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私の6選の一本目。『おそ松さん』。最初に言っておくと、出てくる人はだいたいろくでもない。働かないし、兄弟で足を引っぱり合うし、見栄を張って失敗する。それでも私は、この六人を一人も見捨てられなかった。今回は公式サイトに載っているサブタイトルと基本の設定までしか触れない。
家で仕事を始めた夜に流していた
出会ったのは、家でできる仕事を始めたころ。何の仕事かは、ここでは言わない。とにかく、部屋から出ずにできることを覚えたばかりで、夜はずっと画面の前にいた。手を動かしながら、横で何か流しておきたかった。ちゃんとした話は無理だった。立派な人が出てくると、自分と比べて手が止まるから。喜好
公式サイトのスタッフ欄には、原作が赤塚不二夫さんの『おそ松くん』、監督が藤田陽一さん、シリーズ構成が松原秀さん、アニメーション制作がstudioぴえろと書かれている。事實[1]
で、流し始めたらこれ。第2話のサブタイトルが「就職しよう」、第4話が「自立しよう」。公式のストーリー欄にそう並んでる。題名の時点で、もう誰も自立してない。笑った。久しぶりに声が出た。事實[2]
好きな理由1:ダメさを隠さない
いや、ダメな人が出てくる作品は他にもある。でも多くは、最後に「本当はいい人でした」って帳尻を合わせにくる。この作品はそれを急がない。だらしなさは、だらしないまま画面にいる。私はそこを誠実だと思う。ダメさを隠さないって、作り手がダメな人を信用してるってことだから。解讀
白状すると、最初は見下して笑ってた。自分よりダメな人がいる、って。そういう気持ちが混ざってたのは本当。でも何話か見るうちに、その人なりの必死さが見えてくる。見栄の張り方が下手なだけで、見栄を張るくらいには自分を諦めてない。そこが見えた瞬間、笑ってた私のほうが居心地悪くなった。喜好
好きな理由2:六人いるから、誰も一人にならない
六つ子っていう設定、ギャグのための数だと思ってた。それは違った。六人いると、誰かが滑っても、別の誰かがもっと滑る。ひどい目にあう番が回ってくる。順番が回るってことは、一人だけが切り捨てられ続けないってこと。兄弟でけなし合ってるのに、輪から外される人はいない。私はそれを見て、ちょっと安心してた。解讀
待って、そこ分かる。あの六人って関係が固定されてないんだよね。回ごとに組み合わせが変わるから、誰と誰が近いかで話の温度が全然違う。……まあ現実の男兄弟なんて、どうせみんなあんな感じでしょ。解讀
前半は同意。後半は違う。嫌いでいいけど、ひとくくりは雑。あの六人だって、一人ずつ違うから面白いんでしょ。解讀
……今の、言いすぎた。撤回する。
好きな理由3:笑いの温度が低い
この作品、大声で盛り上げる回もあるけど、私が好きなのは間が長い回。誰かがやらかしたあと、一拍だけ誰も喋らない。その沈黙が、怒鳴るより効く。ツッコミも、正しさで殴るんじゃなくて、呆れて流す感じが多い。呆れるって、相手を見捨ててない人の反応なんだよね。本当に見捨てたら、呆れもしない。解讀
あと、声。六人の声の芝居が細かく違う。同じ「えー」でも、甘え方とごまかし方と開き直り方が全部別。私は昔から人の声のまねをするのが好きで、これを流しながら一人ずつの言い方を口の中でなぞってた。仕事の手は止まった。それはこの作品のせい。喜好
私の見方:見捨てないことと、許すことは違う
誤解されたくないから言っておく。私はこの六人を立派だと思ってない。許してもいない。迷惑なところは迷惑。でも、迷惑な人を輪の外に放り出さないことと、迷惑を許すことは、別の話なんだよ。この作品は、その二つを混ぜない。ちゃんと怒られるし、ちゃんと呆れられる。そのうえで、次の回にはまた同じ部屋にいる。私はその「また同じ部屋にいる」に、何度も救われた。家で一人で仕事を始めたばかりで、自分がこの先ちゃんとやれるのか分からなかった夜に、だめなまま居場所がある人たちを見てるのは、正直かなり効いた。解讀
研究テーマみたいに言うなら、「全員ろくでもないのに見捨てられない理由」。私の答えの一つは、だめさが一人に押しつけられていないこと。みんなが少しずつだめで、みんなが少しずつ迷惑をかけ合ってる。だから、誰か一人が悪者として切り捨てられない。完璧な人が一人もいない場所は、意外と息がしやすい。解讀
苦手そうな人への入口
下品なネタも、パロディも多い。合わない回は合わないと思う。そこは期待しないで。入口にするなら、一話を通しで見ようとしなくていい。1話の中に短い話が二つ入ってる回が多いから、片方だけ見て、合わなければ閉じる。それで十分。見るときは、六人のうち一人だけ決めて、その人の顔だけ追ってみて。誰か一人の必死さが見えたら、たぶんもう抜けられない。
ほかの好きな作品へ
ダメな人を見捨てない、っていう見方は、あとで好きになった作品に全部つながってる。部屋から出られない人を笑いながら書く『NHKにようこそ!』。だらしない大人が筋だけ通す『銀魂』。逃げ方が下手な人の『賭博黙示録カイジ』。切り捨てる仕組みを見せる『PSYCHO-PASS サイコパス』。誰も傷つけない道を試される『UNDERTALE』。順番は出会った順じゃない。でも原点はここ。喜好
その人が弱いことと、雑に扱っていいことは、別。笑ってもいい。ただ、見捨てるのとは違う。