土曜の昼、原宿のルカーノの店の奥にある工房。お母さんにあずけられたソウタは、作業台のはしで木のブロックをならべていました。ルカーノおじさんは店先でお客さんの相手をしています。工房では、衣装の相談に寄ったレイが、小さな木の人形の腕に、細い布を巻いていました。
木の人形がうごきだす
ねえ、レイさん。それ、ピノキオみたい。
ピノキオ、知ってるんだ。
うん。このまえ、ルカーノおじさんのうちでみたの。ふるいディズニーのえいが。ゼペットさんがつくった人形が、うごくの。
『ピノキオ』は、ウォルト・ディズニー・プロダクションの長編アニメーション映画で、公開は1940年2月7日です。監督はベン・シャープスティーンさんとハミルトン・ラスクさん。原作は、カルロ・コッローディの童話『ピノッキオの冒険』です。事实[1]
あやつり人形のピノキオを作ったのは、子どものいないおもちゃ職人のゼペット。星に向かって、この人形が自分の子になりますように、と願います。その夜、ブルー・フェアリーがやって来てピノキオに命を与え、そのそばにいたジミニー・クリケットというコオロギに、良心の役目をまかせます。事实[1]
ねえ、りょうしんってなに? おとうさんとおかあさんのこと?
それは「両親」。こっちの「良心」は、自分の中にいて、それはやめておこう、って言ってくれる声のこと。解读
じゃあ、ジミニーは、ピノキオのなかのこえなの? でも、コオロギだよ。そとにいるよ。解读
そう、外にいる。声が自分の外にいると、言い返したり、相談したりできる。そこがいいところだと思う。解读
げんさくのコオロギ
映画づくりは、すんなりとは進みませんでした。原作は社会を風刺する小説で、主人公もいたずらっ子。ウォルト・ディズニーさんは話の作り方に何か月も悩み、いったん制作を止めます。止まっているうちに、ピノキオは無邪気な子に変わりました。原作ではすぐ出番の終わるコオロギも、ピノキオの良心で、物語の語り手でもあるジミニー・クリケットという大事な役に生まれ変わります。事实[1]
えっ、げんさくだと、コオロギはすぐいなくなっちゃうの?
うん。映画を作った人たちが、出番を大きくしたんだって。事实[1]
ぼく、ずかんで、まけた生きもののページもさいごまでよむの。ちっちゃいコオロギが、えいがでいっぱいでてくるの、うれしい。喜好
ジミニー・クリケットは、もとはお金のないコオロギで、ゼペットの家に入りこんでいました。最初の服はつぎはぎだらけ。ブルー・フェアリーから服をもらってからは、タキシードふうの上着とシルクハットで通します。事实[1]
待って、ここ。つぎはぎの服から、タキシードとシルクハット。役目をもらったところで、服も変わるんだ。……衣装を作る人間としては、そこがいちばん気になる。解读
へんしんのまえに「やる」ってきめるとこと、にてるかも。ジミニーも、やるってきめたから、ふくがかわったのかな。解读
しゃべる丸太と松の木
原作の『ピノッキオの冒険』は、1881〜82年に週刊雑誌で「操り人形の物語」として連載され、題を変えて1883年に本になりました。お話は、大工のチリエージャ親方が、しゃべる丸太を見つけるところから始まります。チリエージャはサクランボのことで、親方の鼻の形と色からついた呼び名です。丸太はゼペットじいさんが人形に仕立てて、ピノッキオと名づけました。事实[2]
まるたが、しゃべるの? それに、はなが、サクランボ!
ピノッキオ(Pinocchio)の「ピノ(Pino)」は、松のことです。事实[2]
まつ! じゃあ、ピノキオは、まつの木でできてるの?
名前に松が入ってる、まではわかる。何の木で彫ったのかは、私はわからない。わからないことは、わからないままにしておこう。
それだったら、ルカーノおじさんにもきいてみる。
コッローディはむらのなまえ
作者のカルロ・コッローディは、イタリアの作家で、本名はカルロ・ロレンツィーニ。フィレンツェの出身です。「コッローディ」というペンネームは、ルッカ県にある農村の名前で、お母さんのふるさとです。子ども時代の大部分を過ごしたのも、この農村でした。事实[3]
むらのなまえを、じぶんのなまえにしたの? ぼくも、ゲームでつかうなまえ、すきなばしょのなまえにしようかな。喜好
いいと思う。ゲームでは、本当の名前より、そっちのほうが安心だしね。
はじめてみる人へ
はじめてみる人は、ジミニーのふくをみて。さいしょは、つぎはぎなの。喜好
ゼペットが作るのは、おもちゃだけではありません。からくり時計やオルゴールもあります。家にはフィガロという猫と、クレオという金魚が一緒に暮らしています。事实[1]
私は、ゼペットの工房の棚を見る。作るものが多い人の棚は、だいたい面白いから。喜好
ここも、こうぼうだね。
そう。ルカーノさんの棚も、かなり面白い。……ソウタくん、この人形にも名前をつけてくれる?
ピノ。まつの木じゃないかもしれないけど。喜好
映画『ピノキオ』の原作は、コッローディの『ピノッキオの冒険』。原作では早くに出番が終わるコオロギを、映画はピノキオの良心で語り手のジミニー・クリケットにした。