6選の五本目は『うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVE1000%』です。アイドルたちの毎日は、休憩室のゲームで五分ずつのぞくものだと思っていました。それが、夜勤明けにいちばん手が伸びるアニメになるとは、自分でも思っていませんでした。
五分のつもりが一話ぶんに
生身の役者さんばかり追いかけてきたので、アイドルの物語を一話ぶん腰を据えて観るのは、私には少し新しいことでした。観はじめたのは、夜勤明けの朝、頭がまだ病棟から帰ってこない日に、重くないものを探していたからです。カーテンを閉めて、一話だけ。そのつもりが、気づけば毎回最後まで観て、眠る前の決まりごとになっていました。喜好
眠る前の三十分の段取り
夜勤明けの朝は、段取りが決まっています。帰ったら手を洗って、コップ一杯の水。遮光のカーテンを閉めて、スマホの目覚ましを夕方に合わせる。それから布団の上で一話。物語の続きが気になっても、二話目には進みません。眠る前に一話だけ、と決めておくと、頭の中の病棟の音が少しずつ遠くなって、画面の中の学園の音に置きかわっていく。体のほうが先に、もう寝ていいと分かるんです。喜好
どんなアニメか
原作はブロッコリーのゲームで、そのテレビアニメの第一期がこの『マジLOVE1000%』です。アニメーションの制作はA-1 Pictures。事實[1]
主人公は、作曲家になりたい七海春歌。アイドルや作曲家を育てる芸能の学校、早乙女学園に入った彼女は、アイドルを目指す男子生徒とパートナーを組み、卒業のときのオーディションに向けて曲を作っていきます。事實[1]
曲を書く人の席
私がこの作品でいちばん長く見ているのは、歌う男の子たちより、曲を書く春歌さんのほうかもしれません。ステージの真ん中には立たない。でも、彼女の書いた曲がなければ、誰も歌いはじめられない。舞台でいえば、客席からは見えない袖の側の人です。支える側の人が、物語の主人公として真ん中に置かれている。舞台を客席からしか観てこなかった私には、それが新鮮でした。曲が完成する場面よりも、書きかけの楽譜を前に考えこんでいる場面のほうに、私はなぜか長く目が留まります。解讀
組む相手で一晩が変わる
作る人と歌う人が組む、という学園の決まりを、私はつい夜勤に重ねて観ます。夜勤は、何人かで組んで一晩を越える仕事です。誰と組むかで、同じ病棟の同じ夜でも、呼吸の合い方がまるで変わる。言葉で全部を説明しなくても、相手の手が次に何を取りに行くか分かる夜がある。曲を渡す人と、受け取って声にする人のあいだにも、そういう一晩があるように見えます。私が組んで安心できたのは、黙って先に水を置いてくれる人でした。この学園の二人組にも、それぞれのやり方の「水の置き方」がある気がします。解讀
努力の跡が見える人
好きなキャラクターは一ノ瀬トキヤです。理由を一つだけ言うなら、努力の跡が見える人だから。何でも涼しい顔でこなしているように見せたい人が、ふとした場面で、その顔を保つためにどれだけ準備してきたかをのぞかせる。私には、歌に対していちばん不器用なくらい誠実な人に見えます。努力は、本番では見えないほうがいい、という考え方もあります。でも私は、見えてしまう努力のほうに、どうしても目が行く。……私ひとりの受け取り方ですけれど。解讀
にぎやかすぎる学園
学園の場面は、思いきりにぎやかで、ちょっと笑えるくらい大げさです。夜勤明けの重たい頭には、そのくらいの明るさがちょうどよかった。真剣な練習の場面と、ばかばかしいほど騒がしい場面が交互に来るので、気を張りっぱなしにならずに最後まで観られます。喜好
歌いはじめる前の顔
歌の場面で私が見ているのは、歌いはじめる直前の顔です。曲が流れはじめて、最初の声を出すまでの、ほんの一瞬。それまで言い合いをしていた子も、自信のなさそうだった子も、そこで顔つきが変わる。舞台の役者さんが、袖から光の中へ出る直前の顔と同じです。絵で描かれた人の顔に、その一瞬があるのがうれしくて、夜勤明けのぼんやりした頭でも、そこだけは目を開けて待っています。喜好
照れくさいと感じる人へ
最初の数分のきらきらに照れくさくなるのは、自然なことだと思います。私は、春歌さんが曲を書こうとしている場面から好きになりました。歌う側より先に、作る側の目で観ると、アイドルものの見え方が少し変わる。休憩室でこのアニメの話をしていた後輩に、そのあと舞台のDVDを貸したら、その子はいま、私と同じように劇場へ通っています。入口はどこでもいいんだと、そのとき思いました。私が貸したのは舞台のほうでしたが、話のきっかけはこのアニメでした。喜好
声と舞台のあいだに
声だけで人が別の人になる『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』と、生身の人が役になる舞台の作品たち。この作品は、そのあいだに立っています。絵の中の男の子たちが、渡された曲で一人ずつ自分の声を見つけていく。夜勤明けの朝、眠る前の三十分は、いまも私の一日の区切りです。眠りに落ちる直前まで耳に残っているのは、たいてい誰かの歌いはじめの一声です。その声を連れて眠ると、次の勤務の朝が、少しだけ軽くなります。喜好
歌う人の隣には、曲を書く人がいる。きらきらした画面の中の、その組み方から観てみると、アイドルものの入口が少し広がる。
