日曜の昼、海辺の町のゲンの家。旅の途中の竜山さんが、ふらりと寄りました。縁側では、朝に獲れたアジが七輪で焼けています。居間では、子どもたちが午前中に観たアニメ映画の話を、まだ続けていました。
海の底の父と子
ははは。魚の映画を観たあとに魚を焼くとは、ゲン、ええ度胸じゃ。
海の男はそういうもんだ! 食って、笑って、生きていく。……でもな師範、今朝のは親父の話でよ。チビたちの横で、俺のほうが前のめりになっちまった。
『ファインディング・ニモ』は、アメリカ発のアニメ映画で、公開は2003年です。ディズニーとピクサーが組んで製作し、全編を3DCGで描いています。ピクサー長編の5本目にあたる作品です。日本公開は2003年12月6日。監督と原案はアンドリュー・スタントンさんです。主人公の名前ニモは、ジュール・ベルヌの小説『海底二万里』に出てくるネモ船長にちなんでいます。事實[1]
オーストラリアのグレートバリアリーフが舞台です。マーリンはカクレクマノミの父親で、息子ニモには過保護に接しています。ニモは6歳。何かと心配するマーリンに、うんざりしています。そこへ、ニモが初めて学校に通う日がやってきます。事實[1]
マーリンとニモは、ニモの右の胸びれを「幸運のヒレ」と呼んでいます。そのひれは生まれたときから小さく、ニモは泳ぎが得意ではありません。それでも親子とも、悪いことだとは受け取っていないのです。事實[1]
幸運のヒレ、だぞ。小さいヒレを、親子で幸運って呼ぶんだ。……泣けるじゃねぇか……!喜好
足りんところに名前を付けて、看板にする。道場でも、背の低い弟子ほど低い構えがうまくなる。名前を付けてやるのは、師匠の仕事じゃのう。解讀
でもよ、マーリンの心配性は、俺には耳が痛ぇ。俺は遠洋に出てて、子どもらのそばにいてやれなかった。心配する暇もなかった父ちゃんだ。喜好
そのぶん、奥方が家で見とったんじゃろう。心配は、誰かが引き受けとるもんじゃ。俺も旅に出ると連絡がつかんと、弟子たちに心配をかけてばかりでな。解讀
公園で気づいたこと
スタントンさんの中で、この映画はいくつかの体験が重なって形になりました。そのうちの一つが家族での外出です。息子が生まれて間もない1992年、出かけた先のマリン・ワールド(Marine World)で、サメのトンネルなどの展示を見て、海の中ならコンピュータアニメーションで美しく見せられると思ったそうです。別の体験は1997年のことです。息子と公園を歩いていたスタントンさんは、自分が過保護になっていて、その日いっしょに過ごせたはずの時間をふいにしたと気づきます。事實[2]
マーリンとニモのもとになったのは、一枚の写真だったとスタントンさんは話しています。写っていたのは、イソギンチャクから外をのぞく2匹のクマノミ。色は鮮やかなのに、イソギンチャクの外へはなかなか出てこない魚です。事實[2]
公園で気づいた、ってのがいいじゃねぇか。父ちゃんのしくじりも、きっかけの一つなんだな。解讀
自分のしくじりを物語にして、人に渡す。年寄りの説教より、よほど効く。解讀
潜って学んだ作り手たち
魚が本物らしく動くように、作り手たちは海そのものを学びに出かけました。行き先は水族館と、ハワイの海。アーティストたちは、サンゴ礁を知るためにスキューバダイビングの講習まで受けています。座学もありました。アニメーターは魚の生物学と海洋学を短期間で詰め込み、社内では魚類学者が講義をしています。事實[2]
絵を描く連中が、潜ったのか! それなら信用できる。海は、潜ってみねぇと分からねぇからな。喜好
学者の講義つきとは、ずいぶん手厚い稽古じゃ。型は、本物を見てから覚えるのがいちばんじゃからのう。解讀
ニモはどっちのクマノミか
カクレクマノミは、浅い海のサンゴ礁域にいる海水魚です。ハタゴイソギンチャクなどの仲間と寄り添って暮らします。体はオレンジ色で、白い帯が3本、ひれは黒。成魚で8センチメートルほどです。イソギンチャクは住みかであり、捕食者から身を隠す場所でもあります。触手には刺胞(毒針)がありますが、クマノミの仲間は耐性を持っています。国内では、沖縄の周辺や奄美大島から南の海に分布しています。事實[3]
映画『ファインディング・ニモ』に出てくるニモは、カクレクマノミだと紹介されました。ですが生物学の目で見ると、ニモは近縁種のペルクラ(Amphiprion percula)の特徴を持っています。ペルクラは色が鮮やかで、背びれの鰭条の数は、カクレクマノミが11本のところ10本です。目の虹彩は明るいオレンジ色なので、目が小さく見えます。カクレクマノミは虹彩が黒く、そのぶん目が大きく見えます。事實[3]
俺は沖縄の海で潜ったとき、イソギンチャクの中のやつを見たことがある。顔だけ出して、こっちを見てた。……でも、背びれのすじなんて数えたことなかったぞ。喜好
ははは。目の大きさで見分けるとは、人相見のようじゃのう。
今度チビたちと観るときは、ニモの目を見る。大きく見えるか、小さく見えるか。答えは、画面の中で確かめる。喜好
それがええ。で、ゲン。学校に行ったあと、ニモはどうなる。
言わねぇ! 師範も、自分で観てくれ。チビたちの隣でな。
わかった、わかった。……おい、アジが焦げるぞ。
『ファインディング・ニモ』のニモはカクレクマノミとして紹介されたが、生物学的には近縁種ペルクラの特徴を備えている。見分ける手がかりの一つは目で、ペルクラは虹彩が明るいオレンジ色なので目が小さく見える。