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Everyday

同い年の四人は同じ年を覚えていない

Spoiler range No spoilers どの作品も、始まりの設定と放送・公開の時期まで。物語の展開と結末には触れません

雨の土曜の昼、ノアの声かけで集まったのは、全員同じ年に生まれた四人。初めて映画館で観た一本、幼稚園で夢中になった一本、野球帰りに笑った一本、二回観た一本。同じ年を生きてきたのに、覚えている場面はみんな違っていた。

For people who
同い年の人と、子どものころのアニメの話をしてみたくなった人へ。同じ年に生まれても覚えている場面がばらばらだった人にも。
Who's talking
Sui × Noa × Kaoru × Kagura
Family diner 駅前のファミレスの、窓ぎわの四人席 雨の土曜の昼

窓の外は小雨だった。傘立てには、似たような紺の傘が三本並んでいる。ノアが手帳を開いて、四人の名前の横に、同じ年の数字を書き入れた。誰の傘なのかは、まだ誰も気にしていなかった。窓ガラスを伝う雨のすじを、カグラが少しだけ目で追った。

Noa

やっぱり。四人とも、同じ年の生まれ。気づいたら、一回並べてみたくなって。

Kaoru

ほな、みんな同級生やん。給食の献立まで一緒やったかもしれへんで。

Noa

ふふ、それが違うの。私だけ三月生まれだから、学年はひとつ上。みんなが小学校に入った春、私はもう二年生。

Kagura

同じ年に生まれて、一年先輩。なんだか、予告編を先に観ていた人みたいですね。

Kaoru

ほな今日からノア先輩や。ドリンクバー、先輩の分も取ってきましょか。

Noa

やめて。部活の一年生みたいな声、出さないで。

Kaoru

野球部仕込みやもん。先輩の前では帽子取って、声は一段大きく。

Sui

カオルさん、いま本当に声が一段大きくなったね。

Kagura

隣の席の方が、ちょっとこちらを見ました。

Kaoru

……すんません。昼でも、ここはお店やったわ。

Sui

じゃあ、一人ずつ、いちばん古い一本を出してみる?

Kagura

私からいいですか。初めて映画館で観たのは、ポケモンの最初の映画です。四歳の夏、家の近くの古い映画館で。[1]

『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲』は1998年7月18日公開。同時上映は『ピカチュウのなつやすみ』

Kagura

お話は、正直ほとんど覚えていないんです。覚えているのは、前の席の子たちの頭が、いっせいに同じほうへ動いたこと。暗くなる直前の、あのざわっとした音も。

Kaoru

四歳で、客席のほう見てたん? もう副支配人やん。

Kagura

見てましたね。画面より、暗闇のほうが気になる子どもでした。

Kaoru

その映画、私も観たはずなんよ。三つかそこらで、親に抱っこされて。でも覚えてるのは、帰りに買うてもろたソフトクリームが溶けて、手がべたべたになったことだけ。

Noa

私は映画館じゃなくて、だいぶあとにテレビで観た気がする。年長のころ、幼稚園でみんなが同じ黄色いのを持ってて、私だけ持ってなくて、ちょっと格好悪い話なんだけど、いい?

Sui

どうぞ。

Noa

幼稚園で、持ってるふりをした。手のひらに何も乗ってないのに、乗ってるみたいに見せて。誰にもばれなかった。

Kagura

それは、いい芝居です。客席から見ていたら、私も信じたと思います。

Sui

同じころなのに、映画館の暗闇と、ソフトクリームと、見えない黄色いのが並んでる。

Noa

どこを覚えてた?って聞くと、人によってこんなに違うんだね。

Sui

私は、おジャ魔女どれみ。幼稚園から、小学校の低学年まで、毎週。

Sui

どれみちゃんたち、普通の小学生の女の子が、魔女見習いになるの。修行をしながら、少しずつ。[3]

1999年2月に放送開始。2003年1月まで、4つのシリーズが続いた

Noa

シリーズが何回も続いたんだよね。スイ、最後まで観てた?[4]

Sui

うん。終わったのは、小学二年の冬。そのころ、近所の子と魔女見習いごっこをしてたんだけど、私はいつも、呪文を唱える役じゃなくて、それを見てる役だった。

Kaoru

見てる役て。ごっこ遊びに、そんな役あるん?

Sui

あったの。誰が言い出したかより、誰が言い出せなかったかを見てる役。……いま思えば、ちょっと変な子でしょう。

Kagura

客席を見ている四歳と、言い出せない子を見ている小二。同じ年に生まれた二人なんですね。

Sui

……そう言われると、少しうれしい。

店員さんがスープを四つ置いていった。カオルは、自分の分より先に、三人の前にスプーンを一本ずつ並べ直した。誰も頼んでいないのに、ナプキンも一枚ずつ添えてある。ノアが、それを見て小さくうなずいた。

Kaoru

うちはな、ケロロ軍曹。小学四年で、少年野球から帰ってきて、泥だらけのまま観てた。

Kaoru

カエルみたいな宇宙人が、地球を侵略しに来るんよ。それやのに、ある家族の家に居候して、そこの人らに頭上がらへんの。[5]

テレビアニメは2004年4月から2011年4月まで放送

Kaoru

侵略しに来て居候て、いや、なんでやねん。毎週それで笑ってた。

Noa

侵略と居候。並べると、言葉のほうがもう面白いね。

Kaoru

せやろ。負けた試合の日もな、あれ観たら晩ごはんまでに機嫌直ってた。笑いって、肩の力抜くんよ。

Sui

カオルさんは、負けた日に笑う子だったんだね。

Kaoru

笑わな、次の日マウンド行かれへんもん。……スイさんは、泣く子やったやろ。

Sui

泣かない子だった。泣くのは、家に帰ってから。

Kagura

私も、泣くのは帰り道でした。映画館を出て、家に着くまでの坂道で。

Kaoru

帰り道で泣くて、それ、いつもの決め台詞の元ちゃうん。

Kagura

ふふ、ばれましたか。あの坂道があったから、帰り道まで映画だと思うようになったんです。

Kagura

ノアさんの一本は?

Noa

私はね、同じ話を二回観た一本。

Noa

鋼の錬金術師。エドワードとアルフォンス、錬金術師の兄弟の話。アニメが二回作られてて、一回目は小学四年、二回目は高校に入った春。[7]

1作目のテレビアニメは2003年10月から2004年10月、2作目は2009年4月から2010年7月まで放送

Kaoru

同じ話を二回? それ、再放送とちゃうの?

Noa

違うの。一回目は、途中からアニメだけのお話になっていく作り。二回目は、原作の漫画の話にそって作り直したもの。同じ兄弟なのに、歩く道が違う。[8]

Noa

小学生の私は一回目が全部だと思ってた。高校の私は、二回目を観て、知ってるはずの兄弟が知らない道を歩いてて、一ページ分、違いを書き出した。どっちが正しい、じゃなくて。

Kagura

わかります。同じ作品を、別の音、別の席でもう一回観ると、別の映画に見える日があるんです。

Sui

同じ兄弟でも、観ている自分の年のほうが違ったんだね。

ドリンクバーのグラスが、四つとも二杯目になっていた。ノアは四人の名前の横に、作品の名前をひとつずつ書き足した。四つとも、少しも重なっていない。

Sui

同じ年に生まれても、ひとりずつ、別の窓から同じ時代を見てた感じがする。

Kaoru

窓て。スイさん、言うことがいちいちきれいやな。うちなんか、泥だらけの窓やで。

Kaoru

同い年やのに、誰ともかぶってへんの、おもろいな。

Noa

近いね。でも、同じ年を生きてたのは本当。覚えてる場所が違うだけで。

Kagura

今度、四人で同じ一本を観ませんか。最後列で、端から四つ。古い作品の特別な上映でも、新作でもかまいません。終わったあと、誰がどこを覚えているか、答え合わせをするんです。

Kaoru

ええな、それ。ほな、ポップコーンは私が持つわ。こぼさんように。

Sui

少し考えてから返すね。……行く。

会計をすませて外に出ると、雨はまだ細く降っていた。ノアは手帳を鞄にしまう前に、四つの作品名の下に、もう一行だけ書き足した。「同じ年。違う窓」。四人はそれぞれ傘立てから傘を抜いた。スイが紺の傘を開きかけて、手を止めた。

Kagura

あ。それ、たぶん私のです。

Kaoru

早速かぶってるやん。

Sui

……ここは、かぶったね。

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