋かは、箱で埋まってる。笑われるけど、オレにとって箱は、作品の一部なんだ。Preference
箱には、その作品が世に出たときの空気が残ってる。どんな絵で売り出されて、どんな言葉で紹介されたか。中身だけを残すと、その空気が消えちゃう。だから箱も、中身と同じルールで守る。光に当てない、熱いところに置かない、湿気をためない。紙の箱は湿気に弱いから、むしろ中身より気をつかうこともある。Preference
箱をつぶして平らにしてしまえば、場所は空く。でもオレは、箱は箱の形のまま残したい。一度折った紙には、折り目が残るからな。そのかわり、箱の中にもう一つの箱を入れて、入れ子にして場所を節約してる。Preference
旅から連れて帰る日
オレは旅が多いから、旅先で新しいカードやフィギュアをゆずってもらうこともある。そういう一体を家まで連れて帰るまでが、じつはいちばん気をつかう時間なんだ。Preference
カードは、もらったその場でスリーブに入れる。腰のデッキケースとは別に、旅用の空のスリーブと硬いケースを、いつもカバンに入れてある。フィギュアは、箱があれば箱ごと、なければタオルで包んで、手荷物のカバンに入れる。預ける荷物には入れない。どこに置かれるか、何が上に乗るか、オレには分からないからな。Preference
移動のあいだは、さっき話した四つの敵が、全部いっぺんにやってくる。窓ぎわの席の日ざし、車の中の暑さ、港町の湿気、それにカバンの中でほかの物とぎゅうぎゅうに押しつけ合う「くっつき」。だからオレは、旅から帰った日の夜に、連れて帰ってきた一体を必ず箱から出して、ひと晩、涼しい部屋の棚で休ませる。Preference
「おかえりなさい。新しい仲間の到着を記録しました」とギアドラが言う。家に来た日を、ギアドラは全部覚えてる。オレはその日付より、くれた人の顔のほうをよく覚えてるけどな。旅先で目が合って、デュエルして、別れぎわに「これ、持っていって」と言われた、その顔だ。
触る日を決める
最後のルールは、触る日を決めることだ。眺めるために手に取るのは、だれかに見せるときだけ。手入れや見回りの日は別で、そのときも必要なところしか触らない。見せる日は、手を洗って、よく乾かしてから箱を開ける。触るのは縁と台座だけ。顔や絵の真ん中には、指を置かない。Preference
こう言うと、まるで触らないために集めてるみたいだろ。でも逆なんだ。触る日を決めておくと、その日がちゃんと特別になる。旅から帰って、友だちが来て、みんなで大きな画面の前に集まった夕方。その日に箱を開けて、子どものころのカードを並べる。そのときのために、ふだんは静かに眠らせてるんだぜ。Preference
だけど、ひとつだけ白状しておく。オレがいちばん大事にしているカードは、ここまでのルールを、ひとつも守れていない。角はすり切れて、表面には指のあとがついてる。学校に行けなかったころ、カウンセラーの先生と初めて対戦した日に使った一枚だ。
あの一枚だけは、守るために傷つかなかったんじゃなくて、何度も握りしめたから傷ついた。美品で残すのが好きなオレが、あれだけはすり切れたまま残してる。保管のやり方っていうのは、たぶん、何を残したいかを決めることなんだと思う。きれいなまま残したいものもあれば、傷ごと残したいものもある。
「タモツ、その話をすると、いつも声が低くなります」。ギアドラはそう言って、静かにプロペラの回転を落とした。……さあ、湿気の少ない晴れた昼すぎだ。箱を開けるにはちょうどいい。つまり、楽しいってことだぜ。
敵は光・熱・湿気・くっつきの四つ。窓から離し、熱から離し、乾かし、触れさせない。そして、何をきれいなまま残し、何を傷ごと残したいかを、自分で決めておく。
