This article has not been translated into this language yet. Showing the original Japanese.

Second viewing

『この世界の片隅に』二周目は台所の静けさを見る

戦記ものばかり読んできたゴウが、戦場の出てこない戦争の映画を二周した。一周目は息を詰めて観た。二周目は、台所と、絵を描く手と、冒頭の小さな出来事を観た。聞き手はカノン。

This article spoils the ending

Covers劇場アニメ『この世界の片隅に』(2016年公開・129分の版)の結末まで

Written for people who have finished it and want more from a second viewing. Midway developments and the details of the ending are folded away until you tap them.

For people who
映画『この世界の片隅に』を最後まで観た人へ。戦いの場面ではなく、その前と後の暮らしを観直したい人に。
Spoiler range
Touches on the ending 劇場アニメ『この世界の片隅に』(2016年公開・129分の版)の結末まで
Who's talking
Go × Kanon
Types of claims: Fact Observation from the work Grounded inference Interpretation Preference
Contents 6 sections, ~6 min
  1. 二周目を始める前に
  2. 冒頭のばけもん
  3. 祖母の家の天井裏
  4. 幼なじみの水原
  5. 絵筆で描かれた空
  6. 台所から出た言葉

ゴウだ。映画『この世界の片隅に』の二周目の話をする。戦記ものではないが、戦争の時代を生きた人の話だ。最後まで観た人向けだ。展開にかかわるところは畳んである。まだの人は、先に映画館の席に座ってくれ。聞き手はカノン。

二周目を始める前に

公開は2016年。長編のアニメーション映画だ。原作は同じ題名のこうの史代の漫画で、監督も脚本も片渕須直。MAPPAが制作した。長さは129分。Fact[1]

主人公はすず。昭和19年、18歳で広島市江波から呉へ嫁ぐ。物のない戦時下でも知恵をしぼり、暮らしを豊かにしていく姿を追う。Fact[1]

Kanon

ゴウくんがこれ選ぶの、なんかいいね! 刀も出てこないし、誰も名乗りを上げないのに。

Go

……俺は戦記ものばかり読んできた。だが戦いそのものより、戦う前と後の静けさを見る。この映画は、その静けさだけでできている。Preference

冒頭のばけもん

映画の始まりは、夢なのか現実なのか分からない短い話だ。幼いすずが、海苔を届けるお使いに出て、その道で不思議な出来事に遭う。一周目は、絵の得意な少女の空想として流して観た。Observation from the work

Ending and reveals結末に関わる設定Tap to open

原作のあらすじでは、すずは「ばけもん」にさらわれる。押しこまれた背中の籠には、知らない少年がいた。それが周作だ。年月がたって、周作は、子どものころにたった一度会っただけのすずに求婚する。二周目に冒頭を観ると、あの籠の中の時間が、二人の物語の最初の約束に見えてくる。言葉で交わした約束ではない。それでも、この映画でいちばん長く守られた約束だと、俺は思った。Interpretation[2]

Kanon

えっ、そうなの!? 二周目、冒頭だけもう一回観る……よかろう……じゃなくて、観ます!

祖母の家の天井裏

すずの一家が祖母の家へ行く場面がある。すずが昼寝から起きると、天井裏から知らない女の子が下りてきて、食べ終えたすいかの皮を拾う。兄の見立てでは、座敷童子じゃないか、ということだった。Fact[2]

Ending and revealsエンドロールのことTap to open

エンドロールも終わりのほう、クラウドファンディングに応じた人たちの名前が流れるところで、遊女リンの生い立ちが描かれる。原作にあった話だ。祖母の家に出た座敷童子の正体がリンだったことも、そこでわかる。二周目にすいかの場面を観ると、あの少女がどこから来て、どこへ行くのかを知ったうえで、すずが新しいすいかを持ってくる手の優しさが、ずっと先まで届いている気がした。Interpretation[1]

Kanon

エンドロール、私は最後まで座ってる派! 舞台も、最後のお辞儀まで観てほしいもん。Preference

幼なじみの水原

水原哲は、すずの幼なじみだ。小学校のころの二人は、互いに相手を憎からず想っていた。Fact[1]

Up to midway中盤で語られることTap to open

見合いから逃げ出したすずが周作と出会う、そのきっかけを作ったのは水原だったと映画では語られる。すずへの結婚の申し込みに来た周作たちが、帰りに水原に道を尋ねた。水原はわざと別の方角を教え、周作たちを迷わせた。二周目は、水原の顔を、その一件を知ったうえで観てほしい。自分の想いを抱えたまま、相手の行き先を変えてしまった男だ。悪意とも、照れ隠しとも読める。俺はどちらとも決めずに観た。Interpretation[1]

絵筆で描かれた空

すずは絵を描くことが得意だ。二周目は、すずが筆や鉛筆を持つ場面を数えるつもりで観た。手が何かを描いている間は、周りの音が少し遠くなったように感じた。描くことは、すずにとって、目の前のものを自分の中に受け止めるための型のように見える。Observation from the work

Up to midway中盤の展開(呉の空襲)Tap to open

呉軍港が初めて空襲を受ける場面。すずは戦いの景色に目を奪われ、頭の中で、色とりどりの爆煙を絵筆で塗っていく。原作は白黒で、この描き方はない。当時、軍艦の高角砲の弾には、見分けるための色つきの弾が混ぜてあった。映画はその史実をもとに手を加えたという。怖い場面のはずなのに、一周目の俺は、一瞬きれいだと思ってしまった。二周目は、その一瞬を自分の中に認めたうえで観た。描く人の目は、怖いものまで描いてしまう。Interpretation[1]

晴美は周作の姉の娘だ。兄から軍艦の名前を習っていて、小さいのに、すずより軍艦をよく知っている。二周目は、この子が港を見ている場面を、一つも飛ばさずに観た。Interpretation[1]

Ending and reveals結末に向かう展開Tap to open

原作のあらすじでは、昭和20年6月22日、空襲のあとに時限爆弾が破裂する。すずのすぐ前で晴美が死に、すず自身も右手をなくす。二周目は、晴美が軍艦を指さす場面と、すずが右手で描く場面を、一つずつ噛みしめながら観た。前半の何気ない場面のほとんどが、失われるものの目録になっている。Interpretation[2]

Kanon

……二周目、そこがいちばんしんどかった。でも、前半ですずさんが笑ってくれてるの、すごく大事だったんだって分かった。Preference

Go

……ああ。笑うのは、軽いからじゃない。重いものを背負っても、台所に立つためだ。Interpretation

台所から出た言葉

すずはずっと台所に立っている。米を炊き、配給の少ない日をやりくりする。一周目は、暮らしの描写として観た。二周目は、その手つきの一つずつが、終盤のある言葉につながっていると思って観た。Interpretation

Ending and reveals終盤の場面Tap to open

戦争が終わったと告げる放送のあと、すずが一人でつぶやく言葉は、原作とは台詞が違う。映画のすずは、海を渡ってきた米や大豆で自分の体はできている、だから暴力にも屈しなきゃならないのか、とつぶやく。監督の説明はこうだ。すずは毎日台所に立ってきた生活の人だから、食べものに結びつけて反応するほうが、すずらしい。Fact[1]

Go

戦記ものなら、ここで将の言葉が来る。この映画では、毎日米を炊いてきた人の言葉が来る。二周目は、前半の台所の場面を、この台詞のための稽古として観た。Interpretation

Kanon

ゴウくんも台所に立つの? なんか、包丁持ってたら別の映画に見えそう……あっ、ごめん、今のなし!

Go

……毎朝、米は自分で炊く。稽古の前に、黒いコーヒーと一緒に食う。……顔のことは、慣れている。

Kanon

毎朝ちゃんと炊くの、すずさんと同じだね。舞台も同じかも。本番の日より、なんにもない日の練習のほうが、あとで効いてくるもん。Preference

Ending and reveals結末Tap to open

原作のあらすじでは、焼け跡になった広島で、すずと周作の前に、戦争で親をなくした女の子が現れる。二人はその子を連れて呉へ帰る。もう空襲を怖がらなくていい呉では、夜の街に明かりがともっている。二周目に冒頭の籠の場面へ戻ると、出会いから始まった物語が、また別の出会いで閉じていることに気づく。守るものは、失っても、また引き受けられる。Interpretation[2]

Kanon

ゴウくん、帰り道に泣いた?

Go

……別に、泣いていない。公園で猫に会釈して、逃げられただけだ。

二周目は冒頭の海苔のお使いから。夢のような短い話が、最後の場面まで続く一本の線の端になっている。

Works in this article

Told by Go A stern-faced university student devoted to the samurai code and the ways of true professionals More from Go →

Read next

All articles

Back to top