最後の一本は『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』。遠い宇宙の騎士の物語の、いちばん暗い一本である。重い一本ゆえ、観る日は選ぶ。このシリーズの話なら余はいくらでもできるが、この一本の中身になると、どうにも口が重くなる。
三台を並べぬ夜
余は普段、城の寝所の隣の部屋で、タブレットを三台並べて三本を同時に観る。左で新しいもの、中で観なおし、右で生配信の切れ端。だがこの一本だけは、三台を並べぬ。一台だけを残し、ほかの二台は伏せる。灯りを落とし、ヘッドホンを角に掛け直す。それが済んで、やっと指が動く。そうでもしないと、この重さを受け止めきれぬ気がするのだ。観る日を選ぶ、とは言っても、決まりがあるわけではない。政がうまく片づき、じいやの機嫌がよく、余の腹が満ちている晩。その三つがそろう日は、なかなか来ぬ。喜好
遠い宇宙の騎士の物語は、見放題にあるものを片端から観た。作り手の裏話まで追いかけた。帳面には、このシリーズの欄だけ別に頁を立ててある。じいやは、その頁の清書をたいそう嫌がる。名前が長いうえに、余の書きこみが多すぎるらしい。喜好
揺れる若い騎士
監督と脚本はジョージ・ルーカス。新しい三部作の締めくくりで、シリーズの映画としては六本目にあたる。音楽はジョン・ウィリアムズが手がけた。事实[2]
クローンの兵を率いたジェダイの騎士たちが、各地でドロイドの軍とぶつかり合う戦争のさなか。共和国の最高議長パルパティーンが敵の手に落ち、救い出す役目を負ったのが、若いアナキン・スカイウォーカーと、オビ=ワン・ケノービの二人である。だがアナキンの胸の内は穏やかではない。ジェダイとしての忠誠と、パドメへの秘めた愛。その二つのあいだで、若い騎士は揺れている。事实[1]
第一に願いが強すぎる者の顔
若い騎士は、大事な者を守りたいと願う。願うことそのものは、何も悪くない。だが、願いが強すぎる者の顔を、余はよく知っておる。眉間に力が入り、周りの声が耳に届かなくなる顔だ。助言をくれる者がいても、その言葉が、なぜか遠くから聞こえる。……どこで知ったかは、言わぬ。余は、この若者を責める気になれぬ。守るものが多い者ほど焦る。王であれば、なおのことよく分かる。この一本で余が見ているのは、剣の腕でも、宇宙の戦の派手さでもない。その顔一つである。役者がその顔を少しずつ深めていくのを、余は一台の画面に額を寄せるようにして観る。解读
第二に余は音の話に逃げる
この一本の中身を語ろうとすると、余はなぜか音の話を始めてしまう。先日も、画面越しにカグラ殿と話していて、そうなった。喜好
その一本は、どこで観たんですか。いつもの三台並べて、ですか。
いや、一台きりである。寝所の隣の部屋で、音を上げてな。
それなら、いつか一回だけ、劇場の大きい音でも観てみてください。光る剣がぶつかる音、体の奥まで来ますよ。喜好
ちなみに、であるが。あの光る剣の音は、ベン・バートという音の職人が、古い映写機のモーターのうなりに、別の雑音を重ねて作ったものだ。事实[4]
映写機の音、ですか。私、あの音を聞いて育ったようなものなので、ちょっとうれしいです。
であろう。第二に、小さな機械のR2-D2の声も同じ職人の仕事で、本人の声とシンセサイザーの音を混ぜてある。事实[7]
第三に、この一本では、その職人が編集にも名を連ねて——事实[2]
そこから先は、終映後のロビーで伺いますね。……いま、映画の中身の話はひとつも出てませんでしたよ。
……うむ。余としたことが。
言われるまで気づかなんだ。この一本の話をしようとすると、余の口は勝手に音の裏話へ逃げていく。逃げておるのだと、カグラ殿の一言でようやく分かった。それでも、劇場の大きい音で観よ、という誘いにだけは、まだ首を縦に振れておらぬ。城を空けるわけにはいかぬのでな。喜好
第三に楽隊の響きに支えられる
重い場面が続いても、余が最後まで観られるのは、楽隊の響きのおかげだ。勇ましい調べも、沈んだ調べも、物語の手前でこちらの背中を支えてくれる。剣の音と機械の鳴き声と楽隊の響き。この三つが、余にとってこの一本の手すりである。手すりがあるから、暗い階段を降りてゆける。余は観終えたあと、しばらく画面を消さずに、最後の調べが鳴りやむまで座っておる。喜好
暗さに二の足を踏む者へ
暗い話と聞いて二の足を踏む気持ちは、余にも分かる。だから余は、まず音を聴くつもりで観た。耳に足場をつくってから物語に入ると、重さに押しつぶされずにすむ。それに、この一本の前にある騎士たちの物語を観ておくと、一人ひとりの顔が見分けやすくなる。余は観る日を選んだうえで、観終えたら必ず厨房へ行き、何か温かいものを口にすることにしておる。それでも気が乗らぬ晩は、無理をせぬ。余は一度、再生の前で一刻ほど座りこみ、結局その晩は別の作品を観た。夜中に起こされる料理番には、いつも済まぬと思っている。喜好
好きな三人を並べてみる
余の好きな人物は三人いる。この若い騎士アナキンと、『SUITS/スーツ』のハーヴィー、『ヴァイキング~海の覇者たち~』のラグナルである。勝ちにこだわる者、確かめに行く者、守りたいと願う者。三人とも、何かを強く欲しがる顔をしておる。ほかの二人の物語は、余は笑って何度でも観なおせる。この一本だけは、そうはいかぬ。笑って観られる物語と、観る日を選ぶ物語。その両方があるから、余の帳面は厚くなってゆく。……重い一本だ。喜好
守りたいという願いは、強すぎると顔つきを変える。余はこの一本で、その顔から目をそらさぬようにしている。