旅の途中、竜山はまたゲンの家に寄りました。夕飯のあと、子どもたちが寝静まった居間。シズカが置いていった湯呑みを手に、竜山は「短いのを一本、どうじゃ」とゲンに言いました。12分ほどの短編アニメです。
上へ上へと建て増す家
『つみきのいえ』は、2008年の発表。監督は加藤久仁生さんで、日本で作られた短編のアニメーション映画です。上映時間は12分3秒。フランス語の題は「La maison en petits cubes」。脚本は平田研也さん、音楽は栗コーダーカルテットの近藤研二さんです。事實[1]
舞台は、上がってくる海に沈みかけた街です。そこに一人で残った老人が、積木を重ねたような家に住んでいます。水が来るたびに家を上へ足して、老人は穏やかに暮らしていました。事實[1]
海が上がってくるのか……。海のそばで暮らしてるとよ、潮が満ちてくる音だけで、腹の底がざわっとするんだ。それでも出ていかねぇで、上に積むってのがいいじゃん、それ!喜好
そうじゃろう。逃げるのも策、残るのも策じゃ。この爺さんは、残るほうを選んだ。俺はそこで、もう座り直しとった。解讀
一枚の絵から始まった
平田さんが書いた話の筋には、元になった絵がありました。加藤さんが描いた、何層にも積み上がった家の絵です。平田さんはその世界をおもしろがって筋を組み、制作もその筋に沿って進みました。事實[1]
地球温暖化のことも作品で訴えたらどうか。平田さんからは、そんな助言もあったそうです。けれど加藤さんが芯に置いたのは別のことでした。環境がどんなにつらくても、人は生きていくしかない。そのイメージを最後まで曲げませんでした。事實[1]
人の助言を聞いて、それでも自分の筋を通す。若いのに、ええ肝の据わり方じゃ。道場でも、言われたことを全部やる弟子より、一つだけ曲げん弟子のほうが、あとで伸びる。解讀
竜山さん、それ、だいたい自分のことだろ。
ははは、ばれたか。
でもよ、上に積んで暮らすってのは、俺にはちょっと分かるんだ。船の上じゃ、増やせるのは上だけだからな。棚を一段足して、寝床の上にまた物を積んでよ。喜好
道場も同じじゃ。俺は八十を過ぎても毎朝、だれより早く道場に立つ。昨日の稽古の上に、今日の稽古を一段積む。崩さずに積むのが、年寄りのいちばんの仕事よ。解讀
台詞のない12分
この作品には台詞がなく、映像とBGMだけで物語が進みます。日本語版では俳優の長澤まさみさんがナレーションを務めました。DVDには、ナレーションの入った版と入っていない版の二つが収められています。事實[1]
鉛筆の質感を残し、陰影を強くつけた絵は、老人が積み重ねてきた人生を感じさせるための工夫です。淡々とした暮らしを描いて、それを人生そのものの象徴にしたかった。加藤さんはそう語っています。事實[1]
俺が子どものころの最初の物語は、紙芝居じゃった。絵が一枚ずつ抜かれて、おじさんの声で話が進む。鉛筆の線の絵を見とると、あの木の枠の前にしゃがんどった気分になる。喜好
じゃあ、声ありと声なし、どっちで観るんだ?
一度目は声なしじゃな。紙芝居の声は、昔のおじさんので足りとる。二度目に声ありで観ると、同じ絵が違う顔をするかもしれん。そこは、ゲンが確かめてくれ。喜好
鹿児島から来た作り手
加藤久仁生さんは1977年生まれで、鹿児島市出身のアニメーション作家です。多摩美術大学を出て、ROBOTという映像制作会社に入ったのが2001年です。『つみきのいえ』は第81回アカデミー賞で短編アニメーション賞に選ばれ、加藤さんは英語でスピーチをして、受け取ったオスカー像の重さと、スタッフへの感謝を話しました。事實[2]
受賞歴は続きます。広島国際アニメーションフェスティバルのヒロシマ賞、アヌシー国際アニメーション映画祭のアヌシー・クリスタル賞、文化庁メディア芸術祭アニメーション部門の大賞も手にしています。事實[1]
映画をもとに、加藤さんと平田さんがリメイクして書き下ろした絵本『つみきのいえ』も、2008年に白泉社から出ています。事實[1]
加藤さんがROBOTを退社したのは2017年の春で、以後はアニメーション作家として一人立ちしています。また同年、「風と共に」(NHK「みんなのうた」)のアニメーションを担当しました。事實[2]
絵本もあるのか! うちのチビたちに読んでやれるな。喜好
貸本屋で育った身としては、絵本があると聞くと手に取りたくなる。映画のあとに、紙の上でもう一度ゆっくりめくる。それもええ観方じゃ。喜好
像が重いって言ったのか! いいじゃん、それ。積み上げてきたもんは、だいたい重いんだよな。網だって、魚が入りゃ重い。解讀
うまいことを言う。……ゲン、観る前に一つだけ言うておく。声なしで観るなら、音楽をよう聴いておけ。言葉のかわりに、絵と音楽だけで話を運ぶ作品じゃからのう。それ以上は言わん。喜好
おう。……なんか、もう泣ける気がしてきたな。
まだ再生もしとらんじゃろうが。ははは。茶を淹れ直してから、始めるとするかのう。
『つみきのいえ』は台詞のない12分の短編。日本語版には長澤まさみさんのナレーションがつき、DVDにはナレーションのない版も入っている。