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私の6選の四本目は『Arcane/アーケイン』。上と下に分かれた二つの街で、姉妹が生きていくアニメのシリーズです。姉妹がこの先どうなるかは書きません。書くのは、絵の手ざわりと、拳の重さの話。
スケッチブックが一冊なくなった
観始めたのは高校生のころ。一話目の途中で、スケッチブックを取りに行った。画面を止めて描き写して、また再生して、また止めて。シーズンを観終わるころには、スケッチブックが一冊まるごと埋まってた。絵の勉強のつもりで観始めたのに、最後は姉妹のことで頭がいっぱいだった。
Netflixの作品ページで紹介されている第1話は、孤児の姉妹ヴァイとパウダーの話です。二人は富裕層の住むピルトーヴァーで盗みに手を出し、そのせいで、自分たちの住む地下の街ゾウンに、やっかいな騒ぎを持ちこんでしまう、という筋です。Fact[1]
Netflixの特集記事によると、このシリーズはクリスチャン・リンクさんとアレックス・イーさんが共同で生み出し、フランスのアニメーションスタジオFortiche Productionが、原作のゲーム『リーグ・オブ・レジェンド』を作ったRiot Gamesと組んで作っています。Fact[2]
好きな理由1:止めると油絵になる
立体のCGで作った人物なのに、顔や服に筆のあとみたいな手ざわりがある。止めると、本当に一枚の油絵に見える。背景の壁は塗り重ねた絵の具みたいにでこぼこしてて、光が当たると、そのでこぼこが色の変化になる。写実の絵を描く人間としては、ずるいくらいきれい。どこを拡大しても、手で描いた跡が残ってる気がする。Interpretation
好きな理由2:二つの街の色が違う
上の街ピルトーヴァーは金色と白、下の街ゾウンは緑と紫とネオンの色。カメラが上から下へ降りるだけで、空気の温度が変わる。色で街を分けて、色で人の居場所を見せてる。姉妹がどっちの色の中に立ってるかを見てるだけで、セリフより先に気持ちが分かる場面がある。Interpretation
光の当て方も違う。上の街では光は空から降ってくるのに、下の街では、ネオンや火のように下や横から人を照らす。下から照らされた顔は、同じ人でも少し危うく見える。光の向きで、その街の暮らしの苦しさまで描いてるんだと思う。Interpretation
好きな理由3:拳に嘘がない
ヴァイの殴り方が好き。腰が入ってて、殴ったあとに体が流れない。殴られた側も、ちゃんと首と肩で衝撃を受けてる。空手をやってると、アクションの「当たってない感じ」がすぐ分かっちゃうんだけど、この作品は当たってる。痛そう。痛そうだからこそ、ヴァイが拳を握るたびに、それが誰のためなのかを考えちゃう。Preference
エマ。ヴァイの衣装、一着だけ合わせてみない? 動きやすい形にする。無理なら言って。
えー、うーん……拳のテーピングだけなら! ……って、また乗せられてる気がする。
姉妹が並ぶ場面、背の高さと立つ位置で、どっちがどっちを守ってるか全部分かる。台詞より、距離。Interpretation
それ! ヴァイっていつも半歩前に立ってるよね。描き写してて気づいた。Observation from the work
私の見方:作った国の混ぜ方
同じ特集記事には、シーズン2では約450人のアーティストがアメリカとフランスに分かれて制作に参加した、とも書かれています。Fact[2]
フランスで育った絵の文化と、アメリカで生まれたゲームの世界が、一つの画面で混ざってる。私には、背景の絵画っぽさにフランスのバンド・デシネの空気を感じる。でも、カメラの速さや殴り合いのテンポは、ゲームのほうから来てる気がする。どっちか一つの国のアニメって言えないところが、この作品のいちばん面白いところだと思う。私みたいに国をまたいで育った人間には、ちょっと他人事じゃない。Interpretation
私は英語で観たあと、日本語の吹き替えでも観た。ヴァイのぶっきらぼうさが、英語だと息の荒さと発音の崩し方で出てて、日本語だと語尾の短さで出てる。同じ乱暴さでも、言葉によって置き場所が違うの。翻訳で消えたんじゃなくて、別の場所に引っ越してる。そういうのを見つけると、一人でにやにやしちゃう。Interpretation
苦手そうな人への入口
原作のゲームを知らなくても、まったく問題ない。私も知らずに観た。ただ、殴り合いや危ない場面ははっきり描かれるから、暴力の描写が苦手な人は、そこだけ心の準備をしておいて。最初は一話だけ、絵を眺めるつもりで観るのがおすすめ。気に入った場面で止めて、その一枚をじっと見てみて。そこで「きれい」って思えたら、もう入ってる。
ほかの5本とのつながり
『白蛇:縁起』で布と光の描き方に止まったくせが、この作品でもっとひどくなった。それと、『SPY×FAMILY』も『Arcane/アーケイン』も、守りたい人のために拳を使う人が好き。好きなキャラクターを一人選べって言われたら、私はヴァイって答える。Preference
止めれば一枚の油絵、動かせば拳が鳴る。気に入った場面で、遠慮なく一時停止して。